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ソードアート・オンライン もう一人の主人公の物語

作者:マルバ
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SAO編 主人公:マルバ
壊れゆく世界◆最終決戦
  第四十四話 ラストバトル

 
前書き
最後の……最期の戦いです。 

 
「お前らはやめておけ。リスクがでかすぎる。やるのは、俺だ」
 ミズキが盾から剣を抜き、床に突き立てた。マルバはシリカと一瞬顔を見合わせると、ミズキを説得にかかった。
「ミズキ、ここでやるのは得策じゃない。いつものボス戦と同じように、今回も《神聖剣》の分析をして、しっかり対策をして臨むべきだよ」
「そうかもしれない。でもな、ここでクリアできれば、ここにいる全員が生還できる。百層まで行って攻略するなら、犠牲は必ず増える。可能性があるなら、いまやるべきなんだ」
「可能性――可能性って、もし失敗したらミズキが死ぬんだよ! ここで死ぬ可能性だって十分にあるのに、それでも行くっていうの!?」
 マルバは必死に叫ぶが、その説得は功を奏さなかった。ミズキは頷いて告げた。
「その通りだ」
「なんで――なんでそんなこと言うんだ! そうだ、さっきミズキは自分で言ったじゃないか、リスクがでかすぎるからやめておけって! 負けたら君は死ぬんだ、これ以上でかいリスクがどこにあるっていうんだ!」
 マルバの問いかけに、ミズキは一言で返した。
「いや、それは間違っている。これ以上小さなリスクは他にない。俺の命はこの場の誰のものよりも軽い」
 その瞬間、マルバの拳がミズキの頬にめり込んだ。ミズキは軽く二メートル半ほど吹っ飛んで倒れこんだ。
「ミズキぃッ! 君は……ッ! 君はなんてことをぉおッ!」
 マルバがミズキにのしかかった。二発目を殴りつける。そしてもう一度拳を振り上げたが、彼はそのまま固まると、力が抜けたようにミズキの胸に倒れこんだ。麻痺だ。ヒースクリフがついにマルバにも麻痺をかけたのだった。
 ミズキはマルバを横に転がすと、なんとか立ち上がった。無様に転がったマルバに別れのあいさつを告げる。
「……今まで、お前といれて楽しかった。うまくこいつに勝てたら、次は現実世界で会おう」
「ミズキ……君は……何故……」
 マルバは涙を流していた。ミズキはマルバに背を向けると、アイリアに顔を向けた。
「アイリア、お前はこんな俺をずっと支えてくれた。お前に会えて良かったよ。本当に、感謝している。……俺が死んでも、前を向いて生きろよ」
 アイリアは当然ミズキを止めるはずだと、マルバはそう思った。しかし、彼女はあろうことかミズキの言葉に頷いて、別れのあいさつまで言い出した。
「……私も、ミズキに会えてよかった。ミズキを好きになってよかった。……最後まで、ミズキと一緒にいて良かった。また会えるように、応援してる。もし駄目でも、あの誓い(、、、、)は守るから」
 アイリアは涙を流して、つっかえながらそう言った。マルバはアイリアの台詞が信じられず、アイリアとミズキを一緒くたに責めようとするも、あまりのことに言葉が出ない。ミズキは最後にシリカに語りかけた。
「お前とマルバのおかげで、俺はずいぶんと助けられた。これからもマルバと仲良くやっていってくれ」
「ミズキさん……なんで! なんでそんな、ここで死ぬのが当たり前みたいな挨拶してるんですか! どうして、なんでここでどうしても決着をつけなきゃいけないんですか……ッ!」
 シリカの悲痛な叫びに、ミズキはついに真実を告げた。

「俺は百層まで辿りつけない。分かるんだよ、死ぬときが近づいてきやがるのが。むしろここまで生きたのが奇跡だったんだと思うぜ。最近は頭痛が酷ぇし……それに一瞬でも気を抜くと、意識を失いそうになる。たぶん、脳になにか異常が出てきたんだろうな。ナーヴギアから一度も出てねぇから、医者たちも手が出せねぇんだろうよ。だからこそ、これは唯一の好機なんだ。ここで俺が奴を倒すことは、俺がお前たちと共に生きるための唯一の手段だっつーことだ。……俺は生き残るために、ここで奴を倒す」

 あたりは静まり返った。この事実を聞いて、彼を止められるものは誰もいない。最後に、マルバが搾り出すように言った。
「必ず勝って……一緒に戻るんだ、現実世界へ。絶対に見舞いに行く。死ぬんじゃないよ、ミズキ」
「当然だ。俺はここで勝って生きて帰る」

 ミズキは床に転がった自分の剣を取り上げ、その切っ先で倒すべき敵をびしりと指した。
「さあ……勝負だ、ヒースクリフ」
 ヒースクリフ――茅場晶彦が画面を操作すると、ミズキとヒースクリフのHPが調節された。不死属性を解除したと知らせるメッセージウィンドウが表示され、彼はその表示を一瞥すると床に付き立てた長剣を抜き、十字盾の後ろに構えた。


 ミズキが先に動いた。敏捷型の彼の全力の駆けはすさまじい速度で、そこにいるプレイヤーたちには残像さえ見えた。ヒースクリフの目前で向きを変え、盾で相手の盾を横殴りに殴りつける。ヒースクリフの盾の内側から長剣が目にも留まらぬ速さで繰り出され、ミズキはそれを紙一重で避けた。
 横で見ているプレイヤー達は、あまりにも高度であまりにも素早く――あまりにも人間的なその戦いを、目で追うことすらままならなかった。盾と剣がぶつかる音が絶え間なく響く。
 ミズキの剣がヒースクリフの髪に触れ、ヒースクリフの突きがミズキの盾に刺さる。返す刀がヒースクリフの鼻先を掠め、二段突きがミズキの籠手を砕いた。
 両者の実力は拮抗しているかに見えたが――盾の重さと筋力パラメータの優劣だけは誰が見ても明らかだった。ミズキの盾はヒースクリフのそれに比べてあまりにも軽かった。ミズキの斬撃をまったく危なげなく受け止めるヒースクリフの盾に対し、ミズキの盾は攻撃を受け止める度に左右に大きくぶれる。何度目の攻撃だろうか、ミズキがヒースクリフの剣を受け流すことに失敗し、その斬りを盾でまともに受けてしまったとき――ミズキは、遠くへと跳ね飛ばされる盾の内側から、ヒースクリフが勝利の笑みを浮かべるのを見た。

 ――ヒースクリフの長剣が音もなくミズキの胸へと吸い込まれていく――

 その瞬間、不可解なことが起こった。ミズキの軽鎧とヒースクリフの直剣の間の空間に亀裂が走った。ヒースクリフの直剣はその亀裂に突き刺さり、大きく弾かれた。一方ミズキは亀裂に身体を半分飲み込まれた。ミズキの身体が雷に打たれたかのように痙攣し、ミズキはあまりの苦痛に顔を歪ませた。しかし意志の力で身体の痙攣を押さえ込んだのだろうか、彼は体勢を崩したヒースクリフに追いすがるように攻撃を繰り出した。
 ヒースクリフはミズキの剣に対応しようと盾に力を込めたが、ミズキの表情に一瞬気を取られた。ミズキは既にヒースクリフを見ていない。どこか遠く、彼方を睨みつけていた。見ていないのではない――見えていないのだ。ミズキはこの最後の瞬間に、視力を失っていた。
 しかし――彼の攻撃は的確だった。まるでミズキ自身は意識を放棄しつつも、その意志だけが剣に宿ったかのようだった。ヒースクリフは彼の剣をぎりぎりで防げなかった――間に合わなかったのだ。ミズキの剣はヒースクリフの胸に突き刺さった。

 空間の亀裂は更に広がっていた。そこら中にノイズが走り、謎の破裂音が響く度に空間に小さな亀裂が生じ、亀裂からは白い雷の光が断続的に降り注いだ。一際大きな音と光が走ると――そこにもうヒースクリフはいなかった。途端に嵐のような光と音が止んだ。空間の亀裂も閉じた。

 誰も何も言わなかった。ミズキはただ一人、攻撃した時の不安定な体勢でその場に固まっていた。重心は両足の上にはなく、彼が重力に引かれて倒れるのは当然のはずだったが、しかし彼は倒れる様子を見せなかった。空間に残されたミズキの剣もしばらく空中に静止していたが、突然思い出したように落下して大きな音を立てた。その音が合図になったのだろうか――剣が一度弾み、再び地面に接した時には、既にミズキの姿はそこになかった。ミズキの代わりに、その場には一つのシステムアラートだけが残された。

 【DISCONNECTED】


第五部 終 
 

 
後書き
うわああああミズキ死んじゃったあああああ(ネタバレ)
次回は黄泉の国というか三途の川というかそういう所で話が進みます。

さて、以前に11月に入るころには忙しくなって更新できなくなるだろうと書きましたが、予定より早くかなり忙しくなったので、もはや更新作業ができそうにありません。
仕方がないので現在までに書き溜めた分を10月中に全部放出してしまい、そこで一旦筆をおきたいと思います。しばらく週三回更新になりますが、よろしくお願いします。毎週月・木・土曜の午後五時更新です。 
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