魔法少女リリカルなのは~その者の行く末は…………~
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volume-4 advance notice
前書き
予告。
訓練スペースから見える高台で海に向かって足を放り出して黄昏る青年がいた。それを見つけた少女たちがその青年に近づくと驚きに目を見開いた。
「えっ……り、燐夜、君……?」
「ああ、久しぶりだな。なのは、フェイト。……はやてはいないのか」
「ずっと……ずっと、会いたかった、燐夜」
「今までどこに行ってたのっ!!」
10年の時を経て、再会する。だが、それは、今まで止まっていた歯車を再び動かした。
「ここで、この機動六課に新たに二人配属されます。では、お願いします」
そこには、煌めく銀髪を腰まで靡かせた女性と、同じような銀髪を目にかかる程度まで伸ばした青年が立っていた。
「リインフォース・アインス一等空尉だ。短い間ではあるが、よろしく頼む」
女性――――アインスは、慣れているのか、戸惑うことなくすらすらとあいさつを済ませる。しかし、青年の方は戸惑っている。管理局員を前にして、若干緊張したように頭をかく。一通り見渡すと諦めたように溜め息をついた。
「あー……三桜燐夜だ。階級は……何だったかな?」
「ハアッ……忘れたのか、自分の階級さえ。まったく…………ほら、お前の管理局員証だ」
アインスは燐夜の前にモニターを開くと燐夜の局員証を見せる。
「三等空佐なのか、俺」
――――chapter-final Final story~selection of youth,feelings go off to not reach~――――
「聞きたいことがあるんや。その聞きたいことはな、闇の書の闇がどうなったのか」
はやての真っ直ぐな瞳が迷いなく燐夜に向けられる。燐夜は気まずそうに目を背けながら言った。
「実は……まだ止められていないんだ」
「どうして……10年もあったのに止まってないんや?」
「それは分からない。けれど、その力は日々強まってきている、暴走もそう遠くない話だ」
「そうだ。もし、その時が来てしまったら、私が燐夜を殺す算段になっている」
二人のもとにアインスがやって来て、燐夜の話に付け加えた。
「そんな……そんなことって……有り得へん、有り得へんやろっ!!」
――――そして、不思議なところでかみ合う歯車。
「ティアナ、お前の兄は俺が殺した様なものだ」
突然告げられた真実。ティアナはただ癇癪を起して青年を攻め立てるしかなかった。
「ならどうしろっていうんですか、あなたは!?」
知りたくもなかった真実。信じていた筈の人から話される衝撃。兄のために見返すと息巻いていたティアナを壊すには十分だった。
そしてそんなティアナに告げられた『チャンス』。それがティアナをさらに崩壊の道へと辿らせる。
「俺が憎いなら殺傷設定にして殺せばいい。別に逃げたりはしない。ただ、抵抗はさせてもらうがな」
そんな言葉にティアナは燐夜を狙い続けるも成功したためしがない。当時、管理局の切り札とまで呼ばれていた燐夜に手傷すら負わせられない。
当然、燐夜とティアナの関係だけでなく、部隊との関係も悪化するばかりである。――――そして、とうとう決定的な事件が起こる。
「どうして殺したの!? 殺す必要なんてないのにっ!!」
基本確保が原則の管路局で、犯罪者を躊躇いもなく斬り捨てた燐夜に詰め寄るなのは。無言を貫く燐夜の前にはやてが辛そうでありながらも己を律して言葉なく立っていた。――――口が開かれた。
「部隊長命令や。三桜燐夜三等空佐。あなたに処分を言い渡します」
処分を言い渡された燐夜は、六課から消えた。
「大変や! 燐夜君がどこにもおらんようになってんねん!」
「寮にいるんじゃないの?」
「それがおらんのや」
「ちっ……今のお前は危うい。頼むから暴走しないでくれよ。私はお前を殺したくないんだ」
六課で話題の中心にいる燐夜は、人気のない所にいた。蒼い炎と黒い炎が不規則に身体から立ち昇っている。
「俺はもう止められない。誰にも、自分でさえも」
そう口にした燐夜には言い寄れぬ雰囲気……言い換えるならば覚悟が伺えた。そして突然辺りが揺れ始めた。
「始まったのか、ゆりかご計画」
次元犯罪者、ジェイル・スカリエッティとナンバーズ対管理局機動六課。後にJS事件として伝わる、ミッドチルダだけでなく、管理世界全体の平和が脅かされた事件の幕開けだった。
そして、燐夜はこの大きな出来事にスカリエッティ側として参加する。――――そう、ゆりかご計画に燐夜は加担しているのだ。
そんな戦場を六課の隊員たちのおかげで立ち直れたティアナは、親友であり、相棒である少女と駆けていた。
「ところで燐夜さんって何考えてんだろう?」
「そんなの分かるわけないわよ。ほら、スバル。来たわよ!」
順調かつ慎重に進む少女たちの前に、かつて仲間であったはずの人が目の前に立ち塞がる。無表情であるのが返って威圧感を増す結果となっているが、少女たちは臆することなく立ち向かっていく。
「私たちの邪魔をしないでください。これ以上邪魔をするなら、あなたを次元犯罪者として逮捕します」
反応はあった。ただそれは少女たちにハイぺリオンの銃口を向けることだった。しかし、攻撃はしてこない。ゆりかごに響く爆音と揺れで分かりにくくはあるが、ハイぺリオンを持っていない方の手が震えていた。
「もう少し我慢してくれ、ナハトヴァール」
その同時刻、なのはは一人の少女と向かい合っていた。その少女の姿にどこかで見たことのある姿を重ねていた。昔の自分、昔のフェイト、昔のはやて……昔も、今も変わらない燐夜。
「ママを返してっ!!」
そう叫ぶ少女を見るたびに心が締め付けられるように苦しくなってくる。
――――どうして……どうして。
「私のことが分からないの…………っ!!」
――――助けてあげたい…………っ!!
そんな気持ちばかり浮かんでは消えてを繰り返し、焦って、思うようにいかなかった。
◯
時は満ちた。
本能的に感じた燐夜は、管理局からかけられていたリミッター。自分でかけていたリミッターのすべてを破った。
「いくぞ、ナハトヴァール。すべてを喰らい尽くせっ!!」
激化する戦い。
ジェイル・スカリエッティはもう終わった。すべきことはもう成しているのに戦い……狂気は止まない。
「これ以上戦う意味なんてないのに……どうして戦う事を止めないんや……っ!!」
はやては戦場の中、顔を苦痛にゆがめる。戦う事を止めない人々を見て哀しくなってくる。もはや、戦争。当時、古代ベルカ時代に怒っていた戦乱を繰り返しているかのようだった。ただ、それと違っている点もある。管理局側は、基本確保に回らなければならないことにあった。もう一方は、殺しを躊躇ってしまう点にあった。
そんな中、お互いの指揮官……いや、エース同士がぶつかる。
「三桜。もうお前には負けない。負けっぱなしは俺の同義に反する」
「神か。……お前は俺に勝つことは叶わない。俺とお前の間には、決定的な差があるからだ」
「ああ、知っている。だから、それを埋めるためにある執務官に手伝ってもらうんだからな」
DSAAでも滅多に見ることのできない戦い。もはや肉眼で捉えることは不可能に近かった。だが、そんな戦いでも終わりは必然的にやってくる。そして、それは、燐夜の望みが叶う瞬間でもあった。
「とうとうこの時が来たのか……」
ゆりかご内からの撤退を完了させた管理局は、ゆりかごに向かって次元法を打ち出そうとしていた。だが、重要参考人燐夜をはじめとしてナンバーズ数人はまだ出てきていない。
「待ってクロノ君!! まだあの中には燐夜君がっ……燐夜君が……私の大切な人がまだいるんだよ!!?」
なのはがクロノを止める。だが、クロノは止まらない。勢い余って自分が望まない形で自らの想いを言葉にしたなのは。恥ずかしがる暇もない。フェイトもそんななのはに後押しされた。
「やめてっ!! クロノ!!」
だが、友人との友情よりも管理局の組織体制を取るクロノ。上からの命令は絶対遵守。それに加えて、もともと堅物だったクロノ。そんな性格と相まってなのはたちが取り付く余地もなかった。
「これは上からの命令であり、決定事項だ。覆すことはできない」
「「だめぇぇぇぇぇぇぇぇぇえええええええええぇぇぇぇぇぇぇーーーーーーーー!!!!!!」」
「アルカンシェル、掃射」
なのはとフェイトの制止も空しく、無慈悲に放たれた砲撃の雨。それらはすべてゆりかごに直撃した。
「……思えば、あまり話をしたことがなかったな。三桜燐夜三等空佐」
それが、青年の選択で。
それが、少女の想いで。
これが、届かずに果てる想いで。
そして、心の中にあり続ける昔の思い出で。
これが喜びと、怒りと、悲しみと、嬉しさと、苦痛と、絶望と、再会と、再開の物語。
――――chapter-final Final story~selection of youth,feelings go off to not reach~――――
――――最終章。青年の選択と届かずに果てる想い。
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