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プリン☆アラモード

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プリン☆アラモード

                          プリン☆アラモード
 南條幾多郎はだ。プリンが大好きである。
 物心ついたその時にはだ。もうだった。
 おやつにしょっちゅうプリンを食べていた。流石にいつもプリンではないがそれでもだ。プリンを食べていた。
 勿論大好物になった。彼はおやつやデザートにプリンを食べればそれで幸せになれた。それでだ。自分の母親にもだ。いつも笑顔でこう話していた。
「僕プリンがあればそれだけで幸せだよ」
「あら、プリンがあるだけでなの」
「そう、幸せになれるんだ」
 にこやかに笑ってだ。こう母に言うのである。
「プリンって美味しいよね。その美味しいものを食べられるからね」
「そうなのね」
 その話を聞いてだ。母もだ。
 優しい笑顔になってだ。我が子に言うのだった。
「好きなものを食べられるから。幸せなのね」
「違うかな、それって」
「いいえ、そうよ」
 その通りだとだ。我が子に話した。
「美味しいものが食べられる。そしてそれが好きなものなら余計にね」
「幸せだよね」
「幸せっていうのはね」
 自分の息子にだ。この機会に教えた。このことを。
「それは凄く小さなことなのよ」
「小さなこと?幸せが?」
「そうなのよ。小さいけれどそれでもね」
 それでもだとだ。母は話すのだ。
「それがないと。幸せにはなれないのよ」
「プリンがないとだよね」
「幾多郎の場合はそうね」
 まだ幼い我が子に対しての言葉だ。
「だから。その幸せは忘れないでいなさい。いいわね」
「うん」
 こんなことをだ。幾多郎は幼い頃に母に言われた。母にしてはこのことは我が子への躾、数多くするべきそれのうちの一つに過ぎなかった。しかしである。
 彼の心には母のこの言葉が強く残りだ。何時までも覚えていた。
 そしてそのうえでだ。大人になってもだ。
 彼はプリンが好きだった。デザートにはしょっちゅう食べていた。無論他の甘いものも好きでケーキやアイスクリームといったものも好んで食べる。しかし何といってもプリンが一番だった。
 そのプリンを食べる彼にだ。彼女がこんなことを言った。大人になって恋というものを知ってそのうえで知り合った彼女だ。同じ職場にいて今では結婚を前提に交際している。そうした温かい絆を育んでいる相手である。その彼女にだ。彼は言われたのだった。
「何かプリンを食べる時のあんたってさ」
「僕が?どうしたっていうの?」
「何か凄く幸せそうね」
 にこりと笑ってだ。そのうえで彼にこう話したのである。
「とびきりの御馳走を食べて満足しているような。そうした顔になってるわよ」
「そうかもね」
 彼はだ。恋人のその言葉を否定しなかった。
 それでだ。恋人にこう返したのだった。
「実際に今凄い幸せだし」
「そんなに幸せなの?」
「うん、だってさ」
 何故幸せに感じているのか。そのことも話すのだった。
「好きな食べ物をこうして食べているじゃない。それって幸せなことじゃない」
「それはそうだけれど何か些細ね」
 恋人は彼の話を聞いてだ。こう言うのだった。
「それって」
「そうかもね。それでもね」
「幸せなのね」
「うん、とても幸せだよ」
 笑顔で応える。
「本当にね」
「些細な幸せね」
 恋人は彼の話を最後まで述べた。
 しかしだ。その顔は微笑んでいてだ。彼に言った。彼女は幾多郎を見ている。ただ彼を見ているのではない。彼のその心、即ち彼の本当の姿を見てだ。そのうえで微笑んでいるのである。だからこそだ。彼女のその微笑みも純粋なもので。幾多郎が見てもだ。彼自身もまた微笑んでしまうような、そうした微笑みだった。
「けれど。幸せよね」
「とてもね」
「なら。私にもその幸せを分けてくれるかしら」
「君もって?」
「私もプリン食べていいかしら」
 彼女の提案はだ。これだった。
「二人でプリン食べましょう。それで幸せになりましょう」
「そうだね。一人で食べるよりもね」
「二人の方が幸せになれるわよね」
「じゃあ。このプリンをね」
 テーブルの上にあった一つのプリンをだった。ナイフで二つに切ってだ。その半分をだ。
 白い皿の上に置いて彼女に差し出してだ。それで言うのだった。
「これでいいよね」
「一つのものを半分にしてなのね」
「そうしよう。一人で一つのものを食べるより」
 それよりもとだ。幾多郎は話す。
「二人で一つのものを食べる方が。美味しいし幸せになれるよね」
「そうね。一人占めするよりはね」
「その方がずっといいから。だから二人でね」
「有り難う。それじゃあ」
 彼女も応えてだ。そのプリンを優しい笑顔で受け取った。そうして二人でそのプリンを食べる。その味は。二人を最高の幸せに導くものだった。


プリン☆アラモード   完


                       2011・5・19 
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