【SAO】シンガーソング・オンライン
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おまけ:いざゆかん妖精の世界
前書き
・ここからはおまけゆえにギャグあり。
・また、既にフェアリィ・ダンスは終了済み。
・モブキャラ、出しゃばる。
・深く考えてはいけないレベル。
12/26 少々調整
歩けば疲れを感じ、トイレにも行きたくなる体。
異国情緒あふれるレンガ造りの町も、体中に装備をぶら下げて歩く冒険者もいないし、何所を探してもモンスターはいない。
死の条件は心臓か脳かの停止にすり替わり、アイテムを虚空に格納することももうできない。
――現実世界だ。
将来の夢も定まらないまま過ごす毎日だったが、やはりここが自分のいるべき世界だと強く感じた。
オンラインゲームなどもう手を出すまい。
フリーターでもしながら呑気にミュージシャンを目指そうと、今でも路上ライブを続行している。
・・・・・・聞きに来る連中の7割がSAO生還者なのが悩みの種なのだが。
最近は、どこから情報が漏れたのかSAO内であの歌が流行ったことが世間に知れ渡り、20年近い時を経て再評価されてるそうだ。あの名曲を知る人が増えたのならば俺にとっても喜ばしい。
そうして着々とSAOから離れつつあった俺だが、ネトゲ廃人の皆はそうもいかないらしく。
「ALO?」
「アミュスフィアとソフトとプレイ環境はこっちで用意したから」
「お、おう」
「所属する妖精族ももう決めてあるから!遠慮すんなよな!」
「あ、ああ」
「このゲームはSAOと違って戦わなくてもやっていけるんですよ?」
「そ、そうか」
常連客達に半ば強制的に肩を掴まれダイシーカフェの奥に連行された俺は、いつのまにやらまた仮想現実世界に行くことになっていた。
おかしいな、俺こいつ等の中では年長の部類に入るんだが・・・何故こんなに押しが弱いんだ?
理不尽ヒロインに服従させられる小説主人公の気分をちょっぴり味わった。周りは半分以上年下の男だが。
強制リンク、スタート。
おまけその1 強制連行ALO編
何でもこの世界ではプレイヤーは妖精族であり、それぞれ自分の所属している種族の勢力を伸ばしていくゲームだったらしい。
ところがそれから色々とあって、今ではなんとここからSAOを再プレイできる状態になったとか。
「外から見上げるアインクラッドってのも変な感じだな。俺、あそこにいたのか・・・」
上空にそびえる天空の城はとても巨大で美しく、あの中で人が沢山死んだと言われてもピンとこない。
SAO攻略組はあのアインクラッドを今度こそ純粋なゲームとして攻略したいらしく、多くの元攻略組が集っているとのことだ。
そしてその過程で、俺がいないじゃないかという話題になったとか。
「にしてもなんだこれ・・・」
俺は自分の髪の毛と、頭に生えた限りなくフィクションなものを触った。
まさに自分の体の一部であるかのように神経が感じているそれは、上にそりたつ長いロバの耳。
そう、俺の頭には今、耳が生えている。毛の生えていない筈の俺の耳が、見事にケモノミミに変貌していたのだ。
「音楽妖精族は馬の妖精なので・・・見栄えもあってロバになったんだと思いますよ?」
「なんだかなぁ・・・俺はブレーメンの音楽隊じゃないんだぞ?」
俺のリアクションに律儀に説明してくれたのは、中層あたりから常連になった女の子・・・がこの世界でアバターを作った姿らしい。
確かに声に聞き覚えがあるが、髪の色とかだいぶ変わっているので最初は戸惑った。
彼女は猫妖精であり、頭には猫耳が生えている。耳の生える位置そのものが変わっても平気なんだろうか?
しかし、彼女もそうだがSAO生還者の多くがリアルの顔に近めのアバターになっている気がするのは気のせいだろうか。俺は今更自分と似ても似つかない顔にするのは違和感があって比較的現実に近い顔にしているのだが。
SAOを生還した人間に共通するのか、それとも単なる偶然か。
「あ、空飛べますけど・・・チャレンジします?」
「・・・・・・まぁ、結果は見えてるけど一応やる」
やはりまともに飛べなかったが、女の子に手伝ってもらって取り敢えず空を飛べた。
足元が無いのが無性に怖かったので、二度と飛行には挑戦すまいと心に決めた。
自覚無かったが、高所恐怖症だったみたいだ。
= =
「ねえお兄ちゃん。これから来る人ってSAO生還者なんだよね?強いの?」
その素朴な疑問に、質問をされた兄は何とも言えない微妙な顔をした。
「いや・・・多分生還者の中では指折りの弱さだと思う」
「えっ・・・」
気まずい沈黙。
SAOのトッププレイヤーで、余り他人を悪く言う事のない兄が言うのだから、恐らく出会ったプレイヤーの中でも飛び抜けて弱かったのだろう。
その会話を聞いた周囲の何人かがうーん、と唸る。
「戦いに必要な才能を一通り持ってなかったな・・・」
「ガンジーの生まれ変わりかってくらい戦えなかった」
「アイツのレベリングはフロアボスより強敵だったぞ・・・」
「可哀想なくらい弱かったわね。というか、とことんSAOに向いてない人だった」
言いたい放題に聞こえるが、これらはすべて事実である。
「あ、あれかな?ほら、生産職・・・」
「そっちも全然ダメだったな」
「ああ、第一層の武器をメンテするのもしょっちゅうパリパリ砕いてたな」
「とことん才能の無い人だったわねぇ・・・」
なんか、これだけの人間が集まって待機しているのに、呼ばれた人は酷く情けない人間のように思えた。
まだ顔も知らないのにそこまで言われるなんて、実は凄く可哀想な人なのではないか?と感じずにはいられない。
「じゃあ何した人なの?」
「歌った人。多分、アインクラッド中であいつを知らない人はいなかったんじゃないかな?下層から上層まで色んなところで歌ってたし」
「歌・・・って、歌っただけ!?他には!?」
「や、本当に歌以外何も出来ない奴でさ・・・しかもその歌も、最初の頃はそこそこ止まりだったらしいし」
彼女は周囲のSAOプレイヤーが皆凄腕だから忘れがちだったが、ゲームオーバー=超即死の世界で敵と戦う勇気が出ずにずっと町に籠っていた人間だっているのだ。全員が全員強い訳ではない。
でも、ならば何故彼はここまで慕われているのか?
今日の集まりの中には「久しぶりにあの人の歌が聞ける」と喜んでいる人や、今までMMORPGを離れていた人まで態々新規でやってきていた。そんな人たちの噂を聞いてさらに人は集まり、この場には60人近いプレイヤーが集結している。
「アイドルみたいな人じゃないの?」
「いや全然。何所にでもいそうな人。でも・・・・・・あの人はデスゲーム開始初日から終了日まで、毎日欠かさずアインクラッドの町で楽器を鳴らして歌い続けてた」
約2年間だ。
2年の間、それ以外何もなすことが出来ずにただ歌い続けていた。
来る日も来る日も弦楽器を弾いて覚えている歌を思い出しながら演奏し続ける。
武器があっても戦えない。
職人にもなれない。
商売するだけの伝手もない。
そんな状態の頃からずっと、誰に言われるでもなく歌い続ける。
それは不安に身を焦がされてやれることもない彼が自分を鼓舞する思いもあったのだろうが、同時にその歌は他人の心も動かしていた。
「SAOはそれ自体がゲームだから、中に娯楽なんかない。あいつのストリートライブはそんな中でも唯一、金も手間も掛けずに時間が潰せるものだった」
「特に下層で戦えずに籠っている人は、あの人の歌を口ずさんで心の餓えを凌いでいるのも少なくなかった・・・恥ずかしながら、俺も昔はそうだったんですが」
「中層でも人気だったぜ。何せ攻略組も聞きに来るんだから皆物珍しがってな。本人はそれを嫌がってかちまちま演奏する場所を変えてたけど」
「上層も、戦いもせずに歌ってるなんて文句を言う奴は殆どいなかったな。最古参の攻略プレイやーや著名なプレイヤーにファンが多くてさ」
「うんうん、あいつの歌には何度も励まされたぜ」
「ニャハハ。アイツの演奏した歌の録音結晶、結構な儲けになったヨ!」
「あー・・・みんな携帯プレーヤー感覚で持ってたな」
「アタシなんか頑張って全曲揃えたもんねー!」
「マジで!?」
質問した彼女を置いてけぼりにして勝手に盛り上がる周囲。
それを見て、彼女は「ああ、本当に慕われてたんだ」と思った。
他人を気に掛けるほど余裕のある世界じゃなかったであろうSAOで、彼らはその人に無条件の好意を寄せていた。
と、そこに2人のプレイヤーがやってきた。片方の女性は道案内だったらしく、もう片方の男性をステージへと誘導する。
「おまたせ~・・・・・・ってうわぁ、何この人数?俺の路上ライブは多くて十数人がデフォなんだけど」
「それはお前がしょっちゅう層を行き来してたからだろ!」
「おかげでスケジュールを情報屋に調べてもらうプレイヤー続出だったんだから!」
「次のライブがいつか待ち遠しかったぞバカヤロー!」
「おいこら、お前らが移動しろって言うから移動してたんだぞ!?」
客と口喧嘩しながらも渋々弦楽器を受け取った男性は檀上に座り込み、その楽器を軽く鳴らして調子を確かめる。
「あー・・・別に俺の前ぶりとかいらないだろ、人気ミュージシャンじゃあるまいし。・・・・・・それじゃあ、あれだ。SAO同窓会+アインクラッド再攻略開始記念の復活ライブってことで、いつものあれ行くぞー!!!」
「「「「「うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」」」」」
俺達は泣くために生まれてきたのか?そうじゃないだろう――
そんな泣きたくなるほど辛い現実って奴とどう向き合うのか――
それを決めるために生まれて来たんだ――
だから俺達は、社会とか言う見えない力に屈服するのは嫌だ――
俺達が生まれてきた理由を決めるのは、紛れもない俺達だろう――
シンプルで、それでいて力強い音色を奏でながら、音楽妖精はその後数時間にわたって歌い続けた。
途中から口コミが広がって、ライブ終了の時間には200人近いプレイヤーが集まっていた。
「うおー!」
「わー!」
「キャーステキー!」
「サインください!」
「やめろ常連客共!偽客みたいな事言うな!」
「演奏スキルいくつなんすか?」
「前にも聞かれたがそんなスキル使ってねぇよ!」
「「「「な、何だってぇぇぇぇぇーーーー!?!?」」」」
結局このライブはこれ以降も定期的に開かれることになり、彼のオンラインゲーム内での知名度は妙に上昇することになった。
なお、この後彼は仮想世界においても楽器演奏に一切スキルを使わないその姿と、SAOクリア以降飛躍的に伸びたギターテクから「神の指先」の渾名を頂戴したとか。
(リアルで動きにくくなったな・・・知ってる奴が聞いたら身バレするぞこれ)
未だに駅前とかで路上ライブしてる彼は、内心焦りを隠せないのであった。
おまけその2 ネタルート…折角オリ主なんだから一つくらい奇跡起こす
最近は学校の授業(なんか国立の大学だが授業は妙に緩い)が本格化したのもあってあまり駅前などに足を運んで演奏できない。だから深夜のALO内部でぶらぶらしながら適当なところで路上ライブやっているのだが、今日はなんか変な子が来た。
「ねぇねぇ、何やってるの?」
「路上ライブ、っつうかバーチャルライブ?」
「一人でー?」
「大昔は3人でやってたんだが、1人死んでもう1人が抜けたんだよ」
「・・・そう、なんだ。変なこと聞いちゃったかな?」
「もう終わったことだ。だから俺一人でバンド続行中。どーせ他に出来る事も無いしな」
黒髪の女の子だ。といってもアバターの性別とリアルの性別が一致しているとは限らないが、まあ男でも女でも音楽は聞けるから問題ない。
闇妖精なので耳がエルフみたいにとがっているんだが、違和感覚えないんだろうか?
俺は未だに自分の耳がロバの耳であることに変な気持があるんだが。
若者の順応力が恐ろしい。
まぁそれはそれとして、今日も最初は同じ曲。
ぶら下げたギター的楽器をかき鳴らして所構わずライブを開始する。
~~♪~~♪
俺には本当に最近これしかない。
SAO時代の下積みのせいで歌唱力とギターの腕は無駄に上がっているが、それ以外には本当に秀でた能力が無い。
勉強も凡人の域を越えないし、将来の夢も現実的なものはない。
結局心を動かされるのはこうして音楽で頭を満たしてるときだけだ。
・・・気のせいか、段々居場所がVR側にシフトしてないか?
~~♪~~♪
俺の求めてるものって、何だ?
SAOじゃ他に出来る事も発信できるものも無かったから歌い続けてたが、今とあの時とじゃなにか演奏して歌う理由が変わってきていると思う。
そんなことを頭の片隅で考えながら演奏が終わると、黒髪の女の子が目の前に座り込んでじっと見ているのに気付いた。
――ふむ、久々に新規のお客さんってことか。
俺の知り合いプレイヤー以外は、大体一曲聞いたかサビを通り過ぎた辺りで帰る。
だがこの子はこれ以上まだ聞く気らしい。
楽しそうな目はしていない。ただ、何かを見つけようとしているのだろうか。
「お兄さん、さっきの曲もう一回聞かせて」
「そーいうときは『アンコール』、って言えばいいぞ」
「アンコール!・・・初めて言うや、アンコールなんて」
「まー使う機会はあんまりないかもなぁ」
また俺は歌った。少女は黙って聞いた。
アンコールが入った。歌った。少女は黙って聞いた。
こんなに真剣な目で歌と向き合ってる奴初めて見たかも。
SAO初期じゃこればかり寝ても覚めても歌っていたのを思い出す。
またアンコールが入る。俺は何の疑問も持たずに歌う、少女は黙って聞いた。
そんな貸切ライブが1時間は続いたろうか。
なんだかシステムではそんなものない筈なのに、熱くなってきた。
こいつはいつまで俺の歌と向き合うのか、限界を知りたくなってきた。
少女、アンコール。俺、歌う。
少女、アンコール。俺、歌う。
延々と繰り返す音楽VS目線のエンドレスワルツ。歌う、演奏終了、アンコールの三拍子だ。
からかわれている、という訳ではない気がする。彼女なりに何かを掴もうとしているのだろう。
果たしてこの子は俺の歌を聴いて、いったい何を見出すのか。
ふと、アンコールの声が止まった。どこか憂いを帯びた少女が、俺の顔をじっと見つめる。
「未来って・・・僕にも掴めるのかな?」
「望んだ未来なのかは分からないぞ。掴むのは選んだ未来だ」
「選べるの?未来を・・・例えもうすぐ死ぬ人間でも?」
「選べるって思ってなきゃ、今頃全人類首つって死んでるぜ。希望があるかもって思ってるから人は生きてるんだろ?」
「なんだよそれ。僕には分かんないなぁ・・・」
「難しく考えるなよ。末期ガンだって敢えて治療しないほうが長生きするってデータもあったんだぜ?気合と運だ、人生なんて」
運だからこそ、世の中は不平等だ。
そして気合は一発逆転の可能性を秘めた爆弾。
まるで博打のようなそれは、事実博打にも似ている。無論、そんな俺の持論など彼女に伝わる訳もなく、少女は胡乱気な目線でいい加減なことを言うなといわんばかりに不満顔をしている。
「・・・・・・お兄さんも気合と運で生きてるの?」
「そうだなー・・・命の危機もそれなりにあったもんな。気合と運がなけりゃ今頃骨壺の中だ」
「段々お兄さんがどんな人なのか分かんなくなってきた・・・」
俺の波乱万丈な人生の一部が口から洩れてしまったせいで少女は混乱しているようだ。
考えてみればレベリングの度に大苦戦して何度も死ぬ思いをした。
実はレッドプレイヤーに殺されかけたこともある。それでも常連さんやファンの客に助けられて、今もこうして生きてる。
それが運ならば、腐らず演奏し続けたのが気合。
それが今という未来に繋がる道になった。
「深く考えるな。理屈なんか無視だ。未来はどこにある?」
「・・・僕らの、手の中にあるの?」
「そういうことだ」
「・・・信じていいの?」
ちょっと潤んだ目で問われた。
このゲームの表情エンジンは結構オーバーリアクションだから、大袈裟に表現されてるのかもしれない。
ともかく、俺はこう返答した。
「俺を信じてどうする?自分を信じるんだよ」
「・・・・・・うん、やってみる」
やがて消えるように、少女は行ってしまった。
結局よく分からない問答になってしまったが、大丈夫だろうか?なんか変なことをやらなければいいが。
= =
僕は生きる。
そう決めたんだ。
僕だってもっと普通の女の子みたいに過ごしたい。
エイズだからって皆に白い目で見られて、酷い扱い受けて。
この剣と魔法の世界にしか居場所が無いなんて、本当は嫌に決まってる。
だから僕は――ウィルスにモノ申す!!
「やい、HIV共め!父さんと母さんとお姉ちゃんまで殺した極悪ウィルス!」
白血球に張り付くように存在する大量のソイツにびしっと指を指してみる。
ぎしゅぐしゅと訳の分からない音を立てるそいつらは声に呼応するかのように集い、互いの身体を次々に結合させて一つの巨体となる。
死神のように白く、しかし体中のあちこちに開いた不自然な穴の中からはヘドロのような紫色の液体を巻き散らす化物。
彼女の身体の十数倍はあろうかという巨体。
まるで白血球を苗床に育ったように球から生えたその身体は刀のように鋭い爪を持った腕部を体中から生やし、まるで獣の骨に無理やり肉を張り付けた様な醜悪な顔面を晒す。
その顔にあるくぼみの奥に光る眼光が、彼女を見下す。
まるで脆弱な虫を見下ろすかのような視点。
だが少女は臆せず、それに立ち向かう。
「お前の所為で僕の体はぼろぼろだ!!髪もぼさぼさだし皮膚なんかあちこち変色して、アバターと全然違う!口の中とか肝臓とか、健康な所探す方が難しくて息するだけでもすっごく辛い!!こんな体に誰がしたー!?・・・・・・お前らだ―ッ!!」
化物ウィルスはそんな彼女をあざ笑うかのように不気味に体を揺らし、揺らすたびに体のあなからぼちゃぼちゃと不快な音を立てて液体をばらまいた。そして不意に、停止。
直後、化物ウイルスは死神の咆哮を上げた。
全ての生物をその最後まで侵し尽くそうとするかのような病魔の誘いを、彼女はきっぱり拒絶して見せた。
「よって僕は気合でお前らを撃退する事にした!あとは野となれ山となれ!そして喰らえ秘剣・・・」
いつの間にか手にしていたのは自分の愛剣。
万感の思いと魂の叫びを乗せて、彼女は剣を振るった。
化物もそれを迎え撃つように大量の腕を振り回し、哀れな小娘をずたずたに引き裂こうとするが・・・彼女の方が速かった。
「母なる十字架ォォォーーーーーッ!!」
繰り出されるは怒涛の11連撃。切り裂かれたのは化け物の方だった。
その日彼女は、夢の中で自分の身体に巣食う病魔と闘い、勝利した――
そんな感じの夢を見た。
= 数日後 =
『続いてのニュースです。世界的に見ても前例のない、奇跡が起きました・・・・・・』
「すげーな・・・エイズっていえばまだ治療法が確立されてない筈だろ?自然治癒とかあり得んな・・・いや現実に起きてるんだけど」
最近の更新で外のテレビがゲーム内でも見れるようになったので試しにやってみると、凄いニュースが流れてた。
エイズ・・・より小難しく言うと後天性免疫不全症候群。
HIVというウィルスが人体の免疫能力を奪うという恐ろしい病気だ。発症すればちょっとした細菌であっても体の中から追い出せなくなり、病原菌に抵抗する免疫が無くなるため一方的に病魔に侵される。潜伏から発症までのスパンを薬で先延ばしにすることは出来るが、発症すれば・・・実質的には死の病だ。HIVそのものはとても弱いが体に入ると手が付けられない。
感染経路は性行為、血液経由、母子感染の3つ。今回の少女は2番目らしいが、数日前に突然彼女の白血球がHIVに対する免疫を持ち、ウィルスはどんどん減少しているようだ。今まで白血球はHIVウィルスに対抗できないとされていた。発症前にHIVを根絶した前例はあるが、発症後の自然治癒など想定外もいい所だろう。
「ま、それはいいとして・・・」
モニタから目を逸らして後ろを見ると。
「えっと、これがスネアで、これがタムかな?・・・えい!やあ!とーう!」
ドン、タン、シャーン!とリズムもへったくれもない音が鳴り響く。
俺の後ろでは、ドラム的な楽器を出鱈目に叩いてきゃっきゃとはしゃいでいるインプの少女の姿があった。俺とエンドレスアンコールをやってた子だ。
なんか他の常連ともちょくちょく顔見知りだったらしいが、結局この子は何者なんだろうか。というか、ALOに楽器が多くあるのは知ってたがドラム再現率高いな、とよくわからない関心を抱く。友達から預かりっぱなしの安物ドラムよりいい音が鳴ってる気がするのは少々切ないが。
本人曰く俺のバンドに所属する気らしい。
そういうのは募集してないし、リアルの付き合いも無い人にいきなりそんなこと言われても困るんだが。
しかもなんか彼女の言動を見てるとあのアバターと同じかそれより幼い年齢のような気がする。そこはかとなく犯罪臭のする組合わせだ。
本音を言えば時間の都合とかあるし、一人の方が気が楽だから断りたいのだが・・・SAOでよくしてもらったプレイヤーの数名にその旨を告げるとすごいブーイングを受けた。
あの子の境遇が何とかいってたが、俺はそんなものは知らないんだが?なんで皆さも俺も知っているみたいに話すのだろう?
聞ける空気じゃないから結局引き受けざるを得なかった。
と、女の子がシンバルを出鱈目にシャンシャン鳴らしながらこちらを呼ぶ。
お茶碗を箸で叩いているようだ。まったく、子供っぽい。
「ねーねー、このペダルみたいなのどうやって使うのー?」
「ああ、それはだな・・・」
しかしあれだ。妹とかいたらこんな感じかなって思うのは幻想の見過ぎか?
数年後、俺は彼女の素性を知って腰を抜かしかける事になる。
後書き
ひどい・・・擁護する言葉が見当たらない・・・これはひどい。
という訳で、この物語はこれにて終了です。
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