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戦国異伝

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第百七十六話 手取川の合戦その十三

「長老も既に」
「うむ、矢の様な催促じゃ」
 松永もその通りだと答える。
「毎日の様に来るわ、使者がな」
「それでは」
 その家臣はすぐに言った、再び。
「織田家に」
「そろそろ天海殿と崇伝殿も動かれます」
 別の家臣も言ってきた。
「そしてです」
「幕府が動いてか」
「本願寺と織田家の和の刻限もそろそろです」
 このこともここで言われる。
「さすれば今度は毛利も動き」
「武田、上杉も再び」
「北条も動くかと」
「そこで殿が謀反を起こされれば」
「織田家は終わるかと」
「そうであろうかの」
 松永は己の家臣達の話を全て聞いた、そうしてだった。
 そのうえでだ、こう言ったのだった。
「例えそれだけのことが一度に起こってもじゃ」
「といいますと」
「一体」
「殿は倒れぬわ」
 信長についてこう言うのだった。
「あの方はな」
「だからですか」
「今も」
「時ではない」
 これが松永の考えだった、はぐらかす口調での言葉だ。
「まだな」
「だからですか」
「今も」
「動かなくてよかろう」
 こうも言ったのだった。
「別にな」
「では何時動かれますか」
「一体」
「その時に来ればじゃ」
 やはりはぐらかす言葉だった。
「わしも動く」
「ではその時は」
「一体」
「必ず来る」
 今でなくとも、というのだ。
「その時でよいわ」
「ですが殿」
「そろそろ動かねば」
 ここでだ、家臣達は松永に強い声で言った。
「最早です」
「長老様も痺れを切らしてしまわれます」
「それにこのままでは」
「織田が天下を手に入れかねません」
「そうなればです」
「我等にとって最悪ですが」
「日輪が天下を照らすというのじゃな」
 松永はここで己の上にある日を見た、それから信長がいる前の方を見た。そのうえで彼等にこう言ったのだった。
「そうじゃな」
「左様です」
「そうなりますが」
「よいではないかとな」 
 松永はこんな言葉も出した。
「そうも思うのは」
「まさか。ご冗談を」
「我等は闇の者ですぞ」
「日論の下では生きていけませぬ」
「我等はまつろわぬ者」
「ですから」
 これはだと言うのだった、松永に対して。 
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