鎮守府にガンダム(擬き)が配備されました。
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第1部
第8話 戦艦棲姫、観艦式ニ潜入ス〜其ノ壱〜
前書き
観艦式にちゃっかりついて来ちゃった姫様一行と主人公のお話。
KUJOさんのクズノハ提督録と相互コラボさせて頂きました(=´∀`)人(´∀`=)
今後もコラボしたい方を募集します、一緒に艦これで盛り上がりましょう(=゚ω゚)ノ
8月22日 日本帝国 東京
横須賀基地
8月の真夏日。
晴天から降り注ぐ熱射が横須賀を襲う午前10時。
横須賀基地は、各国の艦隊が一堂に集う観艦式を一目見ようと、全国から集まった人々でごった返していた。
「…………暑い………怠い……帰りたい…」
「我慢して、お兄……提督、これも立派な仕事よ」
「全く、私がいないと直ぐに堕落けるからなお前は。
観艦式中は私が付きっ切りで監視してやるから覚悟しておけ」
そんな中、俺はと言えば、各国軍の提督や政治家の集まる立食パーティー会場で人の波に揉まれている所だった。
粗方の要人と話し終えた俺とまりも、ラトロワの3人は、人混みから離れて壁際に立っていた。
「あー、あっついな〜しかし……制服が汗でビショビショだ」
「なっ……お兄ちゃんの…汗で………汗で……ビショ…ビショ……フヒッ、ヒヒヒ……」
「マリモ、顔がニヤけてるぞ」
様々な国の軍服が行き交うパーティー会場を眺めつつ、度数の低い酒を傾ける。
軍務が残っている為、度数制限をラトロワに掛けられたので全く酔えない。
「んしょ……これで良いかな」
「うん、大丈夫だよ司令官」
午後の真夏の日差しを浴びながら周囲を眺めていると、1組の男女が視界に入った。
初々しい雰囲気の若い提督と、秘書艦であろう駆逐艦娘だ。
何故かは知らないが、その2人組が妙に気になった。
壁に寄りかかりながらその2人組を見ていると、若い提督のポケットからハンカチが落ちた。
周囲の人間は気付いていない。
仕方なく2人組に近付き、ハンカチを手に取って若い提督に差し出した。
「あー、君。 落としたぞ」
「へ?……あっ‼︎ し、失礼しましたッ‼︎」
若い提督は俺の顔とハンカチを交互に見て驚いたように飛び上がり、直立不動で敬礼した。
「さっきの挨拶の時は見なかった顔だな……。
地球連邦宇宙軍第8軌道艦隊麾下、特別即応艦隊エインヘリアルの艦隊司令、神宮司一葉准将だ。
よろしく、少佐」
「は、はいッ‼︎ 神戸第1458鎮守府所属の、葛葉特務少佐でありますッ‼︎
こっちは俺の秘書艦の……」
「特三型駆逐艦、暁型2番艦の響だよ。その活躍振りから、不死鳥の異名もあるよ」
「暁型か……いい艦だ」
親父の鎮守府には、暁型駆逐艦は3隻……暁、雷、電の3隻しか配備されていない為、実際に会うのは初めてだ。
葛葉…と名乗った少佐は、見た限りでは限り無く民間人に近い雰囲気を醸し出している。
民間人が軍服を着ているような感覚だ。
「失礼だが、少佐は〝件の政策〟の……?」
「あー、やっぱり本職だとわかりますか?
まだまだ新米のペーペーですよ、ははは……」
「司令官、上官に対して言う態度じゃないよ。
しっかりして欲しいな、人が知れてしまうよ?」
「あ、ごめん響……失礼しました、准将閣下」
「気にするな、俺も気にしてない」
頭を下げる葛葉提督を制し、微笑みかける。
反面、心情は複雑だった。
〝件の政策〟というのは、大本営が打ち出した特別政策の事だ。
艦娘と相性の良い人間を選定、提督として教育し、即戦力とする……一種の徴兵令制度のようなものだ。
この政策は完全志願制だが、提督として深海棲艦が跋扈する戦場へ艦娘と共に征く事を強要しているようで、俺は認め難い政策だった。
「……少佐、何故君は提督に?」
「…お恥ずかしい限りですが、その…………友人に、誘われまして……」
「……成る程」
若さ故の至りと言うわけだ。
まぁそう言う自分もまだまだ若手の部類なのだが。
「少佐、一つ聞きたい」
「は、はいッ‼︎」
「何故君は戦うのだ?
国家の為?名誉か?地位か?
提督として彼女達を指揮すると言うことは、最終的には戦場に身を晒すと言う事だ。
その意味が分からん訳じゃあるまい?」
「………俺は…」
葛葉提督は押し黙って俯いた。
それを見て俺は、昔の自分を思い出した。
《お前達が何故此処にいるのか、戦場ではその意味を失った奴から死んで行く。
お前達を戦場へ導いた意味を……その意思を、お前達の抱いた志を忘れるな。
志を持たない奴は兵士じゃない、只の賊だ》
士官学校で教官に、耳にタコが出来るくらい口酸っぱく繰り返し言われた言葉だ。
葛葉提督は今、軍人としてのターニングポイントに居る。
「……私は、先達の様な立派な目的も、意思もありません。
指揮も人並み以下ですし、響達が居なければ鎮守府の運用も出来ません。
でも、彼女達と共に戦いたい……彼女達を助けたいんです。
私に出来ることなどたかが知れています。
けど、彼女達の助けになりたいんです」
「……そうか」
仲間の為に戦いたい。
葛葉提督ははっきりとそう言った。
俺は微笑みながら葛葉提督の肩に手を置いた。
「それでいい、……戦う理由を、意思を、君の抱いた志を忘れるな。
戦場では、その志を見失った奴から死んで行く。
……仲間の為に戦うんだろ?」
「……はいッ‼︎」
葛葉提督は大きく頷いた。
「……准将閣下は…」
「ん?」
「閣下は、何故戦うのですか?」
葛葉提督は純粋な瞳で真っ直ぐ俺を見ていた。
俺は笑いながら踵を返し、歩き出した。
「君と同じさ。
時代に翻弄されて、気付いたらこうなってた。
そんな俺について来てくれる仲間の為に、俺は戦ってる。
大切な仲間だ」
「も、もし宜しければ今度戦術に関して御教授願いますッ‼︎」
「はははッ‼︎ 互いに生きていたらなッ‼︎
また会おう、葛葉少佐ッ‼︎」
◉◉◉
2時間後
「なぁカズハ、お前何した」
「まだ何もしてねぇし、する気も無ぇよ」
立食パーティーも終わり、観艦式も佳境に入る頃。
俺とラリーは一般客の往来する屋台エリアを早歩きで進む。
「じゃあ何で〝尾けられてんだ〟?
然もあんな〝別嬪〟、それも3人に……」
「だから俺が知るかよ……ッ‼︎」
「おいおいカズハよ…あんな美人といつの間にお近付きになったんだぁ〜?」
「人の話聞いてんのかお前はッ‼︎」
ちらりと人混み越しに後ろをほんの少し振り向く。
屋台の陰から3人の女性が此方をジッと見ていた。
……何かやったっけ、俺…。
「じゃあ後は任せたぜ。
機体の調整してくる」
「え、あ…おいッ‼︎」
「はははッ、そろそろ女の1人でも囲ってみろよ、相棒ッ‼︎」
人混みに消えていくラリー。
その後ろ姿を呆然と立ち尽くしながら見送る。
「……ッ…‼︎」
一抹の不安を拭いきれず、頬を一筋の汗が流れる。
俺は逃げるようにその場から走り出した。
◉◉◉
「……で、何の用だ……」
「…………」
「……黙りかよ…ったく」
横須賀基地内の一角、有名なカフェの出張店のテラスの端で、私達は彼と向かい合っていた。
「……話がしたかっただけです、此処で戦火を交える気はありません」
「お前達の言葉を鵜呑みにしろと?
俺達はお前等に殺されかかってるんだぞ?」
「私達も、此処にいる艦娘達を敵に回すような愚行はしません」
鹿島の基地から彼等の跡を付けて、漸く彼を見つけた私達は、逃げる彼を捕まえ、このカフェでやっと話し合いの場を設ける事に成功した。
彼には警戒されてしまったが、結果的には目的を達成出来た。
ウェイトレスが私達の注文した品を持って来た。
暫くの間、私……戦艦棲姫と彼の間に沈黙が流れた。
「まぁ、百歩譲ってお前達が話し合いに来たってのを信用したとして、だ。
……何故こんな状況に……糞ッ‼︎」
「テイトクッ‼︎ ハイ、ア〜ン……」
「わ、私に他意はありませんッ‼︎
これは、その…艦隊旗艦の命令だからですッ‼︎」
彼の膝の上に座るヲ級と、彼の左側にピッタリ寄り添うル級を交互に見ながら、彼は絶望したように顔を真っ青にしながら愚痴を零した。
「逃げられると面倒なので……。
貴方が女性が苦手、と言うのはわかっています。
武器を向けられないだけ有難いと思ってください。
私達なりの誠意と取っていただいて結構です」
「ただの拷問じゃねえかッ‼︎」
「こんな美女3人に囲まれてるんですよ?
拷問どころか男性にとっては天国じゃありませんか」
「俺にとっては地獄なん…ムグッ‼︎」
「テイトク、パンケーキオイシイ?」
ヲ級が彼の口にパンケーキを無理矢理詰め込む。
「ゲフォ、ゴフッ……わ、分かった、分かったから離れろッ‼︎
頼むから離れてくれッ‼︎」
「ヤ〜〜ッ‼︎ テイトクノ上ジャナキャ嫌ッ‼︎」
「俺お前らの敵、わかるッ⁉︎」
「ヤダヤダヤダッ‼︎ テイトクガイイノッ‼︎」
「勘弁してくれぇぇぇ〜〜〜〜ッ‼︎」
8月の青空に、1人の男の慟哭が響き渡った。
次話二続ク……
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