憎まれ口
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第四章
第四章
「ぶつけたらそこから黄色い粉が巻き散ってだ」
「それであれね。くしゃみとかさせるのね」
「これも防犯の奴だ」
「ふうん、くれるのね」
「やる」
またこう言う彼だった。
「取っておけ」
「貰って欲しいのね」
小真はいつもの口調になって彼に問うた。
「要するに。そういうことね」
「そうだ。余ったからやる」
京介もいつもの口調になっていた。そのうえでの言葉だった。
「じゃあな」
「ええ。それじゃあね」
こうして小真にその赤と黄色の球を手渡したのだった。そうしてであった。
それだけではなくだ。学校の行き帰りにこっそりとだ。小真を見張っていた。相手が何時出て来てもいいようにだ。そしてである。
何日かしてだ。帰り道にだ。
もう夜だった。外は暗がりで灯りで照らされている場所以外は何も見えない。小真はその夜道を歩いていて京介はその彼女から少し離れて後ろを歩いている。その彼女に気付かれないようにして歩いていた。
そしてであった。神社の前を通る。その時にだった。
その神社の横からだ。不意に何かが飛び出てきた。そしてだ。
小真に襲い掛かって来た。手には何かを持っている。
「えっ、何っ!?」
「遂に出て来たか!」
小真がその神社の方を振り向いた瞬間だった。
京介はダッシュしてだ。そこに向かう。黒い影が彼女を襲おうとしていた。
小真は咄嗟に自分の制服のポケットに手を入れた。そしてである。
「喰らいなさいよ!」
あの赤い球と黄色い球を投げた。するとだった。
何か水気のあるものが当たる音がして煙が起こったようだった。それで影の動きが止まった。
そしてそこにだった。京介が来てだ。
動きを止めて苦しむ影にだ。右足で思いきり蹴りを入れたのだった。
「させるかよ!」
「ぐっ・・・・・・」
横腹に思いきり決まった。これで終わりだった。
影はそのまま倒れ込む。暗がりの中にその悪相が見えた。その顔は。
「やっぱりな。こいつかよ」
「何、こいつ」
「あれだよ。仙谷だよ」
こう小真に言うのだった。
「御前前こいつが万引きしてるの通報したんだよな」
「ああ、スーパーのあれね」
小真もここでわかった。
「あの時のね」
「思い出したな」
「あんなの通報されて当然じゃない」
小誠はむっとした顔になってその男を見下ろしながら言い切った。
「万引きなんかして」
「それはそうだけれどな」
「何よ。それが悪いっていうの?」
「悪くはないさ」
それはいいという京介だった。しかしだった。
「ただ、な」
「ただ?」
「その後は気をつけろよ」
こう小真に注意するのだった。
「こういう奴は後で仕返しに来るからな」
「それでだったのね」
小真はまだその手に持っている球を見て話す。
「私にこういうの渡してくれたのは」
「たまたまだよ」
「たまたまって?」
「そうだよ。余ったからやったんだよ」
ここでは小真から顔を背けさせて話す京介だった。
「それだけだよ。勘違いするなよ」
「それで今もたまたまここにいたのね」
「ああ、そうだよ」
やはり顔は背けたままだ。
「勘違いするなよ」
「わかったわよ。それじゃあね」
「ああ。それじゃあ?」
「私もたまたま今夜はね」
小真も京介から顔を背けさせた。そのうえで言うのだった。
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