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相州戦神館學園 八命陣×新世界より  邯鄲の世界より

作者:サノス
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第5話 スクィーラの涙、戦いの時

 放課後、夕日が差し込み、静寂に包まれた特科生の教室にはスクィーラ、柊四四八、世良水希、真奈瀬晶、龍辺歩美、我堂鈴子、大杉栄光、鳴滝敦士の計八名。

 スクィーラは七人と対峙するような形で距離を置いた。重苦しい空気の中、教室に来て数分程は無言で見つめ合っていた。

 柊四四八を始めよする七人のスクィーラに向ける眼差しはどこかしら強い決意を秘めているようにも見えた。当然だろう。自分のような普通の人間
から見れば化け物としか思えない生物に対する感情などそんなものだ。

 スクィーラは四四八達の口から蔑みや罵倒の言葉が、表情には醜い怪物に対する嫌悪感と恐怖感が出る瞬間を待っていた。

 目の前の七人は千年後の未来に生きる神栖66町を始めとする呪力者ではない。だがそれが自分達バケネズミを受け入れるか否か、苦しみが
分かるか否かは別問題だ。

 姿形がここまで違えば例え町の住民でなくともモンスターの類と思われるだけに違いない。最初から期待などしてはいないのだ。

 自分を仲間だと思ってくれる人間に出会うなど……。

 「塩屋、お前の正体に最初に気が付いたのは一ヶ月前だ。栄光が解法(キャンセル)を使ってお前のレベルを計っている時にな。俺も見てみたが流石に
驚いたぞ。解法に長けた者が目を凝らさないと分からない程に巧妙に姿を隠蔽していたんだからな」

  ───解法。

 邯鄲の夢の持つ技術の一つであり、他者の力や感覚、場の状況等を解析・解体する夢だ。この夢の資質が高い者は敵の力量や技の正体を見抜くことさえ
可能だと言う。

 柊四四八の仲間の一人、大杉栄光は解法に長けているのは知っていたが、まさかこの偽りの肉体を見破る程だとは。いや、甘粕は最初からこの能力の
熟達者には見えるようにしたのかもしれないが。

 しかしそんなことはどうでもよかった。怪物の類だと分かれば自分をこの学校から追い出すのか? それとも駆除するのか? スクィーラは
七人と戦う為に身構える。

 「それで? 貴方達が私の正体に気づいたから私に対して何をしようと? 追い出しますか? そうでしょうね、こんな醜い怪物がこの学校にいて良い
はずがない。殺しますか? それもそうですね。目の前にいるモンスターの類など人間にとっては脅威。さすれば殺すのが道理でしょう」

 スクィーラは目の前の七人に対しての嘲笑と蔑みの言葉を投げつける。

 「ったく! 流行の厨二病患者かお前は! 「俺に近づくな、近づけば不幸になる」、「俺に関わるな、死にたくないならな」なーんて考えに
酔ってるクチかよ。いいか! ヘソ曲がりなお前によ~~く聞かせてやるから耳かっぽじいて聞け!」

 真奈瀬晶が前に出てくるなり、スクィーラに対して渇でも入れるかのように吼える。

 「あたし等はお前を追い出すつもりも、駆除するつもりも毛頭ない! ただ、お前のことが知りたいんだよ!」

 「私のことを……?」

 「そーだよ! お前が人間じゃないことまでは分かった! けどな、お前は何をしにこの学校に来たわけだ? 人間に危害を加えるでもなく、あたし等の命
を狙うでもないんなら何が目的だ!?」

 「そ、それは……」

 スクィーラは言葉に詰まった。人間でないことが分かるのであれば、異分子は排除する筈だ。それをしないばかりか、自分に対して何をしにこの学校に
来たのかを問いているのだ。

 「授業中はカッコ付けてる癖して、たま~に放課後の教室や自分の部屋で泣いたりしてるよな。お前、自分が人間じゃないことに負い目でもあんのか? だったら
気にすんなよ。意思疎通も不可能な化け物ってわけじゃないんだろ? あたし等人間と同じ知能も感情も立派にあるだろ。自分を誤魔化すのはやめろよ、
お前は俺達を皆殺しにしたり危害を加える為にここに来たんじゃないんだろ? ならあたし等と仲良くしたって別にいいじゃんか」

 「私は……、私は……」

 スクィーラは動揺していた。本気なのだろうか? 本気で真奈瀬晶はこう思っているのだろうか? 言葉の端々に嘘偽りなどは微塵も感じない。ただ、自分の
ことが知りたいのだ。

 「ああもう! 煮え切らないわね! 男だったら胸を張りなさいよ! 正体不明で、皆と溶け込めない孤独なヒーロー気取ってないで自分の言葉をハッキリ言ったらどう?」

 我堂鈴子も真奈瀬に負けじとスクィーラに詰め寄ってくる。

 「もう五ヶ月も一緒にいるんだよ。だったら赤の他人ってわけじゃないんだし、私達に何か話しても良いでしょ?」

 我堂に続くように龍辺鮎美も同じくスクィーラに近寄ってくる。

 「ま、まあ! お前の正体には俺もちょっとばかしビビったんだよな……。けどよ、お前が俺達に何か危害や攻撃の一度も加えたことがないのはハッキリしてるしな。
敵対したくて来たんじゃねぇんなら俺達に何か話してくれよ!」

 大杉栄光も鮎美に遅れて近づいてくる。

 「お前の面は何かデカいモンを失ったことがあるって書いてんだよ。何の為に来たかはわかんねぇけどよ、相当な決意があるってことは毎日放課後に一人で鍛錬しまくってる光景で
分かんだよ。お前をそこまで駆り立てるのは何なのかは分かんねぇけど、ここらで一つ話してもいいんじゃねえか?」

 鳴滝は無愛想ながらも、スクィーラ自身の持つ強い意思と決意を察しているようだ。

 「塩屋くん……。貴方の背中を見てると何だか悲しくなるんだ……。けど、この戦真館に来た以上ここの教訓には従ってもらうから。正体が人間じゃないこと位私達は気にして
なんかいないよ。私達とこうしてコミュニケーションを取ってる存在を人間じゃないから邪険に扱うのはこの学校の理念に反するしね」

 世良は他の五人に遅れるようにして、スクィーラに近づいてくる。

 スクィーラは自分の瞳から熱い液体が流れ出してくるのを感じた。その液体は限りなく熱く、火傷をしてしまいそうな程にまでに煮えたぎっているような気がした。

 「わ、私のような存在を……、た、対等に扱う……? う、嘘だ、嘘だと言って……言ってくれ……!」

 溢れ出してくる感情を抑えることがスクィーラにはできなかった。

 「だ、駄目だ……! 私の本当の姿を見れば……! 唯の醜い化け物としか映らない……!」

 そう、皆がこのような言葉を掛けるのは今の自分が偽りの姿だからだ……。一皮向けば醜悪なバケネズミとしての本来の姿がある。

 どんなに言葉で取り繕っても、本能が、理性が本当の自分を拒絶してしまう。所詮自分は人間とは違う姿なのだ。

 誰がこんな醜い自分を受け入れてくれよう? 怪物に改造された祖先が受けた罪人の烙印のようなものだ。この呪われた姿は
普通の人間からはかけ離れすぎている。

 「本当の……! 本当の姿など見せたくない! 貴方達も私を醜いケダモノとしか見ないだろう! この姿は偽りのものに過ぎない! 私が真実を見せれば……!!」

 「塩屋……。誓うぞ、俺達はお前のどんな姿だろうが受け入れてやる!!」

 それは真摯で、勤勉で、文武両道、仁義八行を体現する柊四四八の嘘偽りのない力強い言葉だった。

 「栄光がお前の正体に気づいてから一ヶ月間、お前の本当の姿を受け入れるかどうかを俺達は議論したんだ。実を言えばお前の本当の姿については俺と
栄光にはもう気付いてるんだ。だがお前が自分の意思で自分の本当の姿を見せなければ何の意味もない」

 「夜中にこっそり寮にある塩屋くんの部屋に行った時に塩屋君が言っていた言葉だけどね、「自分は受け入れて貰えるわけがない」って言っていたよ。立ち聞きは
悪いんだけど、放課後の教室で一人で泣いてる塩屋くんが気になったんだ」

 そう、五ヶ月もの間を一緒に過ごせば自分の持つ秘密が漏れるのは当たり前だ。この七人はスクィーラの持つ苦しみ、孤独を共に生活してきた五ヶ月間の間に感じていたのだ。

 「塩屋、お前は胸を張って本当の姿を曝け出してみろ。姿形を云々言うのは俺達の、千信館(トラスト)の考えじゃない。お前は欲しかったんじゃないのか? 仲間を、自分を
受け入れてくれる存在を」

 四四八の言葉がスクィーラの胸に突き刺さる。

 「柊さん……」

 そしてスクィーラは意を決して偽りの肉体から、真実の肉体に切り替える。虚飾の殻に閉じこもっていては何も始まらないのだ。そんなことも気付けなかった自分が恨めしい。

 神栖66町の者達に面従腹背していた頃とは違う、本当に心からバケネズミを受け入れてくれる存在がいて欲しかったと願っていたのだ。もう頭を下げるのには疲れた。もう
恐怖で従わされるのにはウンザリだ……。

 スクィーラは恐れていたのだ。この姿を何より恐れていたのは他ならない自分自身だったのだ。この自分の姿を何より恐怖し、嫌悪していた。

 どうせこの醜い姿を受け入れてくれる存在などいるわけがない。

 どうせこの化け物のような生き物は排除される。

 どうせ自分のような人間とはかけ離れた怪物は人間から嫌悪される。

 幾度となく自分自身の姿を呪ってきた。自分自身の姿を幾度となく嫌悪してきた。

 自分自身の真実の姿を何より憎んでいたのは自分なのだ……。

 そして余す所なく七人に自分自身の真実の身体を曝け出した。隠す必要もない、虚飾の肉体で偽る必要もない。目の前の七人は自分自身の本当の姿を受け入れると言ってくれた。

 それに応えなくてはならないのだ。嘘偽りの装飾品で塗装された姿は本当のモノではない。まず自分の本音を、真実を伝えないことには始めらない。

 本当に自分を受け入れてくれる仲間にようやく出会ったスクィーラ。目からは涙が止め処なく流れてくる。スクィーラの胸の中には炎は燃え盛っていた。

 熱いのは流れてくる涙だけではない。自分の身体全てが熱くなっている。これ以上ない程の解放感に満たされていた。そして自分の体の中には抑えきれぬ程の
炎が燃え盛っている……。

 「ようやく本当の自分を見せてくれたな」

 四四八の顔には嘘偽りのない笑みが浮かんでいる。世良に至っては目に涙を浮かべていた。

 「私の本当の名前はスクィーラ。塩屋虻之は偽りの名です」

 今、ここにスクィーラは本当の名前を七人の仲間達に告げた。そう、これから戦いが始まるのだ。人類の未来をかけた呪力者達との戦いが……。 
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