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あさきゆめみし

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第二章


第二章

「だからね。このままね」
「このまま?」
「ずっと一緒にいられたらいいわね」
 青い空の下で。彼女が言った。
「私達こうしてね」
「そうだね。折角出会えたんだからね」
「このままね」
 こうした話をした。その時僕はこのまま幸せになれると思っていた。そんな淡い夢を抱いていた。けれどそれでもだった。急にだった。
 ある夜携帯が鳴って。その知らせが来た。
 彼女が交通事故に遭って。そのまま死んだ。
 僕は急いで病院に向かった。病室にはもうだった。彼女が眠っていた。
 静かに目を閉じて白いベッドの中で眠っている。その彼女を見て全てを悟らざるを得なかった。彼女は本当に死んでしまった。
 急なお別れだった。僕は何が起こったのかわからなかった。わかりたくもなかった。それでだった。
 僕は一人になった。あの道を一人で歩くようになった。その中で。
 僕は思った。彼女とのことを。
「夢だったのかな」
 僕は呟きもした。
「彼女とのことは。夢だったのかな」 
 急にそう思えてきた。一人になって。
 それから暫く一人で歩くだけになった。本当に寂しかった。
 けれど暫く一人でいるうちに。僕はこうも思えてくるようになった。
「確かに一人だけれど」
 それでもだというのだ。
「一人になったけれど」
 自分で自分に言い聞かせる様な感じになった。そのうえで言っていく。
「それでも彼女はいたんだ」
 こう話した。
「確かにいたんだ。僕と一緒に」
 そのことがわかってきた。僕達は二人で確かにいた。
 そしてこの道を歩いていた。それは確かなことだと実感できてきた。
 夢じゃなかった。夢の様だけれど。
 そのことを実感して立ち止まる。そして目を閉じる。
 町の喧騒と川のせせらぎ、子供達の楽しい笑い声が聞こえる。あの時は彼女の言葉だけを聞いていて聞こえなかったものだ。
 けれど今は聞こえる。その聞こえるようになったものを聞いてから。
 また目を開けた。そうして僕は。
 前に足を踏み出した。小さな一歩だけれど。
 その一歩を踏み出してだ。それからまた思った。
 一人になったけれどそれでも彼女と一緒にいた。そのことを思い出にしてまた。
 この道を歩いていくことにした。そのことを決めた。僕の中で。
 そしてその僕に。今度は。
 二年になってから。一年生の後輩に二人になった時にこう告白された。
「よかったら私と」
 見れば彼女によく似た娘だった。その娘からだった。
 交際を御願いされた。それを受けて。
 僕はまた一人から二人になった。新たな出会いが新たな恋になった。
 それで今度はいつも電車の中で一緒にいるようになって。それでだった。
 後輩の娘がだ。こう言うのだった。
「私、何かとても」
「とても?」
「先輩と一緒にいると落ち着きます」
 夢を見ている様な温かい微笑みでの言葉だった。
 その言葉を口にしながら僕の横に座っている。その彼女を見て。
 僕もまた夢の中に入った。二人で見る夢は浅いけれど奇麗で忘れらない。その夢の中に入って。そうして電車の窓から見える空を見た。その空はあの時とは同じだけれどそれとはまた別のものだった。その空を二人で見ていた。


あさきゆめみし   完


                 2011・5・5
 
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