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闇の魔法使える武偵はおかしいか?

作者:コバトン
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〜IF〜 分岐する未来

 
前書き
今回投稿したのは、ハーメルン版のストーリーと同じ物です。
いろいろ考えた結果、暁版ではストーリーを変えてオリジナルを濃くしようと思い、ハーメルン版とは違うストーリーを書くことにしました。 

 
光の奴はどこ行ったんだ?
今は昼休みと5限目の間、移動時間だ。
昼休みに消えた友人の事を考えながら専門科目を受講するために俺、遠山金次は探偵科(インケスタ)棟にやってきた。
今日は依頼(クエスト)を受けるか。
侵略者(アリア)は今頃強襲科(アサルト)で戦闘訓練してるはずだしな。
アリア対策として校外に出る為に探偵科の依頼板(クエストボード)を見て簡単な依頼を探していく。
Eランクの俺でも受けられる楽な依頼ないかなー。
単位が貰えるならなんでもいい。
俺は来年からは一般高に通って『一般人』になる。
その目標の為にも、まずは平穏な日常を取り戻さないとな。
単位や報酬、仕事内容が書かれた依頼書を見ていくと俺にぴったりな依頼が二つあった。
一つは猫探し、もう一つは古代遺跡調査の手伝い。
猫探しは青海(あおみ)地区、古代遺跡調査は東大に行かないといけない。
どちらも報酬1万、0.1単位分の仕事だ。
どちらにしようか迷っていると俺の隣にいた少女に先を越された。
「あっ…」
「何です?」
その顔には見覚えがある。
確か同じ探偵科の2年綾瀬夕映(あやせゆえ)だ。
俺より1歳歳上なんだが…授業サボりまくって留年したとか。
実は帰国子女で異国の超能力者養成教育機関に留学していたとか。
そんな風に噂されてる奴だ。
「いや、それ。俺が受けようかなと思った依頼…「それは失礼。残念です。
久しぶりに非日常の世界に行けると思ったのですがここの東大の助教授がまた面白い人なのです。
はあー浦島先生の講義に参加したいです…」ああ、いや先に取ったのは綾瀬だからそれ受けろ。
俺はこっちの猫探しにするから」
武偵高(うち)だけでも充分非日常的だろと思いつつ綾瀬に依頼書を渡す。
「いいんです?」
「ああ。依頼が受けられるのなら内容はどれでもいい」
ヒステリア地雷がないならな。
「ふむ。それではお言葉に甘えるです。
お返しにお礼としてコレあげるです」
そう言って綾瀬は俺に缶ジュースを渡してきた。
缶には『桃まんコーラ』と書かれている。
「嫌がらせか⁉︎」
「なっ⁉︎失礼な。コレ結構いけるんですよ?」
そう言って制服のポケットからコーラ缶を出して飲みはじめた綾瀬。
ゴクゴクと美味そうに飲んでるよ。桃まんコーラ。
「ふう。やはり武偵高の飲み物もなかなかいけますね。
麻帆良やアリアドネーとはまた違った変わり種がありますしこれは趣味の飲み物探しが楽しみです」
ぜ、全部飲み干しやがった。
そんなに美味いのか?
桃まんコーラ……。
「では、私はそろそろ行くです。お名前は何でしたっけ?」
「同じ探偵科2年の遠山金次だ。
綾瀬は年上だし先輩呼びの方がいいか?」
「別に普通に綾瀬でいいです。
私は遠山さんと呼ぶです」
「じゃあ…綾瀬って呼ばせてもらうな」
「はいです。ではまた…」
綾瀬は依頼書を受け取ると依頼の詳細確認をしに教務科(マスターズ)に向かう為に探偵科棟の出入口に歩いて行った。
「変わった奴だな」
探偵科の綾瀬との出会い。
俺は思いもしなかった。
この時の出会いによって俺の人生が『普通』から離れた非日常的(ファンタジー)な世界で過ごすことになるなんてな。
探偵科で依頼を受けた俺は探偵科の専門棟を出ると…
「キーンジ」
探偵科の専門棟の前で待ち伏せしていたアリア(・・・)に、俺は膝から崩れ落ちる。
ガーンだな……出鼻をくじかれた。
「なんで……お前がここにいるんだよ……!」
「あんたがここにいるからよ」
「答えになっていないだろ。強襲科の授業、サボってもいいのかよ」
「あたしはもう卒業できるだけの単位を揃えてるもんね」
アッカンベー。紅い瞳をむいてベロを出したアリアに、気が遠くなる。
美少女が校舎を出るのを待っていてくれていた。
全国の男子諸君の憧れだろう。
だけどな、その美少女が二丁拳銃や二刀の小太刀で襲いかかってくる凶暴娘でも嬉しいか?
俺は嫌だ!
「で、あんた普段どんな依頼を受けてるのよ」
「お前に関係ないだろ。Eランクにお似合いの、簡単な依頼だよ。帰れっ」
入試の際にSランクに認定されたがアレは白雪を助けた際にヒスったせいでなったんだ。
普段の俺にはEランクがお似合いだ。
「あんた、いまEランクなの?」
「そうだ。1年の3学期の期末試験を受けなかったからな。
ランクなんか俺にはもうどうでもいいんだよ」
「まあ、ランク付けなんか確かにどうでもいいけど。それより、今日受けた依頼(クエスト)を教えなさいよ」
「お前なんかに教える義務はない」
「風穴あけられたいの?」
イラッとした表情のアリアが銃に手をかける。
「今日は……猫探しだ」
「猫探し?」
「青海に迷子の猫を探しに行くんだよ。報酬は1万。0.1単位分の依頼だ。
本当なら光も誘おうと思ってたんだが…連絡がとれないから一人で行くんだ」
「光を誘おうとしてたの?」
「ああ。あいつは何故か探し物とか得意だからな。
まるで最初からそこにあるのがわかっていた(・・・・・・)みたいな感じで、あいつの的中率は100%だ!」
「やっぱりあいつにも(・・)何かあるのね!
私も行くわ」
「ついてくんな」
「いいから、あんたの武偵活動を見せなさい」
「断る。ついてくんな」
「そんなにあたしがキライ?」
「大っキライだ。ついてくんな」
アリアは一瞬傷ついたような顔をし顔を伏せ、すぐに顔を上げ目を吊り上げた。
「もっぺん『ついてくんな』って言ったら風穴」
少し言い過ぎたかと思ったがアリアが普段通りに振舞っていたので俺は気にするのをやめた。
仕方なくアリアを引き連れたままモノレールで青海まで移動した。

かつて倉庫街だった青海地区は再開発され、今は億ションとハイソなブティックが立ち並ぶオシャレな街になっている。
「で、猫探しっていうけど、あんたどういう推理で探すのよ」
アリアが聞いてきた。
「別に。猫の行きそうなところをしらみつぶしに歩くだけだ。光なら猫がいる場所にすぐに向かうけどな。ていうか……お前こそ何か案でも出せ。俺に聞くぐらいなら、何かあるんだろ」
そうアリアに聞き返すとアリアは首を横に降った。
「ないわ。推理はニガテよ。一番の特徴が、遺伝しなかった(・・・・・・・)のよねえ」
つまらなそうに言うアリアは、形のいいおでこの下から俺を上目遣いに見た。
「ていうか、おなかすいた」
「さっき昼休みだったろ。メシは食わなかったのかよ」
「(桃まん)食べたけどへったのっ」
燃費の悪い奴だな。というかこいつが食ってるのもしかして全食桃まんじゃねえか?
そんな疑問を持った俺はアリアに聞いてみた。
「お前、普段何を食べてんだよ?」
「もちろん桃まんよ!」
だ、駄目だコイツ。早くなんとかしないと。
桃まん中毒者の行く末はアリア(コイツ)みたいになるんだな。
ヤバイ、ヤバイぞ。桃まん。
桃まんに秘められた恐ろしき副作用()に驚愕していると…
アリアが突然唐突に言ってきた。
「なんかおごって」
「いきなり足を引っ張るのかよ」
まだ猫のね文字も見つかっていないにもかかわらずもうアリア様は動けないようだ。
でも、まあ。今日は依頼を選ぶのに時間がかかったせいで俺も昼飯は抜いたしな。
しょうがねぇ…おごってやるか。
「ハンバーガーでいいか?」
アリアにそう言っていた。


女王様(アリア)がご要望なさったギガ⚫️ックセットを、奴隷の俺が買って戻ってくると……アリアは、高級ブティックのマネキンを見ていた。
何をしてんだ?
よく見るとアリアはマネキンが着ているサニードレスと、自分の身体を交互に見ている。
……ぷっ。
アリアの奴、マネキンにあってアリアにない部分を凝視していやがる。
何度確認してもアリア、お前はひんにゅーだ。
ああいう体型に憧れてるんだな。
寄りも上がりもしない小学生体型のくせに。
「おい」
「___あ」
振り返ったアリアは俺が含み笑いをしていたのに気付いたらしい。
ぶわあああと真っ赤に顔を染めると両手をブンブン降った。
「___ち、ちがうの!あ、あたしはスレンダーなの!これはスレンダーっていうの!」
どっからどう見ても小学生だろ。
と言いかけたが言ったら風穴なのでやめた。
「あっちの公園に行くぞ」
道の反対にある公園の中に入って行った。
アリアは後ろについてきた。なんだか怒ってるような、何かを言いたいようなそんな顔をしている。
空いてたベンチに座るとアリアの奴も隣に座った。
ハンバーガーを食べながらアリアに言っておいた
アリア(はりは。)ここの公園では離れていた方がいいぞ?」
はんへよ(なんでよ)
「辺りを見りゃわかるだろ」
俺は飲みさしのコーラを置いて、視線で周囲を指す。
この公園はデートスポットになっていて周りはカップルばかりだ。
「あ……」
向かいに座っているカップルがくっついたのを見て、アリアはポテトをくわえたまま一瞬硬直した。
俺とカップルを何度も見て真っ赤になった。
コイツ、赤面癖があるみたいだな。
「……う。う!」
ウブなんだな。
「ほらな。もう帰った方がいいぞアリア。
こんな所を2人で歩いたら、またキンジとアリアはつきあってるとか言われちまうだろ。俺は目立ちたくないんだ。お前だって好きな男とかいたら誤解されちまうぞ」
「す、好きな男なんて!」
アニメ声を裏返した。
「い、い、いないっ!あたしは、れ、恋愛なんて___そんな時間のムダ、どうでもいい!ホンっトに、どうでもいい!」
過剰反応し過ぎだ。
アリアの弱点発見だな。
「でも、友達とかにへんな誤解されたくないだろ」
「友達なんて……いないし、いらない。言いたい奴には言わせればいいのよ。他人の言うことなんてどうでもいい」
じゅるるるる。
そう言ってコーラを飲みだした。
「他人なんてどうでもいい、ってのにはまあ賛成だがな。一言、言いたいことがある」
「なによ。けぷ」
「それは俺のコーラだ」
アリアはコーラを吹き出した。
「このヘンタイ!」
いきなりなぐってベンチから吹っ飛ばしやがった。
痛えな。この馬鹿力やろう。
「理不尽だろ⁉︎」
「うっさい。コーラあたしの分まで零しちゃたじゃない!
買ってきなさい!今すぐ」
理不尽すぎだろ。
コーラと聞いて俺は制服のポケットに入れたままのあのコーラがあることを思い出した。
「もらいもんだが、飲むか?」
桃まんコーラを見せると。
アリアは……。
「桃まん⁉︎」
桃まんという文字に目を輝かしていた。

桃まん…マジ恐ろしい奴。




夕方。ようやく迷子の猫を見つけた。
公園の端、ドブというか運河にいたんだ。
にぃ、にぃ、とよわよわしく鳴く子猫は資料にあった特徴と同じだ。
「よーし。おとなしくしてろよー……」
ガサガサと空き缶やゴミの中に手を入れて、毛を立てた猫を取り出した。
猫は俺と目があうと逃げだそうともがいた。
「お、おい……おっ、うぉっ」
猫をだいたまま、運河の浅瀬にひっくりかえってしまった。
アリアは何だか小声で呟いている。
読唇すると。
『……へんねぇ?』とか言ってる。ってか助けろよ。
「大丈夫ですか?」
突然、アリアに近づき隣りに並んだ女性がそう声をかけてきた。
「あんた、誰?」
アリアはその女性が着ている服が武偵高の制服に似ている物とわかるやいなや女性に訪ねた。
「遠山さん、平気ですか?」
アリアの質問には答えずに俺に声をかけてきたこの人を俺はよく知っている。
光に以前紹介されて面識があるからだ。
俺が武偵高内で唯一ヒステリアモードにならない人だ。
「平気です。茶々丸さん」
通信科(コネクト)2年の絡繰茶々丸(からくりちゃちゃまる)
雪姫先生の遠縁ということになっているがどうみても人間じゃない。
どうやって武偵登録したのか凄く不思議だ。
見た目完全にロボットなんだけどな。
噂ではよく装備科(アムド)(チャオ)先輩や葉加瀬(ハカセ)先輩の実験室に出入りしているらしい。
「よかったです。ここの子猫に餌をあげにきたら遠山さんが運河に落ちたので…。
ご無事で何よりです」
「あ、あんたこの人知ってんの?」
アリアがそう聞いてきたのでいきさつを話した。
「ふうん。通信科の武偵なのね。
ランクは?」
「Sです」
茶々丸さん、Sなのかー。それは知らなかった。
茶々丸さんが持ってきた猫缶を子猫に与えると子猫はおとなしくなった。
「ではわたしはそろそろ戻ります。
今日八神さんはマスターの所にいますのでご心配なく」
そう言って茶々丸さんは帰っていった。
後には俺とアリアと子猫だけが残った。



その後。
教務科で依頼の報告をしていると教務科の扉が開かれ、何故かボロボロ姿になった光が入ってきた。
心配して声をかけると。
「雪姫が……雪姫に殺される……」
ガタガタ震え怯えていた。
一体何があったんだ?











★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★



「…ろ」
ん?声が聴こえる。
「…きろ」
何だ?さっきより近く感じる。
「起きんか‼︎」
「ッ⁉︎」
ガバッ___耳元で大声で叫ばれたせいで変な感じがする。
耳鳴りが酷い。
こんな不快な起こし方をする奴は彼女しかいないな。
そう思い顔を上げて俺を起こした奴を見ると彼女(・・)はトレードマークの腰まで伸ばした黒いストレートヘアーと頭頂部にあるアホ毛を揺らし、俺の顔を覗きこんできた。
「まったく、いつまで寝てんのよ!」
「いいだろ。昨日の残業で疲れてんだよ」
たまの休みくらい寝かせろよ…そんな風に思いながら寝返りをうつと彼女は…。
「あ〜も〜いい加減起きなさいよ‼︎」
このままでは拉致があかない。そう思った彼女は俺を起こす為の秘策(・・)を用意していた。
……。
静かだな。諦めたのか?
そんな簡単に諦める奴ではないはずだったが睡魔には逆らえずそれ以上思考することを放棄して惰眠していると…突然耳元でカンカン鳴り響いた。
「あ〜もううるせぇな〜⁉︎」
耳元で響く音に驚き目を覚ました。
「やっと起きた。
もう、寝坊助なんだから!
ちゃちゃと朝ご飯食べてよ!」
うるさいな、お前は俺の母親かよ!と思いながら起き上がると彼女は俺の顔に自身の顔を近づけてきて唇にキスをしてきた。
「ぷはぁ……もういいだろ?」
長い口づけで呼吸が苦しくなり彼女の顔を放した。
「……ん、よし!
マーキング終了!」
そう言い彼女はガッツポーズをして微笑んだ。
「意味がわからん」
マーキングってなんだ?と疑問に思う俺の考えを読み取ったようで彼女は説明しはじめた。
「そりゃあ…もちろんみー君の側に泥棒猫が近づかないようにおまじないをかけたんだよ」
「おまじない?」
「うん。みー君の安全を守るのは私の役目だからね!」
「役目って……親父の言うことなら聞かなくていいんだぞ?」
あんな社会不適合者なんて。
「駄目だよ。みー君は私の……なんだから!」
話してる途中からボソボソと声の音量を落として話したせいで彼女が何を言ったのかは最後までわからなかった。
「みー君は私が守るよ!
だって私は……警視総監の娘だもん」
「ならなおさら駄目だろ⁉︎」
え?何でっていう顔をする彼女に言って聞かせた。
「だって俺ん家。
ヤクザだし」
そうあの頃の俺の実家は裏家業まっし暗。地元では知らない者はいないほどの古くから続く極道さんだったんだ。
「だから正義の味方のお前ん家とは相容れない。
敵なんだよ!
だから帰れっ!」
「関係ないもん。私はヤクザだから恋したんじゃないもん…みー君だから好きになったんだもん」
顔を真っ赤に染めながら俺に自分の気持ちを伝えてきた彼女。
その時自分の顔を鏡で見てたらきっと真っ赤だったんだろう。





場面が変わり。


季節はクリスマス真っ只中の12月。
コタツとツリーがある部屋で俺の帰りを待っていた彼女は俺が帰るとコタツから出ようとした。
「おい、馬鹿!
あんまり動くな」
動こうとする彼女を慌てて止めた。
「もう、平気だよ。
ちょっとくらいなら動いた方がいいってお医者さんも言ってたし」
そう言いながら左手で自身のお腹を摩る彼女。
彼女が俺に告白してから2年。
俺達は入籍していた。
年明けには新しい家族もできる。
まさに幸せの絶頂期だった。






さらに場面が飛ぶ。


俺達の赤ちゃんが無事生まれ、桜が咲き誇る季節。
いつも通り俺は出社し、彼女は育児と家事に追われていた。
お互い助けあって、時にはケンカし、時には殴り合い、そして土下座(俺限定)する絵に書いたような幸せな家庭だったがそんや幸せは長くは続かなかった。



俺の実家で抗争があって親父と跡継ぎだった兄が死んだからだ。
急遽俺は実家に戻らなくてはいけなくなった。
彼女と何度も話し合いをした結果、俺は一人で実家に戻る決意をした。
巻き込みたくなかったからだ。彼女も、生まれたばかりの娘もな。
彼女との別れの挨拶は意外と短かった。
「またね…」ってな。





また場面が変わった。

俺が実家を継いでから3年。
俺はシマを荒らした敵対勢力を潰す為、『出入り』を行っていた。
信頼できる部下達を引き連れ、『害』を与える者達を駆逐していた。
俺の家は古くから続くヤクザだけあり代々受け継がれる鉄の掟と云われるものがある。
『弱きを助け、強きを挫く』
正義の味方……ではないが、偽善者の集団だったのは間違いない。
資金も悪徳業者を潰した物や祭りの屋台、マカオのカジノから吸い上げたものなど法に触れない事を前提に活動していた。
もちろん弱者から依頼されても基本は彼らからは直接吸い取らなかった。
警察もその辺は熟知しており持ちつ、持たれずの関係で共存していたんだ。
あの日までは(・・・・・・)




その日、警察官僚が2人銃撃され死んだ。
警察は事件解決の為、自分達の有能さをアピールする為に早期解決にこだわり、ある組員を逮捕した。
他らならぬ、俺の部下を、な。
すぐに義理父(・・・)に連絡を取ったが相手にされず、俺達の組は世間から非難された。
殺人犯の溜まり場というレッテルを貼られ、俺は人を信じられなくなっていた。


そんな時だった。
ずっと音信不通だった彼女から連絡がきたのは…。
娘はもう幼稚園に通う年齢になっていた。
彼女に似てるから将来は美人になる。そう確信していたが残念ながらなれなかった。






娘は殺された。
俺の部下だったある男に。







信じたくなかった。
だけど俺の元に送られてきた包みに娘の頭部が入っていたのを目の当たりにし、俺は信じるしかなかった。
それと同時に絶望した俺は残った部下を引き連れ娘の仇討ちに向かった。
元部下は組の情報を流し、あろうことか警察官僚を殺った組織に取り入りその試練として、何の罪もない娘を射殺しやがったんだ。
許せない。
そう思った俺は親父の遺品から大型拳銃、デザートイーグルを持ちだした。
敵対者を射殺しながら屋敷を進むと離れに元部下と何故か彼女がいた。
彼女は人質に取られていたんだ。
元部下は俺に武器を捨てろと言った。
だけど彼女は武器は捨てないで(・・・・・・・・)と叫んでいた。
俺はその場を動けなかった。
あの男は憎い。
だけどあの男のすぐ前には彼女がいる。
撃てない。撃てるわけなかった。
「終わりだ!」
男がそう叫び男が手に持つ銃で俺を撃とうとした時、男の拘束がわずかに緩んだ彼女は男と俺の間に、直接線に飛び出した。
そして撃たれた。俺の目の前で。
俺は怒りのあまり男の眉間と左胸の二箇所を放った2発の銃弾で撃ち抜き殺した。
外しはしなかった。昔から射撃はちょくちょくやらされていたから得意だった。
人間を撃ったのはこれがはじめてだったけど。
彼女に駆け寄ると彼女の胸からは血が流れていた。止まらない。流れつづける血液。染まる紅い色。
俺は自分を攻めた。もっと早く撃っていれば。力があれば(・・・)彼女を救えたのにと。
血を流し続けているのにもかかわらず彼女は俺に微笑んだ。
笑っていた。
死が近いはずなのに微笑んでくれたんだ。
今思えば彼女が俺を安心させる為にしてくれたんだろう。
死が怖いはずなのに『わずかな勇気』をだして。
だけど当時の俺は気づけなかった。
それどころかこう思っていた。
やめてくれ。そんな顔を俺に向けんな。
俺には君に微笑んでもらえるような資格はないんだ。
そう思った俺は無意識の内に手に持つ銃を自身の額に向けていた。
トリガーを引く直前、彼女の顔が見えた。彼女は泣いていた。俺は彼女を最期の最期で泣かしてしまった。
さっきまであんなに微笑んでいた彼女を泣かしてしまったんだ。
ガチャッと音がし振り向くと。
俺が殺したはずの男が立ち上がっていた。
眉間と胸からは血が流れている。
最期の悪あがきだったんだろう。
俺は抵抗するのを放棄した。
俺は逃げたんだ。
死にたかった。彼女と娘を守れなかった情けない男だった俺は彼女の『わずかな勇気』を踏みにじって『死』に逃げた。
人として『最低な行い』をした。
俺は男に撃たれ、そして気がつくと草原に寝ていた。
そして女神様と出会った。





これが俺が犯した『最低最悪な罪』と今までのいきさつだ。








「……ろ!」
声が聞こえる。
「…きろ!」
またあの夢か?
一体いつまで見続けるんだろう。
終わらない悪夢。繰り返される絶望。
夢なら早く覚めろ。そう思っていると。
「起きんか!」
ゴンッと脳天に強烈な衝撃を受ける。
この痛みを生み出せるのは…。
「……痛ぇな!
普通に起こせ、馬鹿吸血鬼‼︎」
俺が文句を言うと。案の定。
「ほう。師匠を馬鹿呼ばわりとは随分といい身分だな。オイ」
目つきの悪い目をより悪くしている雪姫が俺が寝かされているベッドの側に立ち俺の顔を覗きこんでいた。
「随分と愉快な夢を見ていたようだな?」
ちっとも愉快じゃねぇよ。
「最初、デレデレだったではないか」
げ?ま、まさか彼女に告白されたシーンを見られた?
そういやぁ、夢見の魔法とか記憶を覗く魔法とかあったな。
「靄がかかっていたから全部見れなかったがあの美少女は誰だ?
うん?」
何故だか雪姫は目を吊り上げ、頬をわずかに膨らませて俺の首を締め付けてきた。
「師匠命令だ!吐け」
師匠関係ないだろ⁉︎
「な、なんでもない。ただの夢だ…」
そう言ったが信じなかった。
何故か機嫌を損ねた雪姫に引きずられた俺はダイオラマ魔法球の中で丸4日程、現実世界で四時間ほどこってり、たっぷりシゴかれて肉体的にも、精神的にも追いつめられた。
まあ、でも特訓(いじめ)のおかげで取得中だった『雷の斧』と雪姫から新たに習った『雷の投擲』を取得することができた。
結果オーライなのか……いや、どう考えてもデメリットの方がデカイ。
雪姫に2日ほどサンドバックにされたせいで耐久性がまた上がってしまった。
吸血鬼に攻撃されても死なないとか、俺もしかして人間辞めてる?
ダイオラマ魔法球の外に出ると日は暮れており、教務科で金次に声をかけられた。
金次はアリアと依頼(デート)してきたようだ。俺は雪姫との鬼ごっこで(吸血鬼の八つ当たりで)走り周りクタクタになってたので金次に何かを呟いたようだがそれが何なのかはよく覚えていない。




余談だが。
雪姫からは今後ダイオラマ魔法球を自由に使う許可を取り付けた。
代わりに見知らぬ女に近づくことを何故か禁じられたが……なんでだ?







金次と共に教務科(マスターズ)を出ると金次がゲームショップに行かないかと誘ってきた。
気晴らしになるかと思い金次の案内でゲームショップへ向かった。
歩くこと数十分。目的地に着くとそこは…
「おい、金次。何だここは?」
目の前の建物を見てそう言う俺。
「ゲームを売ってる店だ…」
そんなことはわかってんだよ。馬鹿金次。
「俺が言ってんのは何でゲーム買いにビデオ屋に来たのかって聞いてんだよ⁉︎」
俺達がやって来たここは、学園島で唯一のビデオショップ屋。R15のゲームが置いてある(・・・・・・)店だ。
「……報酬だよ」
金次はそう呟き店内に入って行った。
後に続きながら考える。
報酬?
「ある奴にアリアの情報を探らせてるから、これはその情報料代わりだ」
金次のその言葉で俺は彼女(・・)の計画を思い出した。
「……理子か」
峰・理子(みね りこ)
探偵科(インケスタ)のAランク武偵。
ネット中毒者の上にノゾキ、盗聴盗撮、ハッキングなどの情報収集能力に秀でた、現代の情報怪盗(・・・・)だ。
「明日、女子寮の温室前で会うことにしてる」
金次がそう言い、ポケットから出したメモを見ながら買うゲームを手に取っていく。
「それ、俺も行っていいか?」
俺がそう言うと金次が驚いた顔をした。
「光。どうした?
お前がそう言うなんて珍しいな」
ああ。俺もそう思う。
今までの俺なら関わらなかったな。
けどなんでかな。原作のイベントだからこそ(・・・・・)関わらないといけない。
そう思ったんだ。
「……駄目か?」
金次にそう聞くと。
金次は首を横に振り答えた。
「いいや。俺はいてもいい。むしろいてほしい。
理子と女子と2人っきりだと正直辛い」
ヒステリアモードになりたくないからか俺が参加する事に同意した金次。
気持ちはわからんでもないが金次今の台詞、学校や人前で言うなよ。変な誤解を招くぞ。
「じゃあそうと決まったらさっさとゲーム選んで帰ろうぜ!」
金次の支払いを待ち、会計が済んだ俺達は第3男子寮へと歩きだした。
因みに金次はゲームの中に続編物(シリーズ)を入れようとしていたが止めた。
彼女(・・)が傷つく行為をする必要はないと思ったからな。
男子寮に着くと金次の携帯に着信がきた。
着信相手は……アリア(・・・)からだ。
金次が出ると開口一番に…
「馬鹿金次!あんた今どこにいんのよ!
さっさと帰ってきなさい!」
奴隷(金次)を叱責するアリアのアニメ声が響いた。
「だー、うっせぇー!今寮の前だ。光もいる」
金次がそう返すと御主人様(アリア)から俺に代わるようにとの指示が出たようだ。
「ちょうどいいわ!ミツル。あんたもこれから(うち)に来なさい!」
逆らうと面倒そうだったので仕方なく、本当に仕方なく行くことにした。
「わかった。場所は……OK!
今からすぐに行くよ」
そう言って金次の携帯を切り金次に返すと金次が尋ねてきた。
「どこに行くんだ?」
「お前の部屋」
「なっ⁉︎」
絶句してる金次。
「ま、頑張れや〜。女子と同棲とか……アアウラヤマシイ」
「最後棒読みだ!」
あたり前だろ。いくら美少女でもツンツンのアリアさんは勘弁だ。
アリアは可愛い。それは認める。けどな、二丁拳銃や二刀小太刀持ち歩いてる女子なんか誰でも嫌だろ。
「金次、戒名考えとけよ!」
「不吉な事を言うな」



金次の部屋に上がりこむとまず初めにリビングに置かれた大きな旅行鞄に目がいった。
「随分でかい荷物だな。なんだそれ?」
俺がアリアに聞くと。
「何って宿泊セットよ」
「は?」
「キンジが強襲科に戻るって言わないと」
「言わないと?」絶句してる金次の代わりに聞くと。
「泊まっていくから」
「は?ちょっ……ちょっと待て!何言ってんだ!絶対駄目だ!帰れ!」
金次は断固反対した。
「うるさい、うるさい、うるさーい!
あんたはあたしの奴隷なの!」
なんか既視感(デジャヴ)を感じるな。
アリアと金次の言い争いは夜中まで続いたらしい。
俺は早々に帰宅したからその後のことは詳しく知らない。



俺は自室に戻るととある人物(・・・・・)に連絡を取った。
「もしもし…」
電話をかけるとその人物からは不機嫌な返事が返ってきた。
「あ〜。もしもし?」
「……」
「こんばんわ。ちうたん」
「ちうたん言うな⁉︎」
鋭いツッコミを入れる電話先の相手。
彼女は情報科(インフォルマ)所属の2年。Sランク武偵だ。
「わかったよ。長谷川(はせがわ)さん」
長谷川 千雨(はせがわちさめ)。ありとあらゆる情報を掴んでいる腕利きの情報屋であり、その気になれば大国の国防総省(ペンタゴン)のコンピュータにハッキング出来る腕前を持つハッカーでもある。
年齢は俺より一つ上だが、一年間ほど引きこもって過ごしていた為、留年したらしい。
ランク考査は無理やり出されたらしくSランク。卒業できるだけの単位はあるが出席率は最悪で、ほとんど寮から出ないガチのニートになりつつあるという話だ。(薬味少年談)

「千雨で言いつたっろ」
「わかったよ、ちうたん」
「ちうたん言うな⁉︎」
どうやらちうと言うのは駄目らしい。
「わかったよ。千雨さん」
「ふん、で?」
俺は用件の一つでもある神崎・H・アリアについて情報収集を頼んだ。
「……。すぐ行く!」

ちうたんが家にやって来た。
「歯を食いしばれ!」
俺の側に近寄ってきた彼女は、突然俺の顔を殴った。
「くっ……」
ストレートパンチが決まり頬に痛みがでた。
「この、たらしが……」
何故殴られたかよくわからなかったが文句を言える雰囲気ではなかった。
「そんなにロリが好きならいつでも、ちうになっ……って待て私。落ち着け、早まるな。
危ねえ、盛大に自爆するとこだったぜー」
一人で何やらブツブツ呟く千雨。
顔が赤いのは風邪でも引いたのか?
「ゴホン。あー、そのだな…。神崎・H・アリアとはどんな関係なんだ?」
千雨さんがそう聞いてきたのでありのままを話すことにした。
「んー。一応、(仕事の)パートナーかな?」
「寝食は共にしてないよな?」
「あ〜。したけどあれは…」
「なっ⁉︎
ま、まさかそこまで関係を……
(ってきり仕事のパートナーだと思っていたが、まさか恋愛のパートナーだったとは……)
くっ……光。やっぱ後で殴る」
なんでだ?
その後も罵倒されたが結局ちうたんが何故怒りだしたのかわからないまま朝を迎えてしまった。




翌日。
「理子」
金次と共に向かった女子寮の前の温室に彼女はいた。
ここの温室。ビニールハウスだが人けがなく、秘密の打ち合わせには便利な場所となっている。俺もたまに神鳴流の女剣士さんとか魔眼を持つ必殺仕事人とか中国拳法のお師匠様とか糸目忍者さんとか元気が最強と言う口癖のバスケ部員とかとの会合や呼び出し、仕事の話などでちょくちょく使っている場所だ。
「キーくぅーん……あれ?ミっくんもいる?」
バラ園の奥にいた理子がくるっと振り返った。
理子はアリアと同じくらいチビだがいわゆる美少女の部類に入る。
ふたえの目はキラキラと大きく、緩いウェーブのかかった髪はツーサイドアップ。ふんわり背中に垂らした長い髪に加えて、ツインテールを増設した欲張りな髪型だ。
「相変わらずの改造制服だな。なんだその白いフワフワは」
「確か、白アリだか白ヤリとかそんな名称じゃなかったか?」
「違うよ!これは武偵高の制服・白ロリ風アレンジだよ!キーくん、ミっくんもいいかげんロリータの種類くらい覚えようよぉ」
「だが、断る」
「キッパリと断る。ったく、お前はいったい何着制服持ってんだ」
金次の質問に答える理子。
「ん〜と100着くらい」
「ひゃ……ひゃく⁉︎」
驚いて声もでないとかまさに今の状態を言うんだな。
金次は驚きながら手に持っていた紙袋から中身を取り出しはじめた。
「理子こっち向け。いいか。ここでの事はアリアには秘密だぞ」
「あと、俺がいたこともな」

「うー!らじゃー!」
ぴしっ。
理子はキヲツケの姿勢になり、両手でびびしっと敬礼ポーズをした。
金次が苦い顔をしながら紙袋を開けると、包装紙をビリビリに破いて鼻息をふんふんふんとしだした。
「うっっっわぁ______!『しろくろ』と『白詰草物語』と『妹ゴス』だよぉー!」
ぴょんぴょん飛び跳ねながら理子が両手をぶんぶん振り回しているのは、R15指定。
15禁ゲームだ。
「はぁ〜」
理子のテンションについていけず溜息を吐く金次。
仕方なく俺が金次の代わりに理子に聞いた。
「おい、理子。頼んだもん、あるんだろ?」
「_______あい!」
「よし、それじゃあとっとと話せ」
そして理子は語りはじめた。
アリアは強襲科のSランク武偵。友人はいないこと。徒手格闘、バーリ・トゥードや拳銃、ナイフの腕は天才の領域ということ。
二つ名は「双剣双銃」(カドラ)のアリア。
14歳からロンドン武偵局の武偵としてヨーロッパ各地で活躍していたこと。
99回連続逮捕で一度も(・・・)犯罪者を逃がしたことはないこと。
父親はイギリス人とのハーフで母親は日本人。
アリアはクオーターにあたること。

そして、アリアの一族は貴族の称号を与えられていること。
祖母は『デイム』の称号をイギリス王家から授与されていること。

『H』家の人達とは上手くいっていないこと。


それらが理子が集めた情報だった。


ま、俺は知ってたけどな。

「そうだよ。リアル貴族。
でもアリアは『H』家と上手くいってないらしいんだよね。
理子は知っちゃってるけどー。あの一族はちょっとねぇー」
「教えろ。ゲームやったろ」
「理子は親の七光りとか大キライなの。
イギリスのサイトでもググればわかるんじゃない?」
「まあ、そうだな」
俺は納得した…というような顔をした。
「俺、英語ダメなんだよ」
「がんばれやー!」
「おっと!」
理子が金次にぶつかりそうになったが理子を支えてやり金次の腕時計が壊れないように(・・・・・・・)してやった。
「危ねえな。気をつけろよ理子?」
「……。
あっ、う、うん。ゴメンありがとう」
理子は苦笑いを浮かべ俺から離れた。




俺と金次は理子と別れ、金次の部屋。第3男子寮へと向かった。






男子寮(マンション)に戻り、金次の部屋にお邪魔すると窓から見渡せる『学園島』を夕陽が金色に染めていた。
レインボーブリッジなどの湾岸地帯がよく見える。
隣の空地島は今は何もないが来年には宇宙軌道エレベーターの建設が予定されている。
ここから眺める湾岸の眺めは最高だ!
…ISSDA(国際太陽系開発機構)によりますと火星の緑地化計画(テラフォーミングプラン)は来年から本格的に開始されるとの事です。
事務局長のネギ・スプリングフィールド氏によると……」
ニュースが流れるテレビからは麻帆良に建設中の軌道エレベーターや火星を映した映像が流れている。
「ネギも大変だな…。
火星か……。
あっちの(・・・)世界も見ておきたいし、ゴールデンウイークにでも行ってみるかな」
高畑先生を通して交遊ができた薬味少年の事やあっちの世界の事を考えていると扉が開閉する音が聞こえ、四部屋ある個室の一室からアリアが出てきた。アリアは右手に『松本屋』と書かれた紙袋を持っている。
「あら?ミツル、あんた来てたの?」
「ああ。部屋に居ても暇だしな。
金次ならコンビニ行ったぞ」
「む?ちゃんと桃まん買ってくるかしら?」
手に持ってるその袋はなんなんだよ。そう思いアリアに聞くと。
「これは3時(おやつ)の桃まんよ!」
時刻を確認したがすでに3時は過ぎている。
「あたしが欲しいのは夕食後(デザート)の桃まんなのよ!」
桃まん食べ過ぎだろうと思ったが指摘したら(ガバメント)で風穴空けられるので聞こえないフリをして、テーブルの上に置かれていた新聞を読み始めた。
天気予報が載っていたので確認すると台風1号が沖縄に上陸しているようだ。
新聞をペラペラ捲りながら読んでいるとリビングの戸が開かれ、この部屋の主である遠山金次が入ってきた。
『太平洋上で発生した台風1号は、強い勢力を保ったまま沖縄上空を北上しています』
入りっぱなしのテレビからはアナウンサの声が聞こえ、沖縄市街地の様子が映し出されていた。
「遅い」
ソファーに腰掛け鏡を見つめていたアリアが金次に文句を言い放った。
「どうやって入ったんだ」
金次はそう言いながら俺を睨んできたので誤解を解くことにした。
「俺は知らない。
俺が来た時にはすでに中にいた」
「じゃあ、どうやって……」
どうやって入ったんだと金次が聞く前にアリアは「あたしは武偵よ」と無い胸をはって言った。アリアの事だ。
どうせピッキングかカードキーを偽造したんだろう。
「カードキー造ったのよ」
「偽造すんなよ」
「レディを玄関先で待ちぼうけさせる気だったの?許せないわ!」
「逆ギレするような奴はレディとは呼ばないぞ、でぼちん」
「でぼちん?」
「額のデカイ女のことだ」
「あたしのチャームポイントがわからないなんて!あんたいよいよ本格的に人類失格ね」
金次にそう言ったアリアはイタリアの雑誌にモデルとして載ったことを自慢げに話すと鼻歌を歌いながら鏡に視線を戻した。
金次は洗面所に行き手を洗いながら「さすがは貴族様。身だしなみにもお気を遣われていらっしゃるわけだ」と嫌味ったらしくアリアに言った。
するとアリアは……。
「……あたしのことを調べたわね?」
何故か嬉しそうな表情を浮かべ金次がいる洗面所に入って行った。
俺はそんな2人が入った洗面所をチラッと見て関わる必要はないなと判断し、視線を新聞に戻した。
「ふむふむ、国民的アイドルK泥酔して公園で全裸……そういやこんなのあったな」
懐かしい事件や文化芸能の記事を読んでいると洗面所が騒がしくなった。
うるさいな。何を騒いでんだあいつらは。
「だから、あれは不可抗力だっつってんだろ!それにそこまでのことはしてねぇ!」
「うっせぇーなー!何を騒いでんだよ?」
うるさいので仕方なく洗面所に行くとアリアは。
「ミツル。あんたは認めるわよね?」
「なんの話だよ⁉︎」
「なんか、アリアの奴が初めて犯人を逃がしたんだと」
「へぇー。金次をかー」
「ちょっと待て!さらっと俺を犯人呼ばわりすんな!」
「確か99回連続逮捕してたんだろー。
金次(100人目)を捕まえるんなら手伝うけど?」
「俺は犯罪者じゃねぇ!」
「……2人よ」
「2人?」
「あたしが逃がした犯人はあんた達2人よ!」

「「ちょっと待て!金次(光)はともかく、俺は犯罪者じゃねえ!」」
まったく、失礼な奴だな。金次の馬鹿はともかく俺が犯罪なんてするわけないだろ。

「強隈したじゃないあたしに!あんなケダモノみたいなマネしといて、しらばっくれるつもり⁉︎このウジ虫共!」

「「だからあれは不可抗力だってんだろうが‼︎」」
あれは事故だ。悪いのは脱がせた俺じゃなく、脱がす原因を作った金次だ。
「なあ、俺悪くないよなー親友?」
「ああ。ただの事故だしなー心の友よー」
うんうん。だよな。
そうだよな。
というわけで……。



「「あれはこいつの命令で……‼︎」」
お互いの顔を指差す俺と金次。
くっ……金次の奴。自分の事を棚に上げて俺に擦りつける気だな。
ヒスってないはずなのに狡猾な奴め。

「あー!もう、うるさいうるさいうるさーい!
とにかくあんた達明日、強襲科に来なさい!」
アリアは真っ赤になりながら俺達を交互に指差した。
「嫌だ!」
「断る!」
「ミツル。あんた来なかったら雪姫先生に借りたDVDばらまくから」
「はっ?」
「ミツルのこの一年間の醜態が記録されてるのよね!」
「なんでお前が持ってんだよ」
「決まってるじゃない!
借りたからよ。
残念でしたー、べー」
あっかんべをするアリア。
「今日、教務科に行ったら雪姫先生が貸してくれたのよ」
「あ、あの馬鹿教師…」
「ショックでパニックるミツルの顔を見たいって言ってたわ」
まずい、あれはまずい。なんとしてでも取り戻さないと。
アリアは金次に迫っている。
「あんた入試の時の成績Sランクだった!
直感だけどあんたとミツルはただの武偵じゃない。
特殊な条件下で何かしらの方法で力を発揮するタイプね」
鋭い、推理は苦手なアリアだか持ち前の直感力を発揮して調べたらしい。さすがは最高の名探偵(・・・・・・)の子孫だ。
その直感力は本物だ。
「金次とミツルはあたしと同じ前衛(フロント)でいいわね!」
「よくない。何で俺なんだ」
「まあ、俺は『魔法拳士』だから前衛でもいいけど……」
魔法使いには二つのタイプがある。
後方から火力が高い魔法を放つ、まさしく砲台のような(魔法使い本来の)役目の『魔法使い』と前衛で詠唱を唱えながら肉弾戦で闘う『魔法拳士』の2種類が、な。
俺は右指の中指に嵌めている白い指輪を見つめた。
この指輪は雪姫から貰った物だ。
魔法の発動体になる物らしい。
弟子になった日にくれたから他の杖を使わずにずっとこれを杖にしている。
「金次、なんでもしてあげる(・・・・)から条件言いなさい!」
うわ〜。アリア凄い事を言っている。
金次に何でもするって、それ性的にほにゃららすることだぞ?
普通の男なら今の台詞言われたら押し倒すくらいするんじゃないか……。
まあ、金次に限ってそれはな……いとはいいきれないな。
金次、ロリコンだしな。
現にアリアに馬乗りされて喜んでるし。(俺目線)
「一度だけだ!」
金次はそう言い、上に乗るアリアをソファーに押しのけた。
「一度だけ?」
「強襲科に戻ってやるよ!ただし、組んでやるのは一度だけだ。
最初に起きた事件を、一件だけ、お前と一緒に解決してやる。それが条件だ。
ただし、自由履修でな。
転科はしない。それでもいいだろ?」
俺がふと考え事をしている間に金次とアリアはそんな約束をしていた。
「いいわよ。ただし、全力でやんなさいよ」
「ああ。わかった。全力でやってやるよ」
通常モードの俺の、全力でな……とか思ってんのか。
悪いな、金次。
「金次、ちゃんと全力(・・)でやれよ?」
俺は金次に警告しておく。
「普段のお前の全力でじゃなく、お前が持つ能力(ちから)を全部出した全力でな」
「いや、それは……」
「何ミツル。あんた何か知ってんの?」
アリアがそう聞いてきたがさすがに金次の許可なく話していい事ではないのでとぼけた。
「さあな。武偵なら、Sランクなら自分で調べろ!」



その日の夜。自室に戻った俺の携帯に長谷川さん(ちうたん)から電話がかかってきた。
「神崎・H・アリアの情報と峰・理子の情報全てわかったぞ?」
頼んどいたアリアと理子に関する情報が書かれた資料を女子寮の温室まで取りに行きその場で目を通していく。
「理子は原作より厄介になってんな…」
「原作?」
「いや、なんでもない」
「峰は国家機密Aに指定されている犯罪組織で基礎魔法を学んでいたらしい。
学校生活では一度も使ってないけどな」
「わかってるメンバーはほとんど予想通りか…」
ちうたんですらあの組織(・・・・)の全貌はわからないかー。
「もう少し探ってみるが気をつけろよ?」
ちうたんは真剣な眼差しを向けてきた。
「なんだか嫌な予感がするからな……巨悪な臭いがピンピンするからよ。
こっちはこっちで調べてみる。朝倉にも連絡するがいいだろう?」
「ああ。頼む!」
朝倉和美(あさくらかずみ)
情報科(インフォルマ)3年のAランク武偵。
偵察機(スパイゴーレム)+αを飛ばして遠隔地から情報を収集できる情報収集のプロ。
一緒に写真を撮るともれなく美少女の幽霊も一緒に写るとかなんとか。

報告を終え女子寮に戻るちうたんを見送って温室から出ると知り合いの諜報科(レザド)の女生徒が声をかけてきた。
女性にしては長身で目は細く閉じられている。姿格好は忍者が着るような忍び装束を身につけており、
「ニン、ニン」などと呟いているどっからどう見ても忍者だが本人は指摘されてもとぼけている。
そんな糸目忍者の名は……。
長瀬 楓(ながせかえで)という。
金次の戦妹、風魔陽菜(ふうまひな)の先輩にあたる諜報科の2年だ。
単位不足で留年したらしい。
「会合でござるか?」
「まぁ、話し合いっす」
「拙者これから山に行くでござるが、光殿も一緒に行くでござるか?」
「山?」
「……彼女(アスナ殿)も来るでござる」
「ッ……⁉︎」





一旦寮に戻りサバイバルの道具と俺が普段使う武器、折りたたみ式ナイフと拳銃『ベレッタM93R(対テロ用)』を携帯すると男子寮の前まで来ていた楓さんと合流した。
車輛科(ロジ)で仕事人が待っているとの事なので俺達は待ち人がいる車庫へと向かう為に駆け出した。





 
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