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続:おおかみこどもの雨と雪

作者:とあーる
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エピソード6 私と草平の一週間~初日

本日二回目の目覚めは母の声からだった。
私がまぶたを開けると目の前に草平の顔があった。足の方を見ると草平の足は私の足に絡み付き体はピタッとくっついている。まわりから見ると今朝告白したとは思えないだろう。
そんなことを考えていると草平が目を開けた。
「…おはよう」
「おはよう♪」
布団の上ではこれ以上の会話は交わさなかった。
私と彼は台所にいる母親のもとに行った
「あら、雪、草ちゃん、おはよう」
「おはよう」
「おはよう…ございます」
今思ってみると母さんは今朝のことを全部わかってたんだと思う。あのときの母はいつもとなんか違う感じがしたからだ。ただ私たちはそんなことを全く気にしなかった。どうせこれからデートとかするし隠す必要はないと思っていた。
いつも通りの朝ごはんを口に運ぶといつもとは違う、大人の味がしたのをよく覚えている。甘酸っぱいようなほろ苦いような微妙な味だったけど不思議と全てが美味しく感じられた。
朝ごはんを食べ終わると私と草平は30分程腹を休め、勉強を始めた。
彼は相当な勤勉家で一度勉強をし始めるとなかなか集中力が途切れない。私はそんな草平が羨ましかった。と、突然草平が口を開いた。
「雪さぁ…まだ処女なの?」
「…へっ?」
すっとんきょうな声をあげてしまう。そりゃそうだ。小学生の時のクラスメイトにいきなりそんなこと言われて驚かないわけがない。
「まぁまぁそう驚くなって。聞いてみただけだ。何もする気はないよ」
私は渋々答える。
「うん…まぁ…」
「良かった。雪が汚されてたらどうしようかと思った」
何それすごく意味深なんですけど。純粋に私を心配してくれているのかそれとも彼が奪いたいがために聞いたのかわからない。まぁどっちにしても彼は私を心配してくれているのだから私は少し嬉しかった。
そんなことを考えていると辺りがしんと静かになった。草平のスイッチはとっくに切り替わったようで黙々と机に向かっていた。
こういうときの彼のスイッチ切り替えは恐ろしく早い。羨ましい、羨ましすぎる。
私が彼の手前を覗いてみると解いてる問題の難易度と正解率は私と同じくらいのようだ。彼は雪と同じ高校に行くために必死に勉強しているようで後ろから覗かれていることになんて気がつかない。
その勉強ぶりを見て私もさすがにヤバいと思ったから勉強机に向かった。
そのまましんとした時間が2時間ほど続き、次に部屋に声が響いたのは正午くらいだった。
「ご飯できたよ~」
私と草平はほぼ同時に返事をし、私は居間へ駆けていった。草平はキリのいいところまでやってから来るらしい。
今日の昼御飯はそうめんだ。自家栽培かわからないが汁にはミョウガとネギが浮いていた。
やがて草平が居間に駆けてくる。
そして三人揃って食事の挨拶をする。
「いただきま~す」
真ん中の大皿に初めに手を伸ばしたのは草平だった。
箸で麺を一掴み。いったん小皿に入っている汁につけてからズズッとすする。そして何回か咀嚼する。小皿の麺がなくなるまでそれは繰り返された。
…ズズッ…ムグムグ…ズズッ…ムグムグ…
「うm…いや、美味しいですww」
「これから一週間この家で過ごすんだしいつも通りで良いわよ」
母親が言う。
「…それじゃあ遠慮なく…うまっ…」
わざとらしいんだよばか。だがそれさえも魅力的に見えてしまうから恋と言うものは不思議だ。
私と母も続けてすする。うん。確かに美味しい。そうめん独特の味に自家製?ミョウガの味が相まって協和音を奏でる。
そんなことを考えている内に草平によって大皿は軽くなっていく。私たちは負けじとそうめんをつまむ。
ズズッ…ズルズルッ…
やがて20分もしない内にあの大皿が空っぽになってしまう。
全員満足そうな顔で腹をさすっている。
そして挨拶
「ごちそうさまっ」
母が皿を洗い終わると私はゴザを持って草平と一緒に外へ出た。その辺の地面におもむろにゴザをしき、寝転ぶ。ど田舎だから空気もすんでいて空がすごくきれいだ。夜もきれいだが昼も悪くない。
「草ちゃんもおいでよ。空、きれいだよ」
草平を呼ぶがどうも草平はそれに答えようとしない。仕方なく私は立ち上がると草平をゴザの上に押し倒した。
あれ?これって普通は男がやることじゃないっけ?まぁいいやww
手を草平の首に這わせ彼が起き上がれないようにすると私も草平の隣に寝転んだ。
「空、きれいだね…」
「うん…」
草平はすっかり空に見入っていた。都会ではこんな空見えないから都会っ子が見入るのは当たり前だなと思った。
このまま黙って見ているのも面白くないから私は草平に話しかける。
「…そうだ。雲探しでもしようよ」
「…雲探し。懐かしいな。よし…やろうか」
雲探しとはどちらか一方が適当にお題をだし、その雲を探すゲームだ。
初めは草平がお題を出す。
「…じゃあ初めはクマで」
草平が言うと私は探し始める。隣を見ると草平も探していた。
草平がそれっぽいのを先に見つけた。
「見つけたっ」
ルールとして先に見つけた人が次のお題を決めることになっている。
草平が言った。
「う~ん、次は…」
「次は?」
「…雪…」
「…へ?」
「雪…だよ」
そう言うと草平は私を抱き締める。
「やっ、こんなとこじゃっ」
私は顔を赤く染める。
それでも草平は抱擁を解こうとはしない。
今日の朝の出来事とは違い、抱き締められることによって落ち着いていくのではなくそれどころか胸の高まりはどんどん成長していく。
ドクンッ…ドクンッ
と私の心臓が激しく脈を打つ。草平の鼓動も私に伝わってくる。

晴天の下、私と草平は抱擁を解くことなくお互いをきつく抱き締めあっていた。 
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