魔法薬を好きなように
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第12話 首都トリスタニアにて
ティファンヌとの久しぶりの夕食は、魔法学院での最近の夕食と異なり楽しめた。話した内容は、トリステイン魔法学院の中で暮らしてみたことが中心で、ティファンヌが通っているアルゲニア魔法学院との違いに驚いているようだ。
アルゲニア魔法学院はトリスタニアにあって、主に法衣貴族の子が通っている。まあ、トリステイン魔法学院にも、法衣貴族では年金を多くもらっている役職についている子もいるが、基本は封建貴族の子が中心だ。
トリステイン魔法学院とアルゲニア魔法学院での大きな違いは学生寮と食堂かな。
アルゲニア魔法学院は町中にあって、法衣貴族の子を中心としているので、自宅から通える子が多い。そうでない子は、たいてい魔法学院知覚のアパルトメンを借りている。
アルゲニア魔法学院では、食堂として周辺には飲食店が使われるが、近くのレストランが主体で、舞踏会やパーティなどもそこでおこなわれる。
アルゲニア魔法学院の予約が入っていない場合は、法衣貴族のパーティなどもおこなわれる。法衣貴族の社交場みたいな雰囲気を醸し出すので、俺も昼と夜にそれぞれ、一度行ってみたことがあり、なんとなく雰囲気はわかる。
アルゲニア魔法学院にも使用人はいるが、その数は普段の生徒の授業に必要な人数しかいないので、そこまでは人数は多くないらしい。
とりあえずは、無難な話で夕食の会話は濁していたが、食事もおわったので、呼び鈴を押して、食事をさげてもらい、ワインをかたむけながら、本格的に話をすることになる。
「ジャック。食後にきちんと話してくれるって言ってくれたわよね?」
「まあ、そうだね」
言いたいことのニュアンスは伝わっていたから、そのまま肯定して
「一番早いのは、俺の左の上腕部をみてもらうことかなぁ」
「えっ? 怪我でもして、魔法衛士隊にいられなくなったの? そんな風にはみえないけれど」
俺は上半身を脱ぎかけると、
「今日は、そんな気分じゃないわよ!」
「こっちも、そんなつもりじゃないよ」
「じゃあ、なんで上を脱ごうとしているのよ!」
「いや、だから、左の上腕部なので、腕をまくっても見せられないからだよ!」
「そっ、そうよね」
俺は左上半身だけ脱いで、左上腕部をしっかりと彼女にみせた。
「それって、ルーンでしょう? まさか、貴方、嘘でしょう……人間が使い魔になるなんて」
「そう。これは使い魔のルーンだよ。ミス・モンモランシの使い魔になってしまったんだ」
「なんでよ。ゲートをくぐらなければ良いだけじゃないの?」
「考え事しながら走っている最中の目の前に、突然現れたのでよけきれなかったんだ。まあ、ゲートを出てから、使い魔召喚のゲートだって気がついたんだけどね。はっきりとした形は、覚えていない」
「それで、どうなったわけ?」
「すぐには、承諾はしないで、宗教庁まで問い合わせをしてもらったけれど、春の使い魔召喚の儀式を続けることになって、このルーンさ」
「って、使い魔になったってことは、この会話とかも、そのミス・モンモランシに聞かれるわけじゃない!」
「いや、それは大丈夫みたいだよ。俺の目と耳は共有できないとのことだって」
「それって、本当?」
「最初の使い魔と一緒にいる時間で話しながら確認したみたいだけど、そういう方向では嘘は言わないだろうね。まあ、彼女が使い魔の目から見えない、耳から聞こえないなんて、自分からまわりには言わないけどね」
あとは、俺から食事の間には話さなかったことを話していった。モンモランシーが魔法学院を卒業するまで、俺は少なくとも使い魔として魔法学院にいることから、この前、ティファンヌとあって、浮気の話から、近くにいる時間が減ったことなんかも話した。
「私だって、貴方が浮気相手を探していたご夫人と一緒にいるのを、好んでいるわけじゃないのよ。私より少しばかり長いつきあいだから、見逃しているだけなんだから。新しい人は絶対だめよ」
「その辺は、わかっているよ」
だいぶ譲歩していてくれているのはわかっていたつもりだが、やっぱりきちんと話してみないとわからないものだ。
「……それで、今後のことだけど」
「ここまで話したってことは別れ話じゃないわよね?」
「そう。改めて、魔法学院の生徒ぐらいの付き合いをしたいんだ。ティファンヌ」
「魔法学院の生徒ぐらいの付き合いって、何考えているのよ。そんなこと言ったって、私は貴方が初めてじゃなかった、って知っているでしょう?」
「俺は知っているし、君の最初の相手も知っているだろう。けれど、それ以外って、確認していないだろう?」
「そうだけど、もとにはもどらないのよ」
「もとに戻せるとしたら?」
「えっ?」
「そういう魔法薬があるんだよ。世の中には知られていないんだけどね」
って、俺が作った魔法薬だし、使った人数も限られているのと、使用された相手は、他人にはまず言えないから、噂は広まっていないはずだ。
「えーと、そんな魔法薬があるのに、なぜ、今、そんな魔法薬をつかいたいの?」
「アルビオンで王党派と貴族派の内戦になっているのは知っているだろう?」
ティファンヌにとっては、なぜ、そこに話がとぶのがわからないが、
「ええ。それくらいなら」
「けど、実際には、貴族派っていうのは、レコン・キスタという組織を作っているらしくて、ハルケギニアを統一して、エルフを倒して、聖地を奪還するっていうのが目的らしいんだ」
「行なおうというのは聖戦なの?」
「なら、ロマリアを巻き込めばよいだけの話だろ?」
「そうねぇ」
「どちらにしても、アルビオンの貴族派は、少なくともこのトリステインの一部の貴族と連絡をとっているらしいんだ。親父の情報によるとね」
「それはいいんだけど、その話と、魔法薬の話とどうつながるの?」
「もうちょっと、話しをつづけさせてくれ。可能性は何種類かあるらしいけれど、比較的高い可能性は2種類。アルビオンの貴族派が王党派に勝った余勢で、トリステインをせめてくること。その時にトリステインの貴族がアルビオンの貴族派につくことが1つ目。もう一つはもう少し可能性は低いらしいけれどトリステイン王国で内戦の勃発も考えられるって話だ」
「えーと、なんかますます混乱してきたんだけど」
「うん。それで、俺の立場なんだけど、使い魔だっていうのはわかるよね?」
「そうね」
「けれど、魔法衛士隊の騎士見習いの資格停止なだけで、軍に属しているんだ。だから、何かあった場合、国軍のどこかの部隊に所属することになるだろう。そうした場合、モンモランシーの使い魔だということで、君がうたがったようにモンモランシーへと国に関する情報が入るような地位につくことは、まず不可能だ。つまり、法衣貴族の地位となりえる下士官になることは、まず不可能。そうしたならば、下級貴族として国軍にいるだろうけれど……そうなった場合は、トリステイン王国はまず滅亡だろうから、はっきりしたことがわからなくなる。まだ、可能性の問題だけどね」
「っということは、もし、今のままで軍に入ったら、私と別れるつもりなの?」
「軍に入るというより国軍で働くようになったらだけど、そのまま、最前線ということもありえるから、そうすると、生きていたとしても何年ももどってこれないかもしれない。それならば、まだいいけれど……」
「って、貴方はそういう性格じゃないでしょう」
「まあ、脱走するだろうね。なので、今のうちに女性として最初の身体へ、もどしておいてあげたいんだ」
「ありがたくて、涙が流れそう……それで、本音は?」
「ご夫人をお相手したあとのお小遣いがなくて、あっ!」
うかつながら、またもやってしまった。なんで、こんな単純な話にもらしてしまうんだろう。俺って。
「まったく。貴方って人は……けれど、ご夫人方とは会っていないわけね?」
「そのとおりで」
「とりあえず、その魔法薬の治療というのかしら? それはうけるわ」
「じゃあ、そこのベッドで……」
その夜は睡眠薬にあと2種類の魔法薬を使って終わることにした。
折角、精力のつく魔法薬をもってきたけれど、やっぱり出番は無いのね。
翌朝、ベッドの中で起きたら、ティファンヌの横顔が見える。
まあ、同じベッドで一緒に寝るぐらいは許してもらおう。断っていなかったけれど、事前に聞かれてもいないからいつもどおりだ。
ティファンヌは目をあけたが、半分ねぼけているのだろう。いつもの朝のようにキスをしてきたが、
「なんで、パンツをはいているわけ?」
「あのな~ 昨晩は、愛し合ったわけじゃないぞ」
「そうだったわねぇ。ところで本当に元にもどったの?」
「ああ、そこの手鏡を使ってでも自分で確認してみたらいいよ」
俺は、ベッドから離れて、彼女をみないで、服をきることにする。見てたら朝から欲情するに違いないからな。
「あっ、あるー」
そりゃ、そうだ。
着替えている最中なので、ふりむかないが、機嫌がよいのか、鼻歌まじりで着替えをはじめたようだ。
俺は着替えはおわったので、部屋のテーブルの席について、窓側をみているが、隣の宿の壁が見えるだけ。まあ、朝日が入ってはきているが。
そんな席へ、着替えが終わったティファンヌは来た。
「ジャック。そういえば、昨晩伝えていなかったことがあるわ」
「なんだい」
「つきあってあげてもよいわよ」
「本当かい?」
「こんなことで、嘘はつかないわよ」
嘘がなんなのかを追求するのも、野暮であろう。
「よかった。ふられるかと思っていたよ」
「けどね、条件が2つばかりあるの」
「条件? 2つ?」
「そう」
「どんなのだい」
「私が19歳になるまで、貴方の納得する仕事についてね」
「19歳って、やっぱり、そのあたりが限界かなぁ」
「私だって、行き遅れなんて言われたくないもの」
「モンモランシーの結婚次第になると思うけど、善処する」
「うん。それから、もう一つは、浮気をしないこと」
「おやおや、君の2番目に良いところがなくなるよ」
「何よ、その2番目って」
「1番目はそれ以外の君の部分全部だからさ」
「口ばっかりじゃないわよね?」
「当然!」
娼館へ行ったり、平民と遊ぶのは浮気じゃない、って思っているこの男……貴族とはそういうもんだと学習しているため、平然と答える。
「ところで、明日以降って、夏休みまで会えないのかしら」
「まあ、そういうことにはなっているねぇ」
「けれど、魔法薬の実験助手もおこなっていないんでしょ?」
「実質ね」
「そうしたら、平日にこっちにくることができるんじゃないのかしら」
「あー、今のモンモランシーなら、可能かもしれない。それに水の授業は、特に聞く必要もなさそうだし、実技の多い授業も見学しているだけだから、そういう日なんかは特にいいかもしれないな」
「だけど、今日はアルゲニア魔法学院が休みだから、してみたいことがあるの」
「なんだい?」
「ラ・ロシェールの森へ行きたいの」
なるほど。郊外へ行くデートコースとしては定番中の定番だ。
「行くとしようか。朝食をとってからね」
そして、その日は楽しくデートをしてから別れて、翌日はトリステイン魔法学院へ向かう途中で、
「さて? どうモンモランシーに話すのがよいのだろうか?」
実際にどう話すかイメージをしてみたが、中々良いイメージが生まれない。なぜかワインを頭からかけられるイメージがわいてくるのは、ギーシュのせいだと思うのだが、こっちだけ、幸福そうにしてたらなんかうまくいきそうにないなぁ。
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