魔法少女リリカルなのは 異形を率いる男
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7.実戦
上空、100メートル。時刻はすでに午後10時過ぎ、月の明かりが冷たい光を振りまき、静寂が周囲を支配している。
そんな空間に漆黒のロングコートを着込み、顔を覆う大型のゴーグルを付け、手には大型の拳銃を握った。奇妙な恰好をした男、朝霧夜市は佇んでいた。
足元には何も無い。ワイヤーの様なものを仕掛ける場所も無く、空中に自然に浮いていた。
奇妙な格好をしている男だが最も目を引くのはゴーグルに木の葉を二枚重ねた体に大きな目のついた虫がいる事だろう。
その虫からは触手が伸びゴーグルに接続されていた。
まるでプラグを繋ぐ様にあたかも、初めからそうであったかのように、違和感が全くと言っていい程、存在しなかった。
そんな異常を違和感なく存在させている男である夜市は下方にある動物病院に向いていた。
今、夜市にはこの暗闇の支配する上空100メートルから、地上の様子を完璧に把握できていた。比喩ではなく蟻の数を数える事すら今の夜市には可能な程だ。
「ブラック、なのはが到着したら、周囲に被害が出ないように広域結界を展開してくれ」
「了解しました」
事務連絡のように感情の入る余地がないほど静かに、必要な事だけをブラックに伝え、夜市は周囲を観察する。
直後、人間サイズの巨大ともいえるほどの全身に体毛を生やした生物の様なものが動物病院に侵入していった。
だが、あれは生物ではないそう見えるだけであり、その正体は魔力の塊である。
だが、ジュエルシードによって擬似的な本能の様なものが備わっているのも真実である。
そのために、この世界で唯一魔法が使えるあのフェレットを襲いに来たのだ。あれが封印されかかった魔法を使う、あのフェレットを。
毛玉の様なものが病院に入って10秒程経ってから、二つの出来事が起こった。
一つは病院の壁が内側から吹っ飛んだ。より正確には、毛玉が内側から飛び出してきたのだ。
小さく細長い体をしたフェレットを追って。
そして、もう一は、なのはが病院に到着した事だ。
その二つが起こった直後、耳鳴りの様な音とともに世界が閉ざされた。
魔法によって、ブラックに指示していた結界が張られたのだ。
「指示通り結界を張りましたが、これでよかったでしょうか?」
いくら高性能なAIを搭載していようと、人の心は読めない。魔法を使ったのは今回が初めてだからか、ブラックは夜市に対しそう問いかけてきた。
「ああ、これでいい」
夜市はそう、素っ気無く答えながら、なのはの方向を観察する。
そこでは、既に、なのは達が逃走している。
その後ろから、あの毛玉が追いかけていた。
「大丈夫なのか?」
その言葉が無意識に夜市の口から洩れた。
手に握られている拳銃を握る力が強くなる。
「なぜ、そう思うのですか?」
「あの毛玉の移動速度が想像以上に速い」
「なら、助ければいいのでは?」
もっともな答えをブラックは返してきた。
確かに、ここでなのはを助ける事は出来るが、その後にどう影響が出るか分かったものではない。
ここで手助けるの得策ではない。だが、それ以上にここでなのはに何かが起きてはまずい。
少なくとも、なのはが変身するまでは手出しをすることは阻止しなければいけない。
あの毛玉はなのはが詠唱している最中に攻撃を仕掛けてもおかしくは無い。
そう言った思いからか、夜市の周囲に四つの黒い魔力弾が形成される。
「ファイヤ」
その一言と共に魔力弾が一つ毛玉に向かって恐ろしい速度で弧を描きながら衝突した。
その衝撃で毛玉は後ろに吹っ飛び、なのはとの距離が開く。
その代わりに毛玉は怒ったのか全身を震わせながら、周囲を見渡すが、夜市は上空100メートル、到底見える場所ではない。
結果として、毛玉はなのはを標的として、飛びかかった。
なのはと毛玉の距離は約100メートルほど、そこから毛玉は跳んだ。
まるで飛ぶように跳んだ。
「なっ…!」
驚きの言葉が漏れる。
想定外、今起きている事がまさにそうだった。
そんなに跳べるとは考えていなかった。
毛玉がなのはに激突するまで時間はあった。その出来事のせいで判断が遅れた。
夜市の周囲にあった魔力弾を毛玉に向かって発射する。
だが、遠い。間に合わない。
一瞬はそう考えた。考えてしまった。
だが、現実はそうではなかった。間に合った。寸でのところで。
なのはに激突する直前、魔力弾が当たり、毛玉の軌道がずれた。なのはの10メートルほど前方に。
それを見た直後に、夜市の口から安堵の声が出た。
当たらなかった場合はユーノが守ったかもしれない。
それでも、完璧ではない。もちろん自分もそうだ。
だが今回は守る事が出来た。
夜市がそう安堵していると、なのはの周囲から光の柱が出現した。
それが収まると中にはオレンジの私服ではなく、聖祥大の制服の様な服装に杖の様なものを持った姿になっていた。
ここからは声は聞こえない。だが、行動からなのはの慌てふためいているいる様子が見えた。
つい口元が緩んでしまう。
ついさっきまでは安堵していたのに、だ。
変身さえできれば、その後は殆ど大丈夫であろう。口には出さないが、そんな考えが頭の中にはあった。
その予想通り、その後の問題はなかった。
周囲が破壊されいることを除けば、だが。
なのははパトカーのサイレンを聞いた途端に逃げてしまったので、その処理は夜市がやる事となったのだ。
警察が来る直前まで時間がかかったが、何とか周辺の瓦礫と化したものを直し、その場から、脱出した。
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