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呪われたイコン

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第二章

「今日はあまり飲んでないわね」
「そういえばそうだな」
 ブロコヴィッチも言われて気付いた。
「ちょっと途中で飲んだだけだよ」
「そうなのね」
「たまたまだな」
 その金髪、最近薄くなりだしているそれがある頭を掻きながら言う。目は黒い。大柄でスラブ男らしい外見である。
「それは」
「そうね、じゃあお家で飲むのね」
「そうしようか、ウォッカあるか?」
「あるわよ、勿論ね」
 ロシアでは酒がないと寒さを凌げない、だからブロコヴィッチの家にも当然の様に常備しているのだ。それで彼女も答えたのだ。
「じゃあ今からね」
「ちょっと飲むな、夕食までにな」
 こうした話をだ、夫婦はイコンを飾ってから話した。そして子供達と共に夕食を楽しんでから風呂に入って寝た。
 その夜ブロコヴィッチは妻と同じ部屋で寝た、だが。
 何か声がしてだ、真夜中に起きて妻に言った。
「何か聞こえないか?」
「何かって?」
「声がしないか?」
 こう言うのだった。
「リビングの方からな」
「まさかそれって」
「ちょっと行って来る」
 彼は剣呑な顔でベッドから出て妻に告げた。
「子供達を頼むな」
「ええ、じゃあね」
 こうしてだった、プロコヴィッチは棒を持ったうえでリビングに向かった。そうして。
 灯りを消しているリビングの中を見回した。すると。
 そこに女がいた、その服装と顔はを見てだった。プロコヴィッチは目を丸くさせてそのうえで彼女に対して問うた。
「あんた、まさか」
「あっ、こんばんは」
 女は実に明るかった、右手を掲げて挨拶をしてきた。
「今日からお世話になるわね」
「お世話になるじゃない。あんた何でここにいるんだ」
「何でって。出て来たからよ」
 若い女だ、気品のある優しい顔立ちだ。だが服は今の服ではない。聖書に出て来る様な女ものの服である。
 しかもだ、女が顔を向けた壁にかけてあったイコンはというと。
 マリアが描かれていた場所がそっくり白くなっていた、しかも女の顔も服もそのイコンのマリアのものだ。即ち女は。
「イコンからね」
「マリア様か」
「ええ、そうよ」 
 あっけらかんとして答えた女だった。
「その通りよ」
「嘘じゃないな」
「これが証拠よ」
 そのマリアがいた場所だけ白くなっているイコンを指差しての言葉だ。
「見てわかるわよね」
「これが呪いなのか、イコンの」
「あのお爺さんそんなこと言ってたのね」
「だからわしに売るのを渋ったのか」
「お爺さんには随分とお世話になったわ」 
 女はあっけらかんとしたままブロコヴィッチに言う。
「いい人よ」
「無愛想だがな、しかしな」
「しかし?」
「何でイコンからマリア様が出て来られるんだ」
 苦々しい顔でだ、ブロこヴィッチはこの受け入れ難い現実について言及した。
「幾ら何でもないだろ」
「そう言われても実際に出て来ているじゃない」
「そうは言ってもな」
「安心して、私聖母だから」
 自分から言うのだった、このことを。 
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