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支え合うもの

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第三章

「足が悪いからね」
「だからですね」
「私達のことも」
「身体の何処かが悪くても」
 つまりだ、身体障害者であってもというのだ。
「生きているんだ、人間だからね」
「人間だから」
「だからですか」
「助け合えたら幸せだよ」
 それが出来ればだ、それに越したことはないというのだ。
「それが出来る君達だから」
「結婚、ですか」
「そうしたらどうかと」
「前橋君も高宮君も」
 二人共だというのだ。
「いい人だよ、そのことはお互いにわかっているね」
「はい、それは」
「もう」
 二人は実吉の言葉を受けてお互いの顔を見合った。そのうえで実吉に対してあらためて言ったのだった。
「わかっているつもりです」
「一緒に仕事をして長いですから」
「そうだね、だったらね」
 実吉は微笑み二人にまた言った。
「考えてみてくれ、君達で」
「結婚をして」
「そうして」
「うん、是非ね」
 実吉は微笑んで二人に話したのだった、そしてだった。
 二人でもだ、クリニックの休憩室でお茶を飲みながら話したのだった。
「どうしたものかな」
「そうよね」 
 二人用の席に向かい合って座って話をした。
「院長さんのお話はね」
「どうしようかしら」
「確かに僕は独身だし」
「私もよ」
「けれどね」
 まずは俊蔵が言った。
「目が悪いから」
「私は耳がよくないから」
「結婚しても君に苦労をかけるよ」
「私も貴方にね」
 こうお互いに言い合うのだった。
「仕事だけじゃないから」
「ずっと一緒だから」
「本当に普通に暮らすことさえ辛いんだ」
「そうよね」
「だから一緒になったら」
「それこそ」
 こうお互いに言うのだった。
「君がどれだけ大変か」
「貴方がどれだけ苦労するか」
「そのことを考えたら」
「どうしても」
 結婚なぞ出来る筈がないというのだ、それぞれの目と耳のことを考えると。
 それでだ、俊蔵は悠理に言った。
「僕はずっと一人でいるべきだと思うんだ、僕自身はね」
「私も。私の身体のことを考えたら」 
「結婚しないでね」
「そうしていくべきね」
「うん、誰かに迷惑をかけるより」
「そうした方がいいわね」
 二人はこう話して互いの考えを認め合ってだった。
 そしてだった、二人は結婚しないことにした。だが。
 それでもだった、仕事を続けている中で。
 二人はお互いに助け合った、そうしてだった。
 その関係は親密になる一方だった、お互いに頼りにしているパートナー同士になっていた。だがそれでもだった。
 二人は結婚しようとしなかった、その勇気はなかった。だが。
 その二人にだ、実吉はまた言ったのだった。
「この前の私の提案だけれど」
「はい、結婚ですね」
「そのことですね」
「どうなのかな」
 こう二人に尋ねた。場所はやはり院長室だった。そこでの話だ。 
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