魔法薬を好きなように
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第11話 魔法衛士隊到来するが
メイドの触診をした翌朝の教室に入って、席についているとトイレに行ってたはずのモンモランシーの声がした。
「ねえ、ルイズ。あなた何を引きずっているの?」
「使い魔よ」
そういう声の主はルイズであった。モンモランシーがいくつか質問して、ルイズが答えているのを聞くと、サイトがルイズのベッドに入り込んだようだ。
その中でモンモランシーからは、
「はしたない! けがわらしい! 破廉恥ね! 不潔よ!」
って、引きずられているサイトというよりも、俺に向かって言っているような気がしてくるな。
ルイズはそのあと、キュルケと言い合ったり、サイトを鞭うっていたりしているが、モンモランシーは、そっちはもうおかまいなしという感じで、いつものように隣の席についている。やっぱり、さっきの言葉は俺へのあてつけか?
モンモランシーは、ジャックのことも多少は気にはかけていたが、ルイズとその使い魔であるサイトがフーケを捕まえて、自分より目立っているのが気にいらなかっただけであった。しかし、ジャックは浮気を知られている負い目から、そんな感じがした。
ジャックがあてつけか? と思っているうちに、教師である『疾風』のギトーが入ってきた。教室はしずまりかえった。それはギトーが、生徒から人気が無いのが原因らしい。そのギトーがキュルケを指名して質疑を行っている。何やら『虚無』とか『火』とか言っていたが、キュルケが『火』が最強の系統だといっているのに、そうではないとギトーは言うのは良い。このあたりは、最強がどの系統だなんて、過去の偉人達同士で争わさないとわからないだろう。それにしても、個人の資質や戦い方が最強なだけで、どの系統が最強の証明とはいえないんだけどな。
とは、いっても水が戦いにおいて最強とはいえないのも確かだろう。
「試しに、この私にきみの得意な『火』の魔法をぶつけてきたまえ」
この言葉にはちょっとイラついた。もともと週末にあう予定のティファンヌとの今後をどうしようか迷っていることや、先ほどのモンモランシーが俺の浮気癖があることにたいするあてつけのようなのと、今回のギトーの言葉だ。俺は、普段ならおこなわなかっただろうが、
「ミスタ・ギトーとキュルケ。お話にわりこんですみませんが、よろしいですか?」
「きみは?」
「単なる使い魔ですよ」
なんか、自虐気味だなぁ、と思いつつギトーが戸惑っているようなので、俺はそのまま
「キュルケ。落ち着いた方がいいよ。トライアングルである貴女の『火』を確実にさばける自信を持っているんだよ。ミスタ・ギトーはね。そうすると風の授業にでてくる、教師の強さはどんなものだろうか?」
「……多分、スクウェアね」
そう言う前に、キュルケはとある方向を見てた。その先はタバサだが、今は本に眼を落している。彼女らが友人ということであるから、何か伝達でもあったのか?
それはよいとして
「ミスタ・ギトー。『火』が最強ではないとするならば、この授業は『風』ですから、『風』が最強とでも言いたいのですか?」
このあとに『なぜ、『土くれ』のフーケの討伐についていかなかったのかと』つけくわえたかったが、そこは、言わずにすますことができた。
「……使い魔君の系統は?」
「『水』ですけど、『水』が最強とは思っていませんよ。『風』が最強と言われても『烈風カリン』がここ数十年で当代最強といわれていましたからね。しかしながら『火』と『土』にもそれぞれ当代最強と言われたメイジがいますので、どの系統が最強かはわかりませんね」
『烈風カリン』の名前をだしたあたりから、教室の中でもがやがやしだしてきたが、キュルケは完全に冷静となったのか、席についている。
「授業を中断したことは申し訳ありませんが、個人の実力と系統の差をもちこまずに、授業を進めていただければと愚考します」
「……ふん。烈風カリンか。まあよかろう。風が最強というのは、彼女も使ったといわれる魔法で……」
ギトーが唱えだしたのは、風の『偏在』か。俺も席についたが、魔法衛士隊グリフォン隊隊長の練習相手にさせられていたからわかる。俺が精神力最大の時でも4体ださせるまでいった、それまで苦労していた3体に比べてあっさり勝ったら、そのあとは3体しか風の『偏在』をださないで、本人も混ざってきたよな。いうなれば、風の『偏在』っていうのは魔法を完了した時点での精神力しか残っていない。その場合は、本人以外の4人のトライアングルを相手にするのか、本人を含めた4人のスクウェアを相手にするかの違いともいえる。
だが、ここで、教室のドアが開いて、格調高い正式な式典にでもでるような恰好でミスタ・コルベールが、アンリエッタ姫殿下が帝政ゲルマニアからの帰りの途中にこの魔法学院に立ち寄るってことだ。歓迎式典をするって、何時について、何時から式典をおこなって、いつ終わるのやら、よくわからないな。
結局、姫殿下たちが魔法学院に到着するのは、午後2時頃ということだったので、メイドたちは大忙しで、女子生徒たちもめかしこんでいるだろうが、昼食後のわかれ際に、俺はモンモランシーへ
「今日は、式典ということでパーティもないようだから、あまり魔法衛士隊は見たくないので、次は夕食前に迎えにいくのでかまわないかな?」
「あっ、そう。好きにしなさい」
「わかりました」
そっけなく、了承を得られた。今の段階では魔法衛士隊の姿をあまりみたくない俺と、モンモランシーが、俺をそこまで必要とするような場面でないことも、簡単な受け答えですんだのだろう。
部屋では窓を開けながら、ぼんやりと外の風がはいってくるのを感じとるのと、あとで姫殿下とそれに付随してくる魔法衛士隊の音が聞こえてくるようにして、ベッドで横になって数分後に、ドアがノックされた。
誰だろうと思い
「誰かな?」
「メイドです。遅くなりましたが、部屋の掃除にまいりました」
そうか。今日は急きょ歓迎式典になったから、メイドの通常の仕事が遅れているんだなと思い、一瞬考えたのちに、
「合鍵はもっているんだろ。入ってかまわないよ」
アンロックの魔法をかけてあるのに、部屋が掃除できるってことは、専用の魔法具があるわけだろう。ドアをあけて入ってきたのは、声から推測はついていたが、フラヴィだった。
ドアをしめて振り向いたところで、
「部屋の掃除は別にいいけど、二日酔いにならなかったかい?」
「おかげさまで」
「魔法薬は?」
「すみません。ちょっと忘れてきまして」
「次の掃除の時にでも、持ってきてテーブルの上にでもおいといてくれればいいよ」
「はい」
「それじゃぁ、テーブルの上だけ、今日は片づけてもらえるかい。昨晩のまんまだから」
「あとはよろしいんですか?」
「ああ、虚無の曜日とかは部屋の掃除にまわってこないだろう?」
「そうですね」
「っということさ。忙しいのなら、普通に掃除した時間ぐらいは、そこのテーブルで休憩しててもいいよ」
「はい?」
「身体はひとつなんだから、バカ正直に魔法学院のメイドの仕事をやってたら、つかれちまうだろう。少し要領よくすればいいだけさ」
「それでは、テーブルの上をかたずけまじたら4分ほど休憩時間をいただけますか?」
「だいたいの掃除時間がそれぐらいだったらね」
「いえ、本当はもう少し長いのですけど、明日掃除に入るメイドにはある程度手抜きしたのはわかっちゃいますから」
「いや、かまわないよ。あまり長い時間いてほしくなかったらしい、とでもつけくわえておけばいいのさ」
「はい。それでは、テーブルの片づけをさせてもらいますね」
俺は、ベッドで目をあけたまま上を向いていたが、フラヴィはテーブルの上を片付けて、その上を雑巾で拭いたところで、席に座ったようだ。1分ちょっとの沈黙のあと、
「何か変な感じですね」
「何がかな?」
「いえ、ミスタ・ アミアンが私たちメイドをそのベッドの上で、検査しているのを見ますけど、逆にミスタ・ アミアンがベッドの上で横になっているのを見るのは初めてですから」
俺はフラヴィの方へ顔をむけ
「なるほどね。けど、今はもう少し小声の方がいいと思うよ。窓をあけているから」
そうすると小声で、
「すみませんでした」
「いや、なに。掃除のかわりにそこで休憩を命じたのは俺の方だから」
「命じられたちうわけではないと思いますけど」
「こういう場合は、それでいいんだよ。ここの寮で、こんなことを言い出すのは、きっと俺くらいだろうから」
「そうですね。他の部屋では、全部掃除をしてきましたからね」
「だから、あとは時計とにらめっこでもしていてくれ。って時計の見方は知っているよな?」
「はい。それも習っていますので」
「そうだよな。そうでなきゃ、さっきみたいに4分とか言えないもんな」
「はい」
そのあと、俺はまた、上をむいて天井をみつめていたら、フラヴィは
「それでは、失礼します」
そう言って、部屋から出ていった。
そのあと、俺は週末にあうティファンヌとはどうするか、自問自答を繰り返し続けていたら、アンリエッタ姫殿下の到着の知らせが聞こえてきた。あとは、歓声もだ。
窓から外を見れば、きっと、魔法衛士隊が魔法学院のまわりでも取り囲んでテントでも設営するところも見れるだろうが、今は見る気になれない。
また、ティファンヌのことを考えているが、答えは一つにいつもたどりつく。いろいろな方向から考えてみているが、俺一人だとここらの答えが限界かな。あとはどうティファンヌと話し合うかだろう。そこで出た結果次第だな。
そう決まったら、あとは夕食前にモンモランシーをむかえに行きますか。
翌朝も、朝食は普通通りだったが、その後はアンリエッタ姫殿下がお帰りになるところにまたあいさつするというので、昼食後の授業開始まではモンモランシーに、自由行動とさせてもらった。とはいっても昼食時に会うだろうが。
授業でおかしいといえば、ルイズとサイトにキュルケ、タバサが見当たらないところだが何があったのやら。翌日になってわかったのはギーシュもいないことだ。学校さぼって、どこにむかったのかねぇ。メンバー構成から考えてもわかりはしねぇ。まあ、考えるのは無駄だろう。
そして虚無の曜日の前日になり、昼食後にはトリスタニアに向かうことにした。モンモランシーには、虚無の曜日の翌日の夕食前に部屋へ迎えに行くとして了承はとれているっていうか、返事はそっけないものだ。
そして、ティファンヌとは約束通りに、とある安宿に見える2階の部屋で待っていた。『どこかの男爵家で晩餐会でもひらいていないかな』の問いに『いつもの男爵家のパーティがあったはず』というのは、『一晩泊まれないかな』と聞いているのに『いつもの宿』という意味を二人で決め合っている暗語だ。正式に彼女と紹介できないから、つきあっているのは秘密のために、いつ誰がいても使って良いようにしているつもりだ。
先に部屋で待っていると、ドアがノックされたので
「どなたですか?」
「私よ。ティファンヌよ」
「今、ドアを開けるから……」
って、開けて入ってくるし。
「今更、ここでそんな作法は良いわよ。それでだけど、なんで、魔法衛士隊からいなくなって、ミス・モンモランシの護衛兼研究助手なんてしているのよ!」
封建貴族のプライドの塊というのにくらべればぬるいが、やっぱり法衣貴族の娘でも奪われたって感じなのかな。
「事情が複雑だって言っただろう。それよりもこうやって、ここで会うのも1カ月以上ぶりなんだから、ゆっくり食事でもどうだい」
「……食事の後はきっちり話してもらえるんでしょうねぇ」
「話す気がなければ、ここにこないで、別れの手紙でも送っているよ。だから、まずは食事でもどうかな」
「ふう……いいわ、まずその言葉は信じてあげる」
それで、夕食を開始するために呼び鈴を押したが、長い夜になるかはまだ定かじゃない。
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