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弓兵さんの狩人生活

作者:ねむたい
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5日目



今日で、この世界に召喚されて五日たったということになる。
無事に目的地である村にも到着し、村の宿泊施設にてこの日記を書いているところだ。
今日は、村に向かう道中の話でもしていこう。




まず、朝方からだな。

朝といえば、大抵の生き物が起床し、行動を始めようとする時間。

この世界でも、その原理は適応されるようで、日が昇りはじめて、体感で数十分もしないうちに様々な生き物の鳴き声が周りから聞こえてきた。
昨日の夜中から朝まで見張りを行っていた時から、周囲にある複数の気配には気づいてたはいたが、予想以上の多さに戸惑いを隠せなかった。
やはり、いつ、他の生物に殺されるかもわからない世界――つまり、弱肉強食の世界に身を置くと気配の消し方を本能的にでも理解しているのであろう。
逆を言ってしまえば、それほど気配を消すのが上手い生物を“餌”とする捕食者となる生物たちもそれ相応の気配察知能力を有しているということになる。

ふむ、改めて考えてみると中々に恐ろしい世界ではないか。

そんなことを考えつつ、隣で毛布に包まり、おとなしく眠っている少女――カオリを起こす。
寝ている彼女の姿は、起きている時には感じられなかった、違った可愛らしさが伺える。
起きている時は、見ていて微笑ましい感じがしたが、寝ている彼女をみているとなんだか守って上げたくなるような・・・そう、庇護欲てきなものを刺激される。
――まあ、突然ハンマーを振り下ろしてくるという奇行には驚かされたが・・・。

カオリを起こした後、近くに河原があるため、河原へと移動しようと提案した。
それを聞いて、なにを勘違いしたのか「・・・お兄さんって、見た目通り、ムッツリさんだったんですね。まあ、わかってましたけど・・・」と、言われてしまった。
まず、なんのことだ?と聞きたかった。なぜ、河原に移動するだけで、ムッツリなんぞ言われなきゃならん。それに、少なくとも“私”はノーマルだ。彼女のようなちんちくりんな見た目幼女になんぞ発情なんぞせん。あきれてものも言えん。
とりあえず、彼女の首根っこを掴み、持ち上げて移動を開始する。始終にゃーにゃーと聞こえたが、無視するのが懸命だろう。

カオリを河原に連れて行ったあと、朝食の支度を開始する。
支度といっても、まともに調味料などはないので、獲ってきた獲物を素焼きし、簡単に盛り付けただけの至ってシンプルなものだ。
河原にいっていたカヲリも帰ってきたので、二人で朝食にした。
何もないので、本当に簡単なものしかできなかったが、満足してくれているようなので、よしとしよう。

朝食を食べた後は、片づけをし、移動を開始した。
道中は山あり谷ありと、疲れはしたが退屈はあまりしなかった。

昼過ぎには、目的地である村に到着した。
村の名前は“ユクモ村”というらしい。
外観を簡単にいうと、ちょっとした温泉街のようなところとでもいっておけばいいだろう。
村の中央部にある、浴場を中心に様々な露店が並んでいて、それを中心に村は発展していったのだと思われる。
――そういえば、村に近づくにつれ、微量ではあるが硫黄のような臭いがしたのは、この村に温泉があったためであろう。


「さて、お兄さん。村長のところに報告に行きましょうか」

そういって、カオリは歩き出した。
その顔には、無事に帰ってこられたという安堵からか、安心しきった顔をしている。
やはり、“ハンター”とはいえ、年増もいかぬ少女。
恐怖や不安という感情があるのであろう。――まあ、そんな感情を抱けている内は人間としては“正常”であろう。そして、安全でもある。
一番危険なのは、狩りという行為そのものに慣れてきて、その正常な人間が抱く、恐怖や不安といった感情を失くしたときであろう。
“この程度の依頼なら、私なら死なない。”そのような油断や慢心といったものが死を生む。
彼の“英雄王”だってそうだ。彼ほどの英雄に勝てたのも、彼が自分の力に慢心していたのも大きい。
それほど、自分の力に慢心するというのは危険であるということだ。

「お、カオリちゃんおかえり。今夜はおっちゃんの店によってけよ。おじちゃんサービスしとくからさ」
「カオリちゃん無事に帰ってこれたんだったんだね、よかったよ。おばさん心配で、心配で」
「「「「ねーちゃん、遊んで!!」」」」

八百屋の店主。買い物帰りなのか、荷物を抱えた女性。元気溌剌な子供たち。
彼女が道を通る度に様々なところから声がかかる。

「ありがと、おじさん。後で寄るね~」
「おばちゃん。心配してくれてありがと」
「ごめんね。遊んであげたいんだけど、お姉ちゃんもやることあるからさ」

彼女は彼女で、声をかけてくれた人、一人一人に返事をしているものだから、必然的に移動速度も遅くなる。
このまま続けば、次第には立ち止まって話はじめてしまうであろう。

「………カオリ、とりあえず報告をしにいかないか?村長とやらも心配しているのではないかね?」
「ああ、そうでしたね!!じゃあ、みんな、また後で」

元気に手を振りながら、歩き始める少女。
その様を見て、ふと思い出すのは、生前、私がまだ衛宮士郎と呼ばれていた時に衛宮邸に頻繁にやってきた姉のことだった。
今、目の前にいるカオリと姉と慕っていた彼女はどことなく似ていた。
別に、見た目などの外見的なものではなく、いきなり突拍子もないことをしでかしたり、以外にも皆から好かれていたりするなど、内面的なものが似ているように感じた。


「以上が、今回の依頼に関する報告になります」
「ふむふむ。なるほどの……あい、わかった。ごくろうさん。では、報酬は後日にの」

なんだかんだあって、今、私たちはこの村の村長の前で、今回の依頼に関する報告を行っていた。
まあ、報告といっても、討伐した場合なら討伐した証拠となるものを提示し、捕獲した場合は口頭で報告すれば済む。
といっても、報告とはあくまでも依頼を完遂したというのを伝えるだけであるため、依頼を達成したときに得られる報酬は、色々な手続きが終わった後らしい。

「して、さきほどから気になっていたんじゃが、そちらの青年は?」
「えーと、お兄さんのことは、なんといいましょうか……協力者?」

そういって、カオリは首をかしげながらこちらを向いてくる。

「協力者とは?」
「えーと、ですね……今回の依頼先で“偶然”知り合った人で、名前はエミヤ・シロウさんです。私が討伐対象と接触した際に、先に戦闘を行っていたので、お兄さんと協力して対象を討伐しました」
「ほう、つまり、イャンクックを倒したのは主一人ではないということじゃな?」
「え、えーと……」

村長の追及に途端に、目をキョロキョロとさせるカオリ。
傍目で見ている分には、面白い光景なのだが、本人は相当困っている様子。

「どうなんじゃ?」
「……はい」
「うーむ、“一人”ではなく“二人”で討伐したとなると話は変わってくるのう。とりあえず、報酬の配当は五分五分に、あとは、応相談じゃな」
「え!?報酬へるんですか!!」
「当たり前じゃろう。報酬とは、いわば労働に対する対価。働いた者にはそれ相応のものをやらねばいかん決まりがあるんでのう。すまんが、エミヤ殿。貴殿には数日間ほどこの村に滞在してもらいたいんだが、大丈夫かの?」
「あ、ああ。私は大丈夫だが、いいのかね?正式に依頼を受理していない私が報酬を受け取ってしまっても?なんなら、私への報酬を放棄してもいいんだが」

確か、そこらへんのことは厳しいと、先日聞いていた。

「まあ、気にするではない。討伐には依頼を受理したカオリが関わっているのなら、なんとかなるからの。それよりも、こちらとしては報酬を払わない方が問題になってくるんじゃよ。じゃから頼む。貰ってやってくれんかの?別に貰った後は、その報酬をどうしたって一向に構わないからの」
「そこまでいうのなら、貰えるものはありがたく頂戴しよう。ただし、報酬を別の形で貰いたいのだが大丈夫か?」
「別の形とは?」
「どうせ、報酬とは金銭的なものであろう?それを放棄するから代わりに違うものを要求したいのだが、だめかね?」
「なるほどの。では、お主の要望をできる範囲でかなえればいいということでいいかの?」
「ああ、では要求だが……」

そして、私は以下の3つを要求した。
一つ、報酬がでるまでの数日間とは言わず、しばらくの間この村での滞在を許可してほしい。
二つ、私の身分の証明できるものを作ってほしい。
三つ、私になんでもいいので職を紹介してほしい。
という、ものである。というよりも先日聞いた話によるとここの村のものは“余所者”には厳しいらしい。
ならば、この村の有力者である彼の言伝を得られることができたのなら幾分かはましになるのではと思った。

「ふむ、一つ目はよかろう。ただし、村の者に危害を加えなければの話だが。二つ目、三つめは応相談じゃな」
「ちょ!!マスターいいんですか!?」

村長の後ろあたりから突然声が聞こえた。
視線をそちらに向けると、可愛らしい小さな少女がいた。

「おお、いたのかデイジー。小さすぎてわからんかったわい」
「ち、小さいって酷いですよ。私だって気にしてるんですからね!!」

ふぉふぉふぉ、と、笑い出す村長。
確かに村長の言うように、彼女は小さかった。
目算で、身長は大体150㎝あるかないかであろう。

「まあ、良いも悪いも、どちらにせよ手続きのある間は、この村に滞在してもらわなければならないからの。それの延長だと思えばよい」
「で、ですが……」
「では、この話は終わりとするかの。とりあえず、エミヤ殿には宿泊施設に泊まってもらうとして、明日、改めてこちらに来てくれんか?二つ目、三つめの要望に関して話すとしよう」


そうして、話し合いも終わり解散した。
その後、カオリに宿泊施設に案内され、一息。
あとは、カオリに料理をせがまれたりしたので簡単なものを作ったり、この村の名物である温泉などに入っていたら、いつの間にか時間が過ぎていた。
では、時間もいい時間なので明日に備え寝ておこう。
おやすみ。



~追記~
温泉が村の名物と豪語するだけあって、とても気持ち良かった。
そういえば、先日感じていた視線は今日は感じなかった。一体、なんだったのであろうか。







~???~

「……しまった」

しまった、やってしまった。
まさか、この私が寝過ごしてしまうとは思わなかった。
おかげで、彼を見失ってしまったではないか。
まあ、いいか。聞いた話によると彼はユクモ村の方向に向かったらしいし、ゆっくりといけばいいか。

 
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