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地味でもいい

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第七章


第七章

 そうして騒いでいる三人の横に不意に通り掛ってきたのは。
「あっ、おはよう」
「ってあんた」
「誰なのよ」
 挨拶をしたその瞬間に気付いたのだった。
 制服の着こなしは地味だ。だが目は奇麗でそれがノーメイクであっても映えている。そして首のネックレスが。さりげなく自己主張しているのだった。
 三人の知らない顔である。それで彼女達もその彼女を見て。顔をいぶかしめさせたのである。
「このクラスの娘なの!?」
「見たことないけれど」
「わかった、転校生ね」
 小柄なメンバーがここで言った。
「転校生よ。今日入って来た」
「あれっ、そんな話聞いてないわよ」
「ねえ」
 赤毛の娘と背の高い娘は彼女の言葉にすぐに言い返した。
「それならもう私達知ってる筈だし」
「それでも知らないってことは」
「じゃあ違うのかしら」
 この説はすぐに否定されたのだった。
 そうしてその娘が向かって席を見て。三人は驚いた顔で半ば叫んだ。
「えっ、不死身!?」
「まさかって思うけれど」
「あんたなの!?」
「えっ、ええ」
 少し戸惑いながら振り向く彼女だった。
「そうだけれど」
「ちょっと、大昔の少女漫画じゃないわよ」
「何よ。眼鏡取ったら変わりました!?」
「現実にそんな話あってたまるものですか」
 三人は大いに焦りながら口々に叫んだ。
「あのね、世の中ってのはね」
「シンデレラみたいな話は」
「そんなことはないのよ」
「おいおい、朝からテンション高いな」
 騒ぐ三人の頭の上からの声だった。
「あんた達のそのエネルギー何か地球の為に有効活用できないのかね」
「げっ、その声は」
「しかも声の聞こえてくる場所からして」
「出て来たの、大入道」
「俺は妖怪かよ」
 まさに妖怪の名前を出されてそこはいささか抗議する涼平であった。
「せめてダイダラボッチって言ってくれよな」
「で、何よあんた」
「何か用なの?」
「不死身が別人になって大騒ぎしてるのに」
「いや、騒いでるのはあんた等だけだし」
 まずはこう三人に突っ込みを入れるのだった。
「それでだけれどな」
「ええ、それでよ」
「あんた何したのよ」
「コンタクトとネックレス勧めただけだよ」
 それだけだというのである。
「それだけだよ」
「それで不死身がそれを着けて」
「ああなったと」
「そういうわけね」
「そうさ。いや、それで来てくれて嬉しいよ」
 三人から目を離して冬美に顔を向けて微笑んでいた。
「似合ってるじゃない、教室で見てもさ」
「そうなの。似合ってるのね」
「自信持っていいさ。ここにいる騒がしいだけの連中よりずっといいよ」
「あら、随分と言ってくれるじゃない」
「華の乙女達に向かって」
「その言葉後悔するわよ」
 言われてすぐに反応を見せる三人であった。
「しかしまあとにかく」
「これが不死身ねえ」
「何ていうか」
「嫉妬してるか?」
 また涼平が三人をからかってきた。
「ひょっとして」
「冗談ポイよ」
「そんな筈ないじゃない」
 それは即座に否定する彼女達だった。
「私達は他の人に嫉妬なんかしないわよ」
「人は人、自分は自分」
「だからよ」
「まあそれはいいことだけれどな」
 涼平もそれはいいとした。少なくとも三人はそうした感情には縁がないようである。
「それにしても変われば変わるわね」
「あの地味な不死身がね」
「ちょっとコンタクトにしてネックレスしただけで」
「人間ってのはちょっとしただけで変わるもんなんだよ」
 涼平はにこにことしながら述べた。
「もうそれだけでな」
「そういうものみたいね」
「確かにね」
 三人も彼のその言葉に頷いた。
「じゃあ私達もちょっと何かやったら」
「もっと美人になるかも」
「今以上に」
「そのポジティブシンキングは凄いな」
 涼平は三人のこうしたところも認めはした。
「一応そう言っておくな。それでな」
 ここまで話してまた冬美に顔を向けるのだった。
「あらためてさ」
「何なの?」
「俺と付き合ってくれないかな」
 こう彼女に言うのだった。
「そのままの冬美ちゃんでね」
「ええ」
 涼平の言葉にこくりと頷く冬美だった。
「御願い。私からも」
「これから宜しくな」
 笑顔で言い合う二人だった。こうしてハッピーエンドに終わった。そしてそれを横で見ていた三人の言葉は。
「まあありきたりな展開だけれど」
「話は幸せに終わったし」
「それでいいかしら」
 口ではこう言ってもにこやかな笑みだった。その笑顔で二人を見ていた。


地味でもいい   完


               2009・10・18
 
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