Ball Driver
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第四十五話 リベンジマッチ
第四十五話
「フゥーー⤴︎遂に運まで俺の味方になってきたかぁー」
「良く言えますね、こんなクジ引いてきて」
権城とジャガーが眺めているのは、秋季東京都大会の組み合わせ表。南十字学園の隣には、「帝東」の文字。
「いや、狙い通りのクジだよ、これ」
権城は不敵に笑った。
ーーーーーーーーーーーーーーー
秋季大会のメイン球場は神宮第二球場。
ゴルフ場と一緒になっている、狭くてホームランの出やすい球場だ。
「まさかと思って、お前らを偵察にやったんだが、冴えてるな〜俺。本当に初戦で当たっちまったよ」
前島監督がため息をつきながら言う。
ひたすら神奈子のナイスバディに目を奪われていただけの佐武と飯島はまさかの巡り合わせに閉口していた。
「……だから言ったじゃない、ちゃんと見ておかなきゃって」
飛鳥がざまーみろと言わんばかりに、小さな胸を大きく張って偉そうな顔をした。
「新道……投げないんだ……」
寂しそうな顔をしながら素振りをしているのは楠堂。自分にとって最大の敵が出てこない事に物足りなさを感じていた。
帝東
4飯島 右左
9松原 右左
6佐武 右右
3楠堂 右右
7江畑 右左
2新鍋 右左
5大石 右右
8犬伏 右左
1神島 左左
南十字学園
8楊茉莉乃 右右
5松山洋 右右
1権城英忠 右左
2山姿ジャガー 右右
9十拓人 右右
3渡辺神奈子 左左
7題隆史 右右
4仁地佳杜 右右
6楊瑞乃 右右
「三番ピッチャーと四番キャッチャー、主将と副将……この大事な試合は先輩夫婦が鍵だなぁ〜」
「何が夫婦だ、やめろ」
スコアボードを見て呟いた拓人に、権城が背中側から蹴りを入れた。
「ホント贔屓采配よねー。打力で考えたらあたしが四番でしょーがー。」
茉莉乃はブロック予選の時からずっと不満げだ。不満げな癖に、一番に座っても結果を出しているのがまた憎い。
「ちげーよ、茉莉乃が一番打つからあえて一番に置いてんだよ。俺たちは常識を破るのが目的なんだ、お前も良い加減四番最強説改めろ」
「はいはい、その話もう何度も聞いたー」
権城にそっぽを向いて、茉莉乃はブンブンと素振りを続ける。
「…………」
佳杜はベンチに深く腰掛け、目を閉じて精神を統一している。
(ったく、先輩たちに比べりゃマシだけど、こいつらの相手も大変だなぁ)
権城の深いため息と共に、この一戦は始まった。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
先攻は帝東。帝東はブロック予選は三試合で46得点。夏からのレギュラーを中心に、相変わらず強打は健在で、仕上がりの遅い都立校を叩き潰してきた。
その帝東打線に、南十字学園先発の権城が相対する。
「ブロック予選では登板なし。背番号も9。……確か去年の秋の都大会で吉大三相手に先発してたっけなぁ……」
先頭打者の飯島に尋ねられたスコアラーも困った顔をしていた。
「ノーデータか。ま、練試は全部ノーデータだし、問題無いか」
「あいつ、中学の時はピッチャーよ。かなり良いピッチャーだった。心してかかりなさいよ。」
「中学の時の話だろ。俺らが今やってるのは高校野球!」
飛鳥の言葉をあしらって飯島は打席に向かった。飛鳥はその背中をふくれっ面で見ていた。
<1番セカンド飯島くん>
アナウンスと共に飯島が打席に入る。強打の帝東打線の核弾頭は、長打もある好打者。前チームの白石の系譜を継いだ攻撃的トップバッターである。
(投球練習では、まとまった投げ方はしているけど、そんな凄くも無かったな……)
マウンド上で権城が振りかぶる。
サイレンが響き、この試合の第一球が投じられた。
バンッ!
「ボール!」
初球は変化球がすっぽ抜けて、ボールになった。権城は舌を出して苦笑いを見せる。
(今の、球種はスライダーっぽいな)
飯島がそう思った時には、既に権城は二球目を振りかぶっていた。次の球はストレートでストライク。ジャガーの構えとは真逆のインコースだった。
(だいたい球速は130前後くらいだろ。そんな速くないな。そしてコントロール荒れ荒れじゃん)
その後も権城はテンポ良く投げ込むが、イマイチ良い所に決まらない。3-1とボール先行のカウントで、飯島はストレートを叩く。
(甘い!)
カキーン!
打球は鋭く二遊間へ。
球足の速いゴロがセンター向けて転がっていく。
(……捕れる!)
しかし、そのゴロに佳杜が追いつく。
際どい打球を逆シングルで掴み、素早く一塁へ送球。左打者の飯島との競争になった。
「……アウト!」
タイミングは間一髪だったが、ファーストの神奈子が長い足を180度に開いて体を一杯に伸ばし、佳杜のショートバウンドの送球を掴み取った。神奈子の体の柔らかさが間一髪分の速さにつながった。
「……らしくないわね。あなたなら、いつもあれくらいの距離は胸に投げてくるのに。」
「アウトにする為にはあなたに目一杯伸びてもらう必要があった。あなたの腕が一番伸びる低めに投げただけよ。ショートバウンドでもあなたは十分捕れるだろうし。」
「あら、信頼してくれてるんだ?」
「……そこに関してだけはね」
足を大きく開いたままで笑みを見せた神奈子に、佳杜は仏頂面でそっぽを向いた。
「ワンアウト!このリズム大事にしていきましょう!」
司令塔・キャッチャーのジャガーが声をかける。守備陣からは元気の良い返事が返って来た。
「多分ストレートとスライダー。速くない。そして荒れてるぞ。見て行った方が良いかもしれねぇ。」
ベンチに帰ってきた飯島の言葉に、帝東ナインが頷く。飛鳥は1人、首を傾げていた。
(こんな大した事ない奴だったっけ……?)
訝る飛鳥の眼前で、二番バッターがヒットを打った。
ーーーーーーーーーーーーーーー
「いやー、悪い悪い。さすがにあれは捕れねぇよなぁ」
権城が謝りながら、ショートの瑞乃からボールを受け取る。三遊間を抜かれた瑞乃はふくれっ面で不満げである。
「えー、ボクならあの打球くらい、もう一度あれば捕れるよー」
「よーし分かった。これからもどんどん打たせるから、しっかり捕ってくれよ。」
「うん!」
無邪気な笑顔を見せた瑞乃を、権城は頼もしく思っていた。打順はここからクリーンアップ。要警戒である。
<3番ショート佐武くん>
春はベスト4、夏はベスト8。2度の甲子園でも活躍し、夏はホームランも放った佐武が打席に入る。今は主将として、チームを引っ張る。
バシッ!
「ストライク!」
佐武はあっさり初球を見逃した。
そして権城を品定めする。
(……ホント、大した事ないな。逆球だらけでコントロールも良くないし、こりゃ一気に決められるかも)
そう分かれば佐武は遠慮しない。
次の球からは積極的に打ってでる。
しかし、権城の球はインコース高めに食い込んできた。
(それでも打てる!)
カァーン!
佐武は厳しいコースの球も、肘を畳んで強引に打って出た。強烈なゴロが三遊間を襲う。
「待ってましたぁ!」
そのゴロに、瑞乃がスライディングを決めた。滑りながらの逆シングルキャッチで、身を翻しながら二塁に送る。軽業師のような動き。瑞乃は茉莉乃と同じくらい身体能力が高い。
(……刺せる)
二塁ベース上で瑞乃からの送球を捕った佳杜は、そのままボールを一塁へ。今度は神奈子の胸の高さにドンピシャで送られ、神奈子が必死に体を伸ばすまでもなくゲッツーが成立した。
「よーしナイスだ瑞乃!」
「いぇい☆」
権城と瑞乃はハイタッチしながらベンチに戻る。一回の表、結局帝東の攻撃は三人で終わった。
「かーーっ!上手く打てたのになぁ!」
ゲッツーに倒れた佐武は、瑞乃の美技に苦笑い。その様子を自軍ベンチから見て、権城はほくそ笑んでいた。
(そうだ、そうだ。これからも上手く打ってくれよ。……上手くな。)
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