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永遠の空~失色の君~

作者:tubaki7
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EPISODE42 涙

 
前書き
少々過激な描写があるやもしれません。ご注意ください 

 

「どういうことだよ千冬姉!」


廊下に響くは一夏の声だ。怒り心頭といった感じで姉である千冬に詰め寄る。


「学園に戻ってみれば荒れ放題、シャルロットは撃たれて意識不明!おまけにライは引きこもって出てこない・・・・何でこんなことになってんだ!?」

「外部との連絡が完全に遮断されていた。おまけにこれは特秘事項だ。おまえには言えん」


突き放すような態度がさらに一夏の態度を煽る。いくら姉とはいえ、許せないことと許せることがあると反論するも取り付く島もなく踵を返す千冬。


「逃げるのかよ千冬姉!」

「・・・・織斑先生だ」


それ以降は何も言わずにその場を去る千冬。今追いかけて問い詰めれば多少は白状するかもしれないが、それは多分ないだろうと長年の付き合いからわかる。こうなった姉は意地でも本質を話そうとはしないので一夏はやりきれない気持ちを壁を殴るという行動で晴らすこととする。その後ろでどうしていいかわからない箒は自分たちの後ろで静かに佇むレモンイエローの髪を持つ少女に目を向ける。自分と同じように、時にはそれ以上に凛としていて、気丈に振る舞う彼女だが今はなにも言わず閉ざされたドアの向こうを見たまま動かないでいる。前髪と陽の当たりで影っているためその表情までを確認することまでには至らないが、それでも彼女が憤りと無力感に悩んでいることだけは遠目でもわかることがあった。静かに握った拳がワナワナと震え、歯を噛みしめているのかギリ、という音が僅かに聞こえる。


「・・・・なあモニカ。ここで何があったんだよ」

「・・・・」

「…そうか、おまえも何も言わねーのか」


口悪くなる気持ちもわかる。だが、それはないだろうと一夏を咎める。それに「わかってる」と返す一夏。それにわかってないだろうと返しそうになるのを堪え言葉を飲み込んだ。ここで言い争うのはよろしくない。だから、


「モニカ。その・・・・話せるようになったら話してほしい。私も一夏もそれまではなにも訊かない。…それじゃ」


一夏を連れ、部屋へと戻る箒。二人が去ったことを気配で悟るとモニカは一夏同様――――いや、それ以上の力で壁を殴る。


「何が護衛だ。何が私が守るだ。肝心な時に何もできないどころか傍にいることすらできないで・・・・!」


完全な失態だ。何が間違っていたかなんてわかっている。あの二人にすべてを打ち明けてさえいればきっと結果も変わっていただろう。学園もさほど被害はなかったとはいえそれなりの施設への被害はある。さらに一番の失態は愛する主人(妹)を危険にさらしたことだ。これは何があっても避けなければならなかった事態。わかっていた、来るという確信があったにも関わらずこのざまだ。

なんて、無様だろうか。これでは笑い話にもならない。


「私は・・・・」


結局のところ、信じきれていなかったことがこの結果を招いた。彼らを信頼していれば、あの子は傷つかずに済んだ。共に遊園地へ行こうという約束も実現させてあげることも。でも、自分の判断が誤ってしまったばかりに招いた結末は・・・・こうもモニカを責めたてる。だが――――


「こなっても、まだ私は彼らを・・・・!」


信用すら、していないのか。悔しさの念が静かに頬を伝った。











陽もすっかり落ちた夜7時。時計の表示をその数字をさしてはいるがそれさえ気にとどめるほどの余裕はない。先ほどまで問いかけていた少女は今は沈黙を置いている。機体にかかった不可の処理に追われているのだろうと彼女の苦労をそっと労うとともに自分の中にある虚無感を探る。

何かを失くした。あの時、ガラスがひび割れるような音とともに何かが自分のなかから消えていくのを感じた。なのに、それがなにかすらも思い出せない。思考する。途中で中断されるを繰り返す。

唯一残ったのは、今まで曖昧だった自分の過去。それもこの世界でのものではない何か。それが、ライを責めたてる。


「・・・・僕は・・・・」


呟いたところでドアをノックする音が聞こえる。返事はせず居留守でごまかそうとするもそれも無駄だったようでドアが開き中に入ってきたのはこの部屋のもう一人の主だった。


「電気もつけないでこんなところにると、余計に気分が沈んじゃいますよ?」

そう言って気遣ってくれているのかベッド脇にあるスタンドライトのみをつける。淡くともる灯りがその周囲のみを照らし、二人の間に温かいオレンジ色の光を落とす。ベッド、枕側の壁に背中を預けているライに対し、真耶はその傍に背中を向けて腰を下ろす。ギシリ、とスプリングが体重に沿ってへこみ、僅かに押し返すことで揺れが生まれて彼女の躰を僅かに浮かす。


「・・・・何か、あったんですね」


雰囲気から何か察したのか真耶はあまり多くを訊こうとはせず自らの勘のみでライの抱えているものを察する。それがごく一部なのかすべてなのはは知るところではないが、それでもたぶん正しいだろうと判断し言葉をつづける。


「デュノアさんは一命をとりとめました。現在集中治療中です。ライ君がリヴァイブに生命維持を最優先にするようプログラミングしたことが幸をそうしまいした。もう峠は越えたそうです。それでも、意識は戻ったわけではありませんが・・・・あ、学園の方は大丈夫です。施設も破壊された外壁以外は何とか使用できますので」


それはただの報告。だが、それでもこの重い空気がずっと続くよりはマシだと思う。ライはそんな真耶の心使いに感謝しつつようやく口を開いた。


「・・・・ヴィクトリア・デュノアの行方は?」

「残念ながら逃げられました。やっぱりデュノアさんが目的だったようです」

「・・・・違います。彼女は僕を狙ってました。彼女はただ巻き込まれただけです」

「どういう事ですか?」

「❝デュノアさん❞はあくまでも僕を誘い出す為の餌。本命は、僕の拉致でした・・・・」


結果としてシャルロットは撃たれ、本来の目的とは違っていたがあの口ぶりからしてそう考えて間違いはなさそうだ。そして多分欲しているのは、ギアスか、それともクラブか・・・・。そこまでは至らないにしても、どのみち自分が対象とされていたのは間違いない。その証拠に同じ男性操縦者である一夏の方になにもなかったのがその証だ。敵の狙いははなから此方だったとして断定できる。

そう。彼女はただ、巻き込まれただけなのだ。そしていずれまたやってくる。そうなれば、今度はこうはいかない。きっと次はもっと被害がでて、怪我人どころではなくなる。

 思考が最悪の結末を描き出す。これはそれまでの布石だと導き出した答えにライが下した決断は――――


「ダメです」


真耶が言い、手を重ねてくる。それはまるで引き止めるかのようなものに見えるのは自分の出した答えのせいか。


「ライ君は、一人で抱え込みすぎです。もっとまわりを頼った方がいいと思います」

「でも、ここにいればまた・・・・」

「大丈夫です。ここにいる人たちはみんな貴方の味方です。それに、これでも元日本代表候補性で学園教師ですから。生徒のことは、私が責任をもって守ります」


頼りないですけどねと苦笑い。それでも表情を変えないライに困ったように笑いながらそっと抱き寄せた。突然のことに慌てるライだったが、直後に感じた温かさにそれもなくなる。


「何を抱えているのか、何を考えているのか。それは貴方が話してくれるまでは私も訊きません。ですが、これだけは覚えておいてください。どこにいても、どんな時でも。貴方にはもう、帰る場所があること。そしてそこには、貴方のことを想ってくれる人たちがいること。私も、貴方のことを想っています。それだけは、忘れないでください」


さながら、子をあやす母親のような。顔を上げればそこにはいつも通りの変わらぬ笑顔。その微笑みに、ライは誰かの面影を見た。それが誰だったのかは思い出せない。でも、どこか懐かしくて温かい・・・・そんな感じがした。


「僕は、ここにいてもいいんでしょうか・・・・」

「もちろんです。その為に、私が貴方を守ります。もう、一人じゃないから」


重なった感触から伝わるぬくもり。人の持つ温度はこんなにも安らぐものなのかと心を落ち着かせていく。


「私が受け止めます。だから、今だけは溜まったものを吐き出してもいいんですよ?」

「・・・・でも」

「もう・・・・男の子なんだから、女性にここまでさせておいて甘えないのもナンセンスですよ」

「そういうものでしょうか」

「そういうものです。さぁ・・・・いらっしゃい。その代り、明日からはまたいつもの貴方に戻ってください。もしも辛くなった時は、いつでも私が受け止めてあげます。なんて言っても、私は貴方の先生ですから」


胸を張る真耶。その姿がおかしくて、とても大きく見えて。頼りになる先生だと思いつつ、ライはその温かさに浸る。

 暫しの間、布の擦れあう音が部屋に響いた。










随分とやってくれたわね、と声が一つ。暗い部屋の中、灯りのないその空間からは眼下で輝く夜景が美しく見える。まるで夜空の星をそのまま散りばめたような美しい光たちは手にしているワイングラスの中で反転しゆらゆらと揺れている。


「勝手なことはしないでと言ったはずなのに、全くヴィクトリアには困ったものね。そうは思わない?・・・・M(エム)」


Mと呼ばれた少女が暗闇の中から静かに現れる。顔はバイザーで隠れておりその素顔は見ることはできないが、それでも後ろでニヤリと笑ったのがガラス越しに見えた。とても狂気に満ちて、そして素敵な笑顔だと評価する。


「始末するか?」

「いいえ。彼女も一応は私たちの同志よ。貴重な戦力を失うわけにはいかないわ」

「そうか?私は嫌いだ。クサいし、なんだか感に障る」


それもそうねとクスクスと笑う。だが、それでも彼女はいい仕事をしたと同時に評価をしてやるのも忘れない。


「蒼月ライ・・・・貴方は私たちのモノ・・・・いずれまた戴きにいくわ。それまでは、しばらくのお別れね・・・・」


手に持ったダーツの矢を見向きもせず、そのままの姿勢で放る。まっすぐにど真ん中を射抜いたその的にはライの写真が貼ってあった。


「これからが楽しみね・・・・フフフ」  
 

 
後書き

始まったのは、終わりへと至る物語


終わったのは、これまでの平穏


その間で横たわるしばしの休息は、静かな安らぎを与える


次回、永遠の空~失色の君~

EPISODE43 生徒会長 ―サラシキタテナシ―


それは最強の証 
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