剣の丘に花は咲く
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第十二章 妖精達の休日
幕間 緋色の薔薇
前書き
……短い……短すぎる。
……すみません。
―――どうしてなのか―――少し―――分かった気がする。
乾ききった、この数え切れない剣が突き立つ荒野が広がるここで―――彼の過去を垣間見て―――少しだけ―――分かったと思う。
どうして―――あたしがあなたに惹かれたのか。
どうして―――こうまであなたに恋焦がれるのか。
どうして―――こうもあなたが愛おしいのか。
人は皆―――誰しも心の中に燃え盛る炎を持っている。
それは夢であったり、希望であったり、未来であったり、目標であったり―――大きければ大きいほど、心の内で燃え盛る炎は赤く、強く、大きく燃え上がる。
あたしはそれに惹かれていた。
確かに容姿やスタイルも勿論大事だけど、それ以上にその人の心の内で燃え盛る炎に惹かれていた。
その炎が強ければ強いほど惹かれていた……だから、あなたの心の内に燃える炎はそれだけ大きと思っていた。
でも、違った。
誰よりも、何者よりも果てなく大きな夢を持ちながら、しかしあなたの炎は―――酷く儚く、弱く、揺らめいて。
なのに―――ここまであなたに惹かれたのは……きっと、あなたの炎が、誰よりも……何者よりも……美しく、濃く、緋く、紅く……眩いほど輝いていたから。
シロウ―――あなたの、過去の断片。
あなたは……救っていた。
何時か、何処かで、人種、年齢、性別、貴賎を問わず。
救っていた……それは良い、構わない……でも……その方法には文句が言いたいわ。
何故、そこまで自らを犠牲にして。
何故、自分を貶めてまで。
何故、そんな苦しみながら。
それでも救おうとするのか……。
あたしには、理解出来ない。
理解したくない。
知りたくない。
分からなければ……良かったのに。
シロウ―――あなたが……人として壊れていることを。
人として、いえ、生き物として当然備わっている筈の自己保存の本能。
人が生きる上で必要なその本能が―――あなたにはない。
だから、あなたはそこまで自分を犠牲にして人を救う事が出来る。
それが尊い事だとあたしは思わない。
それどころか、悲しい、哀れだと……思っている。
……でも、どうしてかしら。
それでも、あなたに惹かれるあたしがいる。
あなたが人として壊れていると知りながらも、惹かれる自分が……。
それは、きっと……あなたの“夢”がこの世の何よりも尊く……例え壊れていようとも、それを目指すあなたが、酷く……美しく……だから、焦がれてしまった。
強く、強固に見えたあなたは……しかし、本当は脆く、儚い……。
七万の軍勢を前に欠片も絶望しなかったあなたが……幼子の、憎しみの篭った言葉一つに軋みを上げる。
そんなにもあなたは強く―――そして弱い……それでも、あなたは進み続ける。
人を救うため?
何故?
何のため?
かつてあなたが口にしたように、憧れた“笑み”を何時か自分が浮かべる事が出来るために?
止めることは出来ない。
どれだけ言葉を尽くしても、どれだけあなたの身体を束縛しても、きっとあなたを止めることなど出来はしない。
それが、分かってしまった。
……何よりも、わたしには出来ない。
何故なら―――あたしは……そんなあなたに焦がれてしまった。
何て……罪深い。
脆く、儚い心でありながら、何よりも美しい夢を目指す姿が―――こうも愛しく思うなんて―――……。
だから、あたしに出来ることはない。
ただ、見ているだけ。
あなたが傷つく姿を見て……苦しみながら…。
何て……愚かで……滑稽で……酷く醜悪な。
自分で自分が嫌になる。
でも……これがあたし……人の内―――心の中で燃え盛る炎に焦がれる者。
―――…………人の事を、あたしはどうも言えないわね。
あたしも、きっと壊れている。
あなたが苦しむとしっていながら、傷つくと知りながら……それでも止めない……止めれないあたしは……きっと、何処か壊れているのでしょうね。
……それでも……どうか……許して。
あなたの内で燃える炎に焦がれたため、あなたが死へと歩む足を止めようとしないあたしが……―――。
あなたの幸せを祈ることを――――――
―――赤い―――紅い―――果てない荒野に―――乾いた風が吹き――――突き立つ剣が軋みを上げ―――
どうか―――許して――――。
―――緋色の薔薇―――緑葉が揺れ―――雫がポツリと―――渇れた大地に―――降りそそぐ―――
後書き
感想ご指摘お願いします。
次回から第十三章です。
プロローグ―――あの人が出ます。
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