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戦国異伝

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第百七十四話 背水の陣その六

「上杉謙信か」
「後ろには二十五将もおるぞ」
「直江兼続もな」
 愛の文字が描かれた兜を被った男もいた。
「自ら出陣してきたか」
「二十五将も引き連れ」
「そのうえで」
 織田の将兵達は戦慄さえ感じていた、それでだった。 
 柴田がだ、自ら陣頭に立ちこう言った。
「狼狽えるでない」
「ここはですか」
「狼狽えるなというのですか」
「そうじゃ、落ち着くのじゃ」 
 例えだ、謙信がいてもだというのだ。敵に。
「よいな」
「はい、それでは」
「落ち着いてですな」
「ここは、ですな」
「戦えと」
「そうじゃ、、そして生き残るのじゃ」
 そうせよというのだ、そしてだった。
 兵達にだ、こうも言ったのだった。
「わかっておるな、今の我等はな」
「はい、後ろは川です」
「退くことは出来ませぬ」
「それではですな」
「ここは」
「生きたければ戦うのじゃ」
 まさにだ、そうせよというのだ。
「よいな」
「はい、それでは」
「今は」
「そうじゃ、生きよ」
 絶対にというのだ。
「わかったな」
「はい、それでは」
「今は生きる為に」
「戦いまする」
「何としても」
 兵達も後ろを見た、まさにそこはだった。
 川だった、それを見れば退けぬのは明らかだった。それで彼等も覚悟を決めてそのうえで柴田に応えるのだった。
「何としても生きましょうぞ」
「戦いそのうえで」
「必ず」
「生きたければ戦うことじゃ」
 まさに、というのだ。
「わかったであろう」
「殿が来られるまで、ですな」
「援軍と共に」
「殿は必ず来られる」
 間違いなく、というのだ。
「明日にでもな」
「ですな、今耐えればですな」
「それでよいですな」
「今だけなら耐えられよう」
 例えだ、謙信が率いる軍勢と戦になってもというのだ。
「そうじゃな」
「はい、それなら」
「今だけなら」
「戦えまする」
「例え軍神が相手でも」
「ではよいな」
 それではと言ってだ、そのうえでだった。
 柴田は全軍に堅く守らせた、それは上杉の軍勢からも見られた。
 その織田軍を見てだ、謙信はこう言った。
「織田軍も堅固ですね」
「はい、いい陣です」
 宇佐美が答えた。
「実に」
「そうです、ですが織田信長ではないですね」
「あの軍を率いているのはですか」
「織田信長ではないですか」
「はい、違います」
 一目でだ、謙信はこのことを見抜いたのである。 
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