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戦国異伝

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第百七十四話 背水の陣その五

「それも相当に」
「左様ですか、馬ですか」
「我等には槍がありますが」
 織田家の長槍だ、鉄砲と並ぶ織田家の武器である。
「それで彼等を防げるか」
「それが問題ですな」
「おそらくですが」
 あえてだった、明智はこう羽柴に話した。
「長槍と鉄砲だけでは」
「上杉は防げませぬか」
「もう一つ何かが欲しいところかと」
「何かがですか」
「はい、もう一つ」
 長槍と鉄砲に加えてというのだ。
「そう思いまする」
「ふむ、そうですな」
 羽柴は明智の言葉を受けて右手を顎に当てて考える顔になった。そして暫く考えてそのうえでだった。
 明智にだ、閃いた顔でこう言ったのだった。
「木はどうでしょうか」
「木ですか」
「はい、左様です」
 それを使ってはどうかというのだ。
「これはどうでしょうか」
「木をどう使われるのでしょうか」
 明智は羽柴の今の言葉の意味がわからなかった、それでだった。 
 いぶかしむ顔になりだ、こう彼に尋ねた。
「一体」
「はい、そのことですが」
 羽柴は明智に詳しく話した、その話を聞き終えてだ。
 明智は確かな顔になりだ、こう羽柴に述べた・
「それはよいですな」
「そう思われますな」
「すぐに権六殿にお話しましょう」
 こう羽柴に言う。
「今すぐに」
「はい、それでは」
 こう話してだ、そしてだった。
 二人はすぐに柴田のところに赴いた、そのうえで羽柴が柴田に話すとだ、彼もすぐにこう言ったのだった。
「よいのう」
「権六殿もそう思われますな」
「面白い、しかもじゃ」
「使えますな」
「うむ、だからな」
 こう言ってだった、羽柴にこう言った。
「それを使おうぞ」
「では」
「戦の時には」
「うむ、相手が相手じゃ」
 だからこそ、というのだ。
「何でも使えるならな」
「使ってですな」
「そうして」
「凌ぐ」
 そしてだというのだ。
「殿が来られるまでな」
「はい、では」
「何としても守りましょうぞ」
 羽柴と明智も応えた、そしてだった。
 彼等は上杉の軍勢を待った、すると。
 遂にだった、その目の前にだ。彼等が来たのだった。
「来たぞ!」
「黒い具足と旗じゃ!」
「陣笠も陣羽織も鞍も黒じゃ!」
「あらゆるものが黒じゃ!」
「上杉の黒じゃ!」
 まさにだ、黒こそが上杉の色だった。その黒い軍勢が前に姿を現してきたのでそのうえで言うのだった。
「毘沙門天の旗もあるぞ」
「五万か」
 その数もざっとであるが確かめられた。
「ざっとそれだけおるな」
「五万の軍勢、そしてか」
「おるぞ、あそこに」
「軍勢の先頭にな」
 まさに五万の軍勢の先頭にだった、黒い具足と陣羽織を着てだった。その頭にだけ白い頭巾を被っている。それはというと。 
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