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戦国異伝

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第百七十四話 背水の陣その四

 柴田達は五万の兵と共に加賀に入った、そしてすぐにだった。
 手取川を渡った、そこでだった。
 柴田は全軍に陣を敷かせた、その陣はというと。
「守りが堅いのう」
「そうじゃな」
 川尻と前野がだ、その陣を見回りながら話をしていた。
「そしてこの陣を敷いてか」
「上杉を迎え撃つか」
「隙あらば攻める」
「このことも考えて」
 こう話すのだった、そしてだった。
 二人のところにだ、その柴田が来て言ってきた。
「そうじゃ、確かに守りは固めるがな」
「それと共にですな」
「上杉が隙を見せればその時は」
「攻める、そのつもりじゃ」
 こう確かな声で言うのだった。
「少なくともそのつもりでなければな」
「上杉にやられますな」
「越後の龍に」
「言っておくが退路はない」
 柴田は彼等の後ろを見た、そこにあるものは。
 川だった、その手取川だ。彼はその川を見ながら川尻と前野に話した。
「わかるな、後はな」
「戦うだけですな」
「生きたければ」
「退くことは出来ぬ」
 それは絶対にないというのだ。
「だからじゃ、生きたければな」
「戦うだけ」
「それだけですな」
「兵糧や武具はある」
 そういったものはというのだ。
「存分に戦えるぞ」
「心おきなくですな」
「飯や刀の心配はいらずに」
「そういうことじゃ。間もなく上杉の軍勢が来る」
 その相手となる彼等が、というのだ。
「ではよいな」
「はい、生きる為には」
「是非戦いましょうぞ」
 二人もこう柴田に応える、柴田はここはあえて背水の陣を敷き自分達を死地に置いて上杉に挑むのだった。そしてその中には当然羽柴もいる。
 羽柴は唸ってだ、共にいる明智にこう言った。
「いや、思い切っておりますな」
「権六殿がですな」
「はい、あえて死地に入られるとは」
「全くですな、これでは戦う他ありませぬ」
 明智も後ろを見た、その彼等の退路を阻む川を。これでは逃げられないことは誰が見ても明らかであった。
「生きる為には」
「ですな、どのみち川の北を明け渡せぬなら」
「戦うしかありませぬ」
 まさにこの場でだ。
「柴田殿のお考えは理に適っておりまする」
「そしてそのうえで」
「我等は戦うだけです」
 上杉の軍勢とだというのだ。
「相当にj激しい戦になりますが」
「確か上杉の軍勢は五万ですな」
「はい」
 その通りだとだ、明智は羽柴に答えた。
「五万、そして率いるのはです」
「謙信公御自らですな」
「左様です」
「それはまた激しい戦になりますな」
「武田も騎馬隊が強かったですが」
 明智は顔を前に戻した、そのうえで羽柴に話すのだった。
「上杉もまた、です」
「騎馬隊ですな」
「あの兵が強いです」
 彼等もまた、というのである。 
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