雲は遠くて
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48章 バンドの名前は、ドルチェ!
48章 バンドの名前は、ドルチェ!
8月2日の土曜日、午後3時ころ。雨もぱらつく、
晴れたり曇ったりの天気である。
下北沢駅南口から歩いて5分の、ライブハウス EASY(イージー)に、
モリカワ・ミュージックの課長の森川良と、
モリカワ本社の課長の川口信也たちが集まっている。
20歳になったばかりの水谷友巳をメイン・ヴォーカルとする、
新しいロックバンドの結成とデビューのための、
最終的な話し合いを、バンドのメンバー全員としている。
バンドのメンバーは、水谷友巳以外の4人は、どんなジャンルの曲でも演奏できる、
いわゆるスタジオミュージシャンであった。レコーディングやライブなどに参加する
仕事をしていて、モリカワ・ニュージックの仕事もしてた。
野口大輝、志村潤、黒田悠斗と、
ひとり、女性の吉行あおい、の4人であった。
ライブハウス、EASY(イージー)は、キャパシティが、着席で60人、
スタンディングで90人の、モリカワの直営店である。椅子やテーブルや
カウンターは、自然の木を使っていて、木目も美しい。
「おれたちは、スタジオだけの単調な仕事に、あきあきしていたところ
なんですよ。友巳さんは、才能ありますし。きっと、いいバンド活動が
できるだろうって、すごく期待しているんです。なぁ、みんな!」
ベースギター担当で、すでに、このバンドのリーダーと決まっている、
25歳の野口大輝が、落ち着いた表情でわらいながら、
みんなを見わたす。
「そうなんですよ。楽しみなんです。この頃は、また、しょっちゅう、バンドでも
やって、ライブとかもやりたいよねって、話していたんですよ。あっはは」
ギター担当の22歳の、志村潤が、いたずら盛りの少年ように、
瞳を輝かせながら、そういって、微笑む。
「友巳さんとなら、最高のバンドができると思います!わたしたちで、
バンドを組んで、デヴューできたらいいわよね、なんて、ちょうど、
話したりしていたんですもんね!ねえ、悠斗さん」
キーボード担当の22歳、すらっとしたモデルのような容姿で、顔立ちも美しい、
吉行あおいが、森川良を眩しそうに見て、微笑む。
「そうなんですよ、偶然なんでしょけど。そうしたら、良さんから、
今度新しくバンド結成するから、そのメンバーを探しているって、
お誘いがあったんですからね。世の中って、いつどこで、
幸運が舞い込んでくるのかなんて、わかりませんよね。あっはは」
そういって、ちょっと、人見知りの性格で、照れながらわらうのは、
ドラム担当の24歳、黒田悠斗であった。
「よかったですよ。みなさんが、バンドの結成と加入に、快く
賛成してくださって。本当にありがとうございます。
こんなにスムーズに短い期間で、メンバーが決まるとは、
わたしたちは、考えていなかったんです。ねえ、とも(友)ちゃん」
そういって、森川良は、隣にいる水谷友巳を見る。水谷の隣には
高校1年、15歳の木村結愛もいる。
「まったくですよね、良さん。きっと、バンド結成までの道のりは、
険しく、難しいだろうなあと、考えていたんです。
実は、最初は、おれの高校のときの、バンドの仲間たちで結成しようと
考えたんですよ。ところが、やっぱり、プロとしてやっていくのには、
実力が不足でした。頓挫して、ダメになってしまいました」
水谷は、そういったあと、一緒にやっていけなくなった高校からの
仲間たちのことが、頭の中を過った。
「でも、とも(友)ちんたちのバンド演奏は、かなり良かったんだよね。
息も合っているから、リズムの乗りもいいし、グルーブ感っていうのかな、
聴いていて、とても楽しめたからね。粗削りだけど、
それも魅力的だしね。しかし、プロとしてやってゆくのには、
あと最短でも、1年くらいの時間が必要な感じなんだよね」
あと1年くらい待ってみようかなって、考えたいたわけだけど」
川口信也が水谷友巳の心情を察しながらそういった。
「でも、友ちゃんは、友情をいつも大切にしているんだから、高校のお友だちも
わかってくれているわよ!大丈夫よ、友ちゃん!」
木村結愛は、水谷が沈んでちょっと暗い表情するものだから、
身体を寄せて、耳もとで、そういって励ます。
この新しいバンド名の『ドルチェ』は、結愛の提案した名前だった。
それが採用されて決まったものだから、結愛も嬉しかった。
ドルチェ(dolce)は、イタリア語で、甘いの意味や、音楽の用語として、
柔和に、甘美に、優しく、などの意味があり、また、イタリア料理で、
菓子やケーキやデザートについてもいい、また、イタリア産のワインで
甘口のものも意味する。
「おれ、作ったばかりの歌で、バラードですが、ちょっと歌ってきます!」
水谷友巳は、スポットライトの当たるステージのマイクの前に、
ギターをかかえて立つと、歯切れのいい、リズミカルな、8ビートの
カッティングのイントロで、歌い始めた。
Good luck to my friend. 作詞作曲 水谷友巳
仲間と いつも歩いた 学校の並木道
きみと 何度も歩いた 学校の並木道
青春の 日々は 毎日 輝いていたね
夢を見たり 追うことが 青春ならば
夢を見たり 追うことを 忘れないことさ
人生は いつも 輝く 青春であるべきだから
時の流れのなか 自分を 見失わないように
時の流れのなか 愛を 見失わないように
時の流れのなか 優しさを 無くさないように
Good luck to my friend.(友だちに、幸運あれ)
Good luck to my friend.(友だちに、幸運あれ)
人の痛みが 自分の痛みと同じように
感じられることが オトナになることなのかって
想像を 巡らすことも あったけど
でも オトナの世界は そんなに綺麗じゃなかった
なぜ 生きることは こんなに難しいことなのか?
欲望があるからか?生きることが 過酷だからか?
時の流れのなか 自分を 見失わないように
時の流れのなか 愛を 見失わないように
時の流れのなか 優しさを 無くさないように
Good luck to my friend.(友だちに、幸運あれ)
Good luck to my friend.(友だちに、幸運あれ)
汚れのない 澄んだ心や 日々の 一瞬
一瞬とか 大切なことは いっぱいあるけれど
真実の世界を 生きてゆければいいと 切に思う
時の流れのなか 自分を 見失わないように
時の流れのなか 愛を 見失わないように
時の流れのなか 優しさを 無くさないように
Good luck to my friend.(友だちに、幸運あれ)
Good luck to my friend.(友だちに、幸運あれ)
≪つづく≫ --- 48章 おわり ---
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