ソードアート・オンライン~漆黒の剣聖~
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アインクラッド編~頂に立つ存在~
第一話 猥雑の街からの始まり
「ふぅ、やれやれ・・・、こんなもんか」
現在74層の≪迷宮区≫を一本の刀を携え、裾が膝下までとどいている、深みのある漆黒のコートを羽織っている一つの人影があった。
「これだと、エギルのとこで買い取りを頼むか」
アイエムウインドウをのぞき、これからどうするかを決めると、足を転移門のあるほうへと向ける。プレイヤーが目指すのは五十層アルゲートにある、知り合いの商人プレイヤーのところだ。
◆
五十層 アルゲート
猥雑という言葉がぴったりなこの場所の一角のとある故買屋に、ある一人の剣士がいた。
「うっす。相変わらず阿漕な商売をしてるな」
「よぉ、キリトか。安く仕入れて安く提供するのがウチのモットーなんでね」
「後半は疑わしいもんだなぁ」
全身黒ずくめの少年が禿頭の巨漢に声をかけ、軽口をたたきあう。
「まぁいいや。俺のほうも買い取りを頼むよ」
「キリトはお得意様だから、あくどい真似はしませんよっ、と・・・」
そういって首を伸ばし黒ずくめの剣士、キリトのトレードウインドウを覗き込む。
そして、それを見た故買屋の店主エギルは驚きで目を丸くした。
「おいおい、S級のレアアイテムじゃねえか。≪ラグー・ラビットの肉≫か、俺も現物を見るのは初めてだぜ・・・。キリト、おめえ別に金に困ってねえんだろ?自分で食おうとは思わんのか」
「思ったさ、けど、こんなアイテムを扱えるほど料理スキルを上げている奴なんてそうそう・・・」
そこまで言ったとき、背後から肩をつつかれ、声をかけられた。
「キリト君」
キリトの肩に触れたままの手を素早くつかみ振り向き口を開いた。
「シェフ捕獲」
「な・・・なによ」
キリトに手をつかまれたプレイヤー、血盟騎士団の副団長である≪閃光≫アスナは訝しげな顔をして後ずさった。護衛である長髪の男がキリトをにらんでいる。
「私もいるんだけどね。で、いつまでにぎってるの?」
そういって、アスナの影から出てきたのは血盟騎士団の参謀長である≪流水≫ルナ。
ルナの指摘にキリトは手を放し、手を握っていたキリトを睨みつけていたアスナの護衛ある長髪の男にひらひらと手を振りながら言葉を返す。
「珍しいな、アスナ、ルナ。こんなゴミ溜めに顔を出すなんて」
ゴミ溜めと聞いて、店主の顔が引きつっているが、アスナとルナから、お久しぶりですエギルさん、と声をかけられだらしなく顔を緩ませる。
「もうすぐ次のボス戦だからちゃんと生きてるか確認しに来てあげたんじゃない」
「というのが建前で実は」
言い終える前にルナの口を焦った様子でアスナが塞ぐ。
それを見たキリトは首をかしげている。
「どうした?」
「な、なんでもないの。そういえば、何よシェフどうこうって?」
顔を真っ赤にして、ルナを開放しながらアスナはキリトに聞いた
「お、そうだった。お前いま、料理スキルの熟練度どのへん?」
その質問にアスナは不敵な笑みを滲ませた。
「聞いて驚きなさい。先週≪完全習得≫したわ」
「なぬっ!」
その言葉を聞いてキリトは驚いた。
しかし、キリトはアホかっという顔をしている。それを見たルナは苦笑をしている。
「・・・・・・その腕を見込んで頼みがある」
キリトが手招きをして、自分のアイテムウインドウを可視モードにして見せる。それを見たアスナは驚きで目を丸くし、ルナは感心したようにつぶやいた。
「うわっ!!こ・・・これ、S級食材!?」
「おお、よくゲットできたね!」
「取引だ、アスナ。こいつを料理してくれたら一口食わせてやる」
キリトが言い終わる前にアスナがキリトの胸倉をがしっ、と掴みながら口を開いた。
「は・ん・ぶ・ん!!」
思わぬ不意打ちにキリトがドギマギして「あ・・・あぁ、わかった」と了承した時を見計らってルナが茶化しに来た
「なかいいね、お二方?」
それを聞いた途端、アスナとキリトは弾けるように離れる。
それをごまかすかのようにキリトがエギルの顔を見上げて言った。
「悪いな、そんなわけで取引は中止だ」
「いや、それはいいけどよ・・・。なあ、オレたちダチだよな?な?俺にも味見くらい・・・」
「感想文を八百字以内で書いてきてやるよ」
「そ、そりゃあないだろう」
この世の終わりという表情をしているエギルにつれなく背を向け歩き出そうとした途端、キリトのコートの袖をアスナがつかみ聞いた。
「でも、どこで料理するつもりなの?」
「あ・・・・」
忘れていたかのように呟くキリト、どうやら当てがないようである。
それを察したのかアスナが呆れながらキリトに提案を持ちかけた。
「どうせ君の部屋にはろくな道具もないんでしょ。今回だけ、食材に免じて私の部屋を提供してあげなくはないんだけど・・・」
サラリととんでもないことを提案するアスナだが、その表情はすぐれなく、申し訳なさそうにルナのほうを見ている。
「私のことは気にしなくてもいいよ?」
「で、でも・・・」
アスナの視線に気が付いたルナは気にするなというが、それでもアスナは食い下がってくる。どうやってアスナを説得するか考えていたら、長髪の男が我慢の限界といった感じで叫んだ。
「ア・・・アスナ様!こんなスラムに足をお運びになるだけに留まらず、素性のしれぬやつをご自宅に伴うなどと、と、とんでもない事です!」
それを聞いた途端、ルナは額に手を当て溜息を吐き、アスナは相当うんざりした表情で言った。
「このヒトは、素性はともかく腕だけは確かだわ。多分あなたより十はレベルが上よ、クラディール」
「な、何を馬鹿な!私がこのような奴に劣るなど・・・」
男の半分裏返った声が路地に響き渡り、キリトを憎々しげに睨んでいたが、不意に何かを合点したかのように歪んだ
「そうか・・・手前、たしか≪ビーター≫だろう!」
「ああ、そうだ」
男の悪罵をキリが無表情で肯定すると、男はさらに勢いづいて言い募った。
「アスナ様、こいつら自分さえ良きゃいい連中ですよ!こんな奴と関わっているとろくなことが、ぶふぁっ!!」
男が勢いづいて叫んでいると、後ろから蹴り飛ばされ、転がった。ここは犯罪防止コードがある≪圏内≫であるためダメージは受けない。しかし、犯罪防止コードに守られているとはいえ、あれほど転がるとはいったいその蹴りにどれだけの破壊力があるのかは、知らないほうがいいだろう。
入り口には漆黒のコートに身を包んだプレイヤーが佇んでいた。
「入り口をふさぐな。邪魔でしょうがないだろ」
それだけ言い、悪びれた様子もなくそのプレイヤーは店に入る。よほど強く蹴られたのかなかなか起きる気配がない。
「買い取りを頼むよ、エギル」
「お、おう・・・」
いまだ理解が追い付いていない面子を放っておいて、店主であるエギルと交渉に入ろうとする。
そして、蹴られて転がった男が回復し、蹴りつけた張本人にくってかかった。
「き、貴様ぁ!わ、私を栄光ある血盟騎士団の者だと知っての狼藉か!」
「知ってるよ。だからなんだよ」
呆れながら、めんどくさそうにクラディールに言う蹴り飛ばした犯人。
それがクラディールの怒りを増長させ再び突っかかろうとしたがやっと理解が追い付いたのか、回復しアスナとルナの声が響いた
「いい加減にしなさい!ともかく今日はこれで帰りなさい。副団長として命令します」
「ここでこれ以上問題を起こすようなら何かしらの処分が下るよ?」
その言葉を聞き、護衛の二人はその場を去って行った。もっとも、クラディールはまだ何か言いたそうだったが護衛のもう一人に引きずられ帰って行った。
「苦労してんな、二人とも」
「いや、原因の半分はあなたにあるのよ、ソレイユ?」
ねぎらい?の言葉をかける蹴りを放ったプレイヤー、ソレイユに軽く注意をするルナ。その顔には苦笑いを浮かべている。そこへキリトがそのプレイヤーに声をかけた。
「よっ、ソレイユ。久しぶりだな」
「よお、キリト君。久しぶり。でも珍しいな、KoBとつるむとか」
「い、いや、ちょっとわけありで」
「ふぅ~ん。わけあり、ね」
ソレイユの探るような瞳をうけ、キリトはたじろいだ。
そこへルナが補足を入れる。
「≪ラグー・ラビットの肉≫っていう、S級食材を手に入れたから、これからアスナと二人っきりで食べるらしいよ」
「ち、ちょっと、ルナ!!」
二人っきりという言葉を強調して言うルナの言葉を聞いたアスナが顔を真っ赤にして焦ったようにルナにつかみかかる。しかし、ルナは持ち前の華麗かつ見事な体さばきでそれをよけている。
「なるほど、これから夜のデートですか」
「いや、待て、違うぞ!絶対何か誤解してるだろ!!」
妙に納得がいった、というようなソレイユに焦りながら誤解を解こうとする。
それを聞いたソレイユは妙案を思いついたような表情でキリトに言った。
「ほう、誤解か」
「そ、そうなんだ、決してやましいことなんか考えてないからな」
「ふーん、そうか。なら、俺とルナが一緒について行ってもいいんだな?」
「あ、当たり前だろ。そんくらい・・・へっ?」
ソレイユの言葉を聞き呆然とするキリト。それはアスナも同じでルナにつかみかかろうとする格好で固まっている。対してルナはソレイユの言わんとすることが何となく察しがついたため、驚いた様子もない。
ソレイユはアイテムウインドウを可視モードにし、キリトたちに見えるようにアイテム欄の一部を見せた。そこにはS級食材と思われるものがいくつも並んでいた。
「・・・・・なぁ、なんでこんなにあるんだ?」
「ん~、秘密」
再び呆然とするキリト。それとは別のところでつかみかかろうとした手を休めアスナがルナに聞いていた。
「ね、ねぇルナ。彼っていつもああなの?」
「ん~、そんなことないよ?」
アスナの問いに答えるルナではあるが、その返答はなぜか疑問形であった。
「まぁ、なんにせよ。今日はこの四人でささやかなパーティーといきましょうか」
そのソレイユの声で我へとかえるキリトとアスナ。いざ、パーティーへ、と思った矢先にエギルから待ったがかかった。
「な、なあソレイユ。オレにもな?な?」
「ん~、悪いなエギル。今回は無理だ」
その言葉で、再びこの世の終わりというような表情をしているがソレイユは背を向けキリトに問いかけた。
「で?どこで調理すんの?」
「あ、ああ。アスナの家でってことになってる」
「そうか、じゃあ、アスナ。案内よろしく」
「え、ええ、わかったわ」
アスナがそういうと歩き出し残りの三人もそれについていく。
目指すはアスナのホームがある≪セルムブルグ≫。
後書き
という訳で二話目を投稿させていただきました。
今回はクラディールさんの扱いが不憫でした。←しかたないよ
さて、ここでオリキャラであるソレイユとルナが登場しました。
この後どうかかわっていくのか、楽しみにしていただければ幸いです。
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