『自分:第1章』
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
『複雑』
病院では、いくつかのテストをして、調べて、会話をして...改善してると判断された。
薬も変わった。
そこまでは良かった。
帰りの車内、自立の話を持ち掛けた際に発狂。
発作になり病院に引き返した。
落ち着いてから帰ってきた。
なるほど。
そっちか。
1人になる恐怖。
追い出されてしまうって強迫観念。
医師に状況説明したら躁鬱が治ったにしてもパニックが発症する確率が高いと。
一緒に暮らす支援者が必要と。
此の人の場合『独りが怖い』そんな気持ちが強くなり過ぎて、『独りの自分』を考えただけでパニックに陥る。
パニックと過呼吸は似てる。
過呼吸では死ねん言うけど零那は呼吸困難から心停止なってる。
生き返ってしもたけど。
自立...零那が職員にそんなこと言わんかったら、此の人はこんなことにはならんかった。
罪悪感。
此の人は外の世界を求めてないんやな...
そんなこと考えもせなんだ。
当たり前のように出たいだろうと...
確かに外の世界は守られてないし怖い。
自分が自分を守るしかない。
うん...怖いよね。
特に、逃げてきてる人は。
でも此の人は違う。
恐怖から抜け出して欲しい。
自立して欲しい。
エゴ?
有り難迷惑?
ヤクザにしても何にしても、四国は逃げ込むのに都合が良い。
四国には流れ者が多い。
組長に聞いたことがある。
やから変なヤクザが多いって。
俺みたいなええ奴で人情派が少ないって。
寮で、お母さんって呼んでる大好きな人も、本州から逃げてきた人。
有名どころの組長の嫁。
ある日、恵ちゃんと一緒に部屋に呼ばれて話してくれた。
『あたし、世に言う極妻なんや。離婚してくれんで逃げてきた。現金無くて何とか作りながら此処まで来た。
旦那が若くて綺麗な女連れてきて目の前でヤリはじめて、それを見さされて女として屈辱で離婚して欲しいって頭下げたら殴られた。
その日から地獄だった。裏表のある人間だったから、皆、そんなん知らんかった。それに、助けて貰う為に巻き込みたくなかったし。
何回も刀を引いた。でもそんな勇気無くて、人生終わらせるのは嫌だったから必死で逃げた。此処に辿り着いて、迎え入れられて安心して泣き崩れた。
逃げては来たけど、いつまでも世話になる気はない。いつかチャント向き合って籍抜いて新たな人生歩むつもり。アンタ達は私が16くらいに産んでたら娘や。可愛くてたまらん。アンタ達に救われた。子供が欲しいと初めて思った。
私はあの家業を継ぐ子供が可哀相で旦那に隠れてピル飲み続けてた。でも、アンタ達みたいに手が掛かってでも、自分に正直に生きる強い子が欲しいって思った。
ありがとね。』
黙って真剣に聞いて泣いてた。
みんなが泣いてた。
なんなん、人生って。
恵ちゃんも零那も過去を聞いて貰った。
みんなが泣きまくった。
それぞれが、それぞれのイタミを抱えて、死にたくて、無理矢理生きてきて、それでも強くなろうと、生きようと足掻いて、なんで『普通』に生かしてくれんかったんやって神を憎む。そもそも神なんかおらんか...
大好きなお母さんが此処を出て普通に暮らしてくれたなら。
何に怯えることもなく安心して暮らしてくれたなら。
そう願うしかない。
離れてしまう日が来るのは淋しい。
けど、幸せを願う。
お互いを知り、深入りすると情が移る。
離れがたくなる。
辛くなる。
自立せなあかんのに。
感情が邪魔する。
そんな馴れ合い的な感情の芽を出さん為に事情を聞かんってルールがあるんかな?
今更そう思っても遅い。
お母さんは寮を空ける日が多くなった。
嫌な予感がする。
職員と一緒に早朝から夜遅く迄。
ふとお母さんが手紙をくれた。
温かい手紙。
ページ上へ戻る