ソードアート・オンライン~黒の剣士と紅き死神~
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アリシゼーション編
第一章•七武侠会議編
集う列候
前書き
長らくお待たせしました〜。
例の如く(?)VRワールドとはかけ離れた話ですが、それは多分今回が最後なので許して下さいm(_ _)m
久しぶりに新ヒロインも登場しますよ〜。
眼前に広がるのは鮮やかな色の鯉が泳ぐ大きな池。
放置されている家の割りには池には必要以上に苔が生えていなく、腰を下ろしている檜の床も新品のように綺麗だ。
この場に参ずるに至り先日、水城蓮が当主を襲名し、水城螢以下三名はそれぞれ継承権を一つ引き上げられた。
よって次期当主候補筆頭となった螢はその池を静かに観ていた。
その池に波紋を作りながら風が押し寄せて来る。多忙によって少し長めになってしまった髪が巻き上げられ宙になびいた。
「……くしゅっ」
「おっと」
少し寒かったのか、下で小さなくしゃみが聞こえた。
胡座をかいて座っているその上には、少女が横になっていた。
彼の膝で眠る細い体と色白の肌、そして長い黒髪の可憐な少女にかけてあったはずの羽織が少しずれていたらしい。起こさないようにそれをかけなおし、頭を優しく撫でる。
気持ち良さそうに目を細めた木綿季から目を移し、再び池を眺め始めた。しかし、一つため息を吐いて後ろの柱の陰に向かって誰何する。
「……何か御用ですか。友紀奈様?」
「はうっ⁉︎」
後ろで人影がビクッと跳ね上がる気配。本気で気づかれていないと思っていたのだろうか。
だとすれば、彼女は相当彼の事を甘く見ている。勿論彼女が螢を甘く見ているという事実は無く、ただ単に彼女が物を知らないだけだ。
……とは言え、それは仕方の無い事。皇と華苑院、藤原、清水、夜門、九条、そして水城からなる七武侠の内、皇だけは唯一『戦力』を持たない慣例で不文律である。それどころか自分の身を守る術すら学ばない徹底した『不戦』を貫く家だからだ。
当主は他六家から自らの盾となり、剣となる者を選んで自らの力とするのだ。
誰何を発してから数秒後、恐る恐るといった様子で出て来たのはとても浮世離れした少女だった。
まず目に付くのは長く、滑らかな髪。床に付いてしまう程長いその長髪が風に揺られている。そして、誰もが認める美麗な顔のその両眼は慌てたように左右に揺れている。
七武侠の一角、皇とは他六家をまとめる盟主の役を担う家でそこは代々女性を当主に据えるのが決まりらしい。
「あの、えっと。そろそろ会議を再開するので……どう致しますか?」
「ああ……もうそんな時間ですか。ありがとうございます」
気持ち良さそうに寝ている木綿季を心苦しく思いつつ起こし、立ち上がる。
俺を呼びに来た『皇 友紀奈』とは上記の決まりにより、俺と同じ18歳でありながら皇の現当主であり、この屋敷の主でもある。
そんな人物がわざわざ俺程度の者を呼びに来る道理は無いのだが、来られてしまったからには行かない訳にはいかない。
「ん……もう時間?」
「うん。どうする?木綿季は別に部屋で待ってても良いんだぞ?」
「大丈夫。ボクも行くよ」
くだらないやり取りをするだけの会議に出ても何も面白くは無いのだろうが、木綿季が出たいと言うなら止めるつもりは無い。
右手を差し出し、木綿季が立つのを手伝うとまだ背後にいた人物を振り返る。
「お待たせしました、友紀奈様。参りましょう」
一時間程前まで緊張感溢れる空気になっていた広間は未だその空気を緩めていなかった。唯一、俺の前を歩く皇の当主が入室した時だけが異なったが、俺と木綿季が入る時にはもう既に中は緊迫していた。
「おう、お帰り螢。どこ行ってたんだよ」
「庭眺めてた」
「やれやれ……俺も少しは息抜きしたかったぜ」
どかっと蓮兄の横に腰を下ろすと円状に座る他の七武侠の面々を見渡す。まず目に付くのは藤原と清水の全権代理の二人だ。
ホークス第一師団隊長、藤原 暁と第二師団副隊長、清水 遊菜。つまり職場の同僚達だ。この二人に関しては『味方』と判断して差し支え無い。事実、目があって笑顔で手が振れる仲だ。
問題は完全に敵対意思を持っている夜門。ここは山東が滅んだ現在、七武侠で最大勢力を誇る家でこの会議を期に七武侠の全てを掌握しようと企んでいるようだ。
そして、今の所中立派である皇、華苑院、九条。いや、盟主としての役割を果たす皇と議長役の華苑院はどうあろうが中立派であろうからこの会議の行方はある意味、九条が握っていると言っても良い。
俺は厳つい顔をした九条の老当主をチラッと見るが、当人は感情の読めない瞳で場を睥睨している。
ところで、何を話しているのかというと、
「それでは再開と行こうかの。水城殿、夜門殿。双方意思に変わりは無いか?」
「無論、夜門に水城如きに従う意思は無い」
「何度も言うけどさ、従えって言ってんじゃねぇんだわ。国賊の山東と戦争するから力貸せって言ってんの。今一番の不安因子の山東を潰す機会は滅多に来ない……聞き分けてくれや」
「断る」
白髪をオールバックに固めた強面の男といかにも軽薄そうな蓮兄の舌戦は要約すると今の感じだ。
午前中はこれで終わった。どうやら午後になろうがあまり変わらないらしい。
まあ、ここで夜門と決別しようがあまり関係無い。まさか山東を討つ邪魔をする筈は無いので水城、藤原、清水の三家で山東とやれば良いだけの話なのだ。
言い争いが不毛に思えて来た俺は別件の事案に思考を巡らすために、意識を切り替えようとした。
「……これ以上の議論は不毛である。相手を従わせたくば、武力で決めよ」
「九条殿……」
最初の挨拶以来、一言も言葉を発していなかった九条の当主が蓮兄を、夜門を見ながらそう切り出した。
「九条殿、それは水城と夜門で戦争しろということかえ?」
「まさか。そのような事になれば冬馬殿の長子を擁する水城の勝利は目に見えておる。我が提案するのは当主同士の決闘よ」
「「…………っ⁉︎」」
確かに、昔は当主もしくは代表者同士の決闘により結論を出した事もあるらしい。しかし、流血騒ぎに敏感になった現代でそれを行うのは問題がある。
何より、水城がそれを受けるのは当主を失うリスクを負うことになり、勢力的には夜門に劣る水城を潰す事になる。
「おい、爺さん」
「黙っとれ。当主は蓮じゃ」
「しかし、お爺様……!」
思わず俺と沙良が先代の当主である冬馬に止めるように言うが、それはばっさりと斬られる。
隠居すれば方針に口を出さないという祖父のやり方をどうこう言うつもりは無いが、それでも蓮兄はまだ若い。
夜門の当主は恐らく50前半で体力こそ劣るだろうが、技量と経験が圧倒的に違う。蓮兄では恐らく初撃で殺られる。
この場にいる者で夜門の当主と対峙し、まともに打ち合えるのは爺さん、親父、華苑院の婆さん、九条当主ぐらいだろう。
俺がこうして考察するまでも無い。この提案が成された瞬間、夜門の当主から殺気ーーー恐らくは舐められたと思ってのものーーーが放たれ、水城以外の一部の席からはそれぞれ種類が違えど張り詰めた何かを感じるようになった。
それが最高潮に達するか否かの時、華苑院の婆さんと友紀奈が手を掲げ、制止した。
「そこまでじゃ。休憩を挟んだばかりと言うのにまだ頭が冷えておらんようだの。時も限られておる。本日はここまで、明日までに全て決定しようぞ」
「皇が命じます。双方一晩よく考え、明日は建設的な議論になるよう備えなさい」
皇まで口を出して来たのなら夜門と言えど黙るしか無い。……当の皇が掲げた手が微妙に震えて無かったらもっと格好がついただろうが。
そうしてこの日はお開きとなった。
予定外に早く息苦しい会議が終わったので、俺と木綿季は私服に着替えると屋敷の門前に出て来ていた。俺は白地のTシャツに黒のロングコートという無個性な服装。木綿季は灰色のセーターに白い外套を羽織り、革のブーツを履いている。
辺境と言えどここは京都。少し時間をかければ賑やかな観光地へと繰り出せる位置なのだ。気分転換にはもってこいである。
しかし、問題は……
「お、お待たせしました!」
「……いえ」
この超絶箱入り娘(by親父)と名高い皇の姫君も一緒という事だ。外出とあって彼女もまたカジュアルな服装をしていた。黒のショルダーシャツと腕を覆う同色のアームウォーマーにピンクのスカート、靴は白地に脛辺りに装飾だと思われるベルトが付いており、本体にはピンクのラインが入っている。髪は背中辺りをゴムでまとめてある。
木綿季は気にしないと言っていたが……若干不満そうにしているのが何となく分かる。
「あの、すみません。せっかくお2人で出掛けるところをお邪魔してしまって……」
「華苑院様には自分も頭が上がりませんから……気にしないで下さい」
華苑院の婆さんは彼女の後見人も務めているらしく、その手前、あまり強い事は言えないようだ。
「あの、水城殿。これから街に出る訳ですが、この言葉使いは少々勝手が悪いです。丁寧な言葉使いは無しで、私の事も友紀奈と呼んで下さい」
「……分かりました。自分の事はご自由に呼んで下さい。……木綿季、ご挨拶」
そうは言っても丁寧な言葉使いが抜けない自分に辟易しつつ、良い機会だと木綿季を紹介しようとする。木綿季はその物怖じしない性格を発揮し、誰よりも早く忠実にその取り決めを実行した。
「ボクは紺野木綿季って言います。木綿季で良いよ!よろしくね、友紀奈!」
「は、はい!よろしくお願いします、木綿季」
一応歳上ではあるので、せめてさん付けぐらいはして欲しかったが、表面上とは言えフランクな関係を望んだのは向こうだ。それに、このストレートさは木綿季のパーソナリティであり、硬い性格をしている友紀奈様や俺にとっては丁度良いのかもしれない。
「じゃあ、行こうか。木綿季、友紀奈」
「うん!」
「はい……!」
ーーーと言う一部始終を眺めていた華苑院は孫の門出を喜ぶ祖母の如く安心したような笑みを浮かべた。
「……婆さん、螢をゆきちゃんの『剣と盾』にする気か?」
「出来ればそうしたいところだがのぉ……坊め、既に伴侶がおったか」
「全くだよ。最近の若者は早熟でついて行けないね」
隣に立つのは水城悠斗。華苑院は彼を見て、少し顔をしかめた。彼が片手に持っていたのは酒。中はもう既に半分ほど減っている。
「仮にも英国貴族が昼間から随分と下品な飲み方してるじゃないか。どうかしたかい?」
「いーや、少し気になるネタが入って来てね。どうしようかなぁ、と考えている内につい……」
「気になるとは?」
「俗世の事だよ。貴女は興味無いだろう?」
「まあの」
しかし、あの水城悠斗が『気になる事』なのだ。少しは関心を持ってしまう事があってもおかしくはない。
そしてまたぶらぶらとその場から歩いて去って行く悠斗の背を見つつ、彼女は瞑目した。
遠き昔、彼女がまだ少女だった頃。気が狂うかと思うほど嗅いだ、懐かしくも忌まわしき匂い。
火薬と金属。腐りかけの肉と乾いた血。その匂いがふと鼻を擽った気がした。
後書き
前書きにも書きましたが、ごめんなさい。VRワールドとか微塵も出てきませんでしたね。
どこ行った原作SAO。どこ行ったキリト先生。
時系列的にはキリトがジョニーに襲撃される2日前ですね。次回はもう少し長めに、螢と木綿季&新ヒロイン友紀奈のデート(?)をお送りする予定です。
描写が下手過ぎて誰も分からなかったと思いますが、友紀奈の容姿のモデルはボーカロイドの「IA」となっております。文章は気にせず、IAの画像を見てイメージを補完しておくと良いでしょう。←コラ
どうでも良い余談ですが、作者は六兆年と一夜物語が好きです。
前章に出て来た藍子さん、アリスと言い、木綿季一筋の筈が何故かハーレム方面になりつつあるこの作品ですが、暖かく見守って下さると嬉しいです。
次回更新はまた日が空いてしまうと思いますが、現在一話から改稿を順次行っているので時間のある方は少し覗いてみて下さい。分かり難かったり、駆け足だった部分を出来るだけ直してあります。良くなったと思ったら再評価してくれると作者は跳ねて喜びます。
それでは……
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