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雲は遠くて

作者:いっぺい
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10章 信也の新(あら)たな恋人 (2)

10章 信也の(あら)たな恋人 (2)

6月8日の土曜日。午後の2時40分ころ。
下北沢駅南口は、人で(にぎ)わっていた。

川口信也(かわぐちしんや)は、南口商店街の入り口の、
左角にある、マクドナルドに(はい)った。

プレミアムローストコーヒーと、ホットアップルパイを、
3つ、注文する。ホットアップルパイは、これから店に来る、
大沢詩織(おおさわしおり)と、岡昇(おかのぼる)のぶんもだ。

いまから、川口は、母校の早瀬田(わせだ)大学の、
1年生の大沢詩織と、同じ大学の1年の、岡昇との、3人で、
大沢詩織の19歳の誕生祝(たんじょういわ)いをする。

何度もメールで、岡昇と、きょうの予定を打ち合わせた。

待ち合わせ場所を、マクドナルドに、
時間も、3時にした。

最初に、フレンチ・カフェ・レストランで、誕生パーティをして、
そのあと、ライブ・レストラン・ビートで、
ひとときを楽しむという予定にした。
どちらの店も、川口の(つと)める、モリカワの、下北沢店だった。

ライブ・レストラン・ビートの、今夜の公演は、
女性・ポップス・シンガーの、白石愛美(しらいしまなみ)と、
ピアニストの松下陽斗(まつしたはると)との、
コラボ(共演)だった。ドラムと女性コーラスも、(はい)る。

白石愛美も、松下陽斗も、現在、20(はたち)で、
モリカワの事業部のひとつ、
モリカワ・ミュージックに所属(しょぞく)していた。

モリカワ・ミュージックでは、全国に展開中のライブハウスや、
一般からのデモテープなどから、新人の発掘や育成をしている。
(あら)たなアーチストを、ミュージック・シーンに、
輩出(はいしゅつ)していく、ビジネスを展開中だった。

そういえば・・・、去年の10月は、おれのマンションに、
美樹(みき)ちゃんと、真央(まお)ちゃんが来て、
3人で、二十(はたち)の誕生会をしようって、
街にくり出したっけ。
あのときも、いまみたいな、ワクワクした感じで、
すべてが、うまくいきそうな気分だった。
楽しかったよなあ・・・。

川口は、好きな、ホットアップルパイを、ほおばった。

今回も、やっぱり、3人なんて。19歳の誕生会だし、
あのときと、同じとはいえないけど、似ているし。

なんか、一抹(いちまつ)の不安かな。
心のどこかに、トラウマ(心理的な後遺症)が
あったりして。

川口は、そんなことを思いながら、にがわらいした。

たとえば、岡が、詩織ちゃんと、ほんとは、
つきあいたかったりして・・・。
そしたら、またしても、三角関係じゃん。

しかし、それだったら、岡が、最初から、
おれと詩織ちゃんの仲がうまくいくように、
世話をすることもないわけだよな。
このさい、岡には、岡の本心を、はっきり、聞いておくか。

岡は、信頼できる、いいやつだから、
岡には、大学内で、詩織ちゃんに、
悪い虫がつかないように、監視してもらえそうだし。
ハハハ。考え出したらきりがない、やめた!

そのとき、「川口さん、おひさしぶりです」と、
岡昇と、大沢詩織が、あらわれた。
ちょうど、3時をまわった時刻だ。

170センチくらいの岡のとなりにいる、
その10センチくらいは低そうな、大沢詩織が、
「川口さん、こんにちは」といって、
微笑(ほほえ)んだ。

肩レースの、白いTシャツと、デニムの、
ハイウェスト・ショートパンツで、詩織はかわいい。

≪つづく≫  
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