雲は遠くて
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7章 臨時・社内会議 (その5)
森川誠の向かい側のテーブルにいる、長男の森川良と、その弟の森川純のふたりが、
一瞬、顔を見合わせて、良が、「おやじ・・・」と小さく、つぶやいたり、
苦笑いして、ふたりとも、うつむいた。
「・・・考えこむのも、たまにはいいものなんです。突然、ひらめきがあったんです。
アイデアがわいたんです。・・・わたしは息子たちにいったんです。
モリカワで、ライブハウスを、東京をはじめとして、全国展開するから、
モリカワに入社して、仕事してみないかってね。
息子たちは、親の七光りとか、嫌いだとかいって、親の会社に入社することには、
ずーっと、抵抗していたんです。
ジェームス・ディーンの『理由なき反抗』って感じかって、私は思ってました」
といって社長は、わらった。会場も、静かな、わらいに、どよめいた。
「まあ、わたしには、そのとき、すでに、ライブハウスなどの、
芸術・文化の事業の全国展開というアイデアが、浮かんでいました。
それが、現在のように、ここまで、的中して、うまくいくとは思っていませんでした。
最近じゃあ、このまま、この事業展開がうまくいけば、株式上場して、
世界への事業展開もいいのかな、くらいに考えているんです。ですから・・・、
みなさんも、夢をもって、仕事に励んでいただきたいものです。以上です」
そういって、森川誠は、また、腹から声を出してわらった。
「社長、副社長、お話をありがとうございました。
それでは、みなさまからの、ご意見など、
ほかにありますでしょうか」
市川真帆が魅惑的な笑みで、みんなを見わたしていった。
「あのぅ、ちょっと、意見があります」と、統括・シェフ(料理長)の
宮田俊介が、ちょっと挙手した。
今年で、35歳になる宮田俊介は、腕のいい、若手シェフだった。
今年、25歳になる、副統括・シェフの北沢奏人の、よき師匠であった。
「立川のパン工房の店長や、そのほかの店舗からも、
『どうしたら、製造作業の、ミス(あやまり)やロス(損失)を無くせるでしょうか?』
と、相談を受けています。
わたくしの経験からいえば、料理をつくるとき、ミスやロスを防止するため、
必ず『OK(オーケイ)』と無言で、自分に確認するようにしているんです。
奏人にも、それは実践してもらっているんですけど、
確実に、その方法には、ミスやロスを防ぐ効果があるんです。
そこで、その『OK(オーケイ)』とか『よし』でもいいんですが、
無言の確認を、全社的に、実施しては、どうかと思うんですけど。
いかがなものでしょうか・・・」
そういうと、宮田俊介は、向かいのテーブルの、社長や副社長を、
ひかえめに見ると、しずかにちょっと微笑んだ。
「それは、いいアイデアですね。ミスやロスを防止する
方法として、なにも対策もしないで、ただ、『注意してする』
だけより、『OK(オーケイ)』と無言でもいいから、
確認したほうがいいでしょう。
さすが、名シェフの俊介さんだ。ありがとう。
さっそく、このアイデアは、全社的に、実践しましょう」
そういって、社長の森川誠は、満面の笑みで、
上機嫌で、大きな声でわらった。
「そうそう、岩崎さん、農業・事業部の、IT(アイティ)化計画は、順調かね。
農作物のデータを数値化や、パソコンでの管理で、効率のいい農業の
実現ができるからね。わが社の利益・創出の生命線ですからね」
森川誠が、向かいのテーブルの、コンサルティング・ファーム・部長の
岩崎健太に、そういった。
今年で37歳になる岩崎健太は、IT(アイティ)技術者でもあり、
モリカワのウェブ・アプリケーションをつくったりする、IT部門のリーダーだった。
「ええ、順調です。できるだけ、パソコンで管理できるシステムを、
導入してゆきます。そうすれば、おいしい野菜や果物を、量産して、
コストダウン(原価低減)もできます」と岩崎はいった。
「岩崎さんも、アイデアの天才っぽい人ですからね。モリカワは優れた
人たちに、本当に恵まれています。みんなで、がんばりましょう」
森川誠が、そんな言葉をのべて、会議は終了した。
≪つづく≫
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