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戦国異伝

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第百七十三話 信行の疑念その十一

「では今からな」
「はい、二人で飲みましょうぞ」
「やはり酒はよい」
 笑って言う天海だった。
「特に我等の酒はな」
「はい、我等の血族の酒は」
 それはというのだ。
「よいですな」
「ではそれを飲みな」
「はい、そのうえで」
「楽しもうぞ」
 こう話してだった、そのうえで。
 二人は今度は酒を楽しんだ、義昭からの酒の勧めは断ったが彼等は彼等だけで酒を楽しむのだった。彼等の酒を。
 松永は柴田達と共に加賀に向かっていた、だが。
 誰も彼に声をかけない、今は羽柴もだった。
 先に先にと急いでいる、そのうえで秀長に言うのだった。
「まずは北ノ庄に入ってじゃな」
「はい、左様です」
「そのうえでな」
 秀長と蜂須賀が彼に答える。
「五万の兵と共にです」
「加賀に入るのじゃ」
「そうじゃな。上杉か」
 謙信についてもだ、羽柴は言う。
「どれだけ強いかじゃな」
「あの武田が危うく負けたのじゃぞ」
 このことからだ、蜂須賀は顔を強張らせて言った。
「相当なものに決まっておるわ」
「そうじゃな。我等は五万じゃな」
 羽柴は蜂須賀の言葉を受けながら彼等の兵の数を自分でも言った。
「五万あれば普通は大きいが」
「相手が相手です」
 今度は秀長が言ってきた。
「ですから」
「油断出来ぬどころではないか」
「何とかここはな」
 ここでだ、彼等の総大将を務める柴田が馬を急がせつつ羽柴達に言ってきた。
「手取川は渡る」
「そうされますか」
「そして川の両岸は確保したい」
「つまり上杉を渡らせぬと」
「若し川の岸の片方でも押さえられればな」
 この場合は川の北の岸になる、加賀の北の方だ。
「後は渡れぬぞ」
「加賀の北を上杉に明け渡すことになると」
「出来れば加賀の全てを掌握してじゃ」
 柴田は真剣な面持ちで羽柴達に話していく。
「後で金沢辺りに城を築き」
「そしてですな」
「そこを上杉への新たな付城として、ですな」
「加賀全土を治める足がかりとする」
「殿はそう考えておられる」
 だからだというのだ。
「手取川は押さえておきたい、殿が来られる前に
「ですが権六殿」
 ここで蜂須賀が彼に言ってきた。
「それはかなり厄介かと」
「川を渡ればな」
「はい、川を挟めば川が我等の守りとなります」
 敵が川を渡ってくればそこを攻めればいい、川は守りにあたってはこの上ない盾となるものだ。だが、なのだ。
 川を渡って後ろにそれを置いて戦う、それはというと。
「前に上杉、後ろに川では」
「退くことは出来ぬな」
「はい」
 蜂須賀が言うのはこのことだった。 
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