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DOG DAYS 記憶喪失の異世界人

作者:blueocean
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第7章 グラナ砦攻防戦

戦地への移動。にも関わらず移動中の全兵士はちょっとしたピクニック気分になっていた。
空は晴天。
気持ちのよい日差しが俺達を包むので仕方がないと言えば仕方がないのかもしれない。

「はむはむ」
「………美味しいかアリシア?」
「美味………」

俺の前にだっこされながらパンを食べるアリシア。
本当は戦場なんかに連れていきたくなかったが、本人がどうしても行きたいと聞かないので連れていくことにした。
………まあそれだけでは決してない。一番の理由は、

「私もアンネ、助ける………!」

そう力強く答えたからだ。
感情があまり表にでないアリシアにとってかなり珍しい出来事に一緒にその場にいたレオも驚いていた程だ。

そして真っ直ぐな瞳に俺もレオも反論出来なかった。

「アリシア、くれぐれもくれぐれも!!もし1人で敵と遭遇したら渡した白旗を振れよ。そうすれば医療班が回収に来てくれるから」

「うん、分かってる………」

と言いながらパンを食べるアリシア。
本当に分かっているのだろうか………?

「ねえ、今回の戦場ってって守護力が弱めな場所だったよね?」
「そうやなぁ、そんな話を聞いたような………」
「じゃあ、魔物さんも出るんですかね~?」
「「魔物!?」」

と話しているのは俺達の隣を進軍しているジェノワーズの3人。

「まあ最近目撃情報も多いし出るかもしれんな」
「「「ええ………」」」

「何だ怖いのか、情けない………」

はぁ………と溜め息を吐くその隣のゴドウィン。

「お前達は親衛隊であろうが!!魔物ごときにびびってどうする!!」
「だけどなぁ………」
「獰猛な牙、簡単に人を切り裂く爪、常人じゃありえないスピード。どんな相手か分からない」
「そうですぅ~やっぱり怖いですぅ~」

「貴様らな………」

「………で、実際はどんな奴だレイジ?」

そして、俺達より少し前にいたガウルが、自分の乗っているセルクルのスピードを落とし、聞いてきた。

「えっと………大きな翼と爪を持った魔物で、攻撃力は凄まじかった。あっ、それと炎を吐いてきたぞ」
「へぇ………」

「「「………」」」

「どうした、ダメっ子?」
「何でレイジそんな詳しいんや………?」
「何でって………この前戦って退けたから」
「………本当?」
「いや、嘘じゃないってノワール。だからそんな疑う眼差しで見るな………」
「だったら私達でも余裕ですねぇ~」
「えっ、何でそういう結論になるんだ!?」
「そやなぁ………新参者で私らのパシリ君が倒せるんなら案外弱いんやなぁ………」
「ジョーヌ、そこまで言うなら今度、訓練相手してくれるよな………?」
「サーセン!!」
「コイツ………!!」

今度絶対にシメる………

「レイ、あれ………」

そんな事を話してるとふとアリシアが道の先を指差した。

「ああ、今度の戦場はあそこだな」

そこには前よりも広大なチャパル湖沼地帯にあったアスレチックが見えたのだった………










「おお~」
「アリシア余裕だな………って!!」

向かってきた敵兵士に魔神剣を飛ばし、跳ね返した。
セルクルに乗りながらでの戦闘なのでやりにくいが何とか向かってきている兵士達は撃退出来ている。

「面白いね………!!」
「何でそんな反応出来るかな………?」

肝が座ってるというか何というか………

「アリシア、お前将来大物になれるぞ………」
「?」







さて、そんな事を話しながら順調にアスレチックを超えていた俺達。
俺の乗ってるクリクリ目のセルクルも素直に俺の思ったとおりの動きをしてくれてかなり助かっている。

「邪魔だ!!」

向かってきた矢を斬り落としながら進んでいる。敵将には未だに会っていないので助かっている。
なのだが………

「うおっ!?」

いきなり飛んできた矢にかろうじて身を仰け反り躱すことが出来た。

「何だ!?」
「流石でござるね、拙者の矢を躱すとは………」
「おっぱい大きい………」
「ああ、確かに………ってアリシアさん!?」

ユキカゼの第一印象はやっぱり胸だったな………

「おろ?何で子供まで戦場に………?」
「まあこれには色々ありまして………」

ってかまさかのユキカゼさんか………
ダルキアン卿と同じくかなりの実力者だろうに………

「それはそれとして、子供を巻き込むのは拙者も気が気で無いでござる。………はっ!?まさか子供を使って本陣にと………」
「流石にそんな事は………」

でもあれ?この状況みたらそうにしか見えない。
もしかして敵の抵抗が前よりも弱いのはその影響で………?

「アリシア、援護する………」
「あれ?その手に持っている石は一体どこから………?」
「拾って持ってきた」
「だからそのポシェット重かったのか………!!」

謎が解けたぜ!!

「………何かやる気が削ぎれるでござる」
「だったら通してくれない?負けるわけには行かなくてさ、レオの為にも」
「………それは拙者も同じ。これ以上ミルヒ姫の悲しい顔を見ていられないでござる。だからこそ………」
「?何を言おうとした?」
「いいや、これ以上は言えぬでござるよ。聞きたければ力づくで来れば良いでござる」
「よし!!ならどんな手を使ってでも聞き出さなきゃな!!燃えるぜ………!!」
「レイ、何か顔がいやらしい………」
「お、お手柔らかに頼むでござるよ………」

そこで話は終わり、俺はセルクルから降りた。
アリシアはそのまま乗せたままである。

「セルクル頼むな」
「クル~」

いい加減何か名前を付けてあげたほうがいい気がする。
セルクルだから………セルル?クルル?う~ん………

「………いい加減良いでござるか?」
「おっと、すまんすまん………」

どうやらユキカゼを待たせてしまったようだ。

「では、いざ尋常に………」
「勝負!!」

そして俺とユキカゼの対決が始まった………







「上手く潜入出来たわね………」

その頃、敵本陣に直接潜入したビオレ率いる『近衛戦士団』を連れ、直接敵本陣にやって来ていた。

「ビオレ様、間もなく、ミルヒ姫のいる部屋かと………」
「そうですね、皆、気を引き締めて………」

「その必用は無いですよ」
「!?」

気がついた時には時すでに遅く、ビオレ率いる近衛騎士団はビスコッティの武装したメイド部隊に囲まれていた。
そこに、部屋からミルヒオーレがやって来る。

「何故!?」
「………まさかとは思ってましたが、予想通りになりましたねリコッタ」
「まさか!?」
「ええ、その通り私は姫様では無いのです!」

バッ!!っと服を一気に脱いだミルヒ、その中から栗色の少女が現れた。

「まさか!!あなたはリコッタ様!?」
「はい!!術と変装の練習したかいがあったです!!」
「じゃあミルヒ姫は………」
「単独で直接グラナ浮遊砦へ向かいました、聖剣を持って………」
「何て無茶を………」
「姫様の願いでしたから………直接レオ閣下とお話がしたいと………」
「予想外でした………」

自分の不甲斐なさからか、唇を噛むビオレ。

「済みませんが大人しくしてもらいます。そして出来れば今回の戦争の意図をお教え願いますか?」
「………」








「流石レイジ殿!!中々手強い!!」
「よく言う!!まだ本気でやってないくせに………!!」

ユキカゼは忍者とあってかなりやりづらい。
不規則な攻撃に、細く素早いスピード。まだ紋章術は使っていないが、それでも辛い状況だ。
それになにより………




(乳揺れが凄い!!)

ここまで来ると流石にこっちも恥ずかしくなってくる。
せめて揺れない様にサラシでも巻いてくれ!!

「レイ~黒猫さんから連絡………」
「何!?今戦闘中だ!!後に………」
「えっと………ミルヒ姫は砦にいないって………単独でグラナ浮遊砦に向かってるって」
「なるほど………ってえっ!?」

マジで!?

「よそ見はいけないでござるよ!!」
「ぐうっ!?」

そんな一瞬の隙を突かれ、腹にユキカゼの蹴りが入った。

「くそっ………!?」
「畳み掛けるでござる!!」

そんな連撃を食らいそうになった瞬間だった。

「ぎゃあああああああああ!!」

いきなり叫び声が戦場に響いた。

「何だ!?」
「!?これは………!!」

「グオオオオオオオオオ!!」

大きな唸り声と共に俺達の前に大きな翼を持った魔物が降りてきた。
二本足で降り立ち、牛の頭をした魔物は手に先がフォークの様な槍を持っていた。

「セイケンヲモツモノハドコニイル………」
「また聖剣を………」
「レイ!!」

珍しく大きな声を上げたアリシアに名前を呼ばれ、そっちを向くと………

「アンネ………!!」

同じ様な魔物に乗ったアンネがグラナ浮遊砦に向かって飛んでいた。

「セルクル!!」
「クル~!!」

名前を呼ぶと直ぐ様俺の所に来た。

「行くぞ!!」
「クル~!!」
「レイジ殿!?待っ………!?」
「イカセナイ………セイケンハドコダ!!」
「………やれやれ、先ずは彼らより、戦場を混乱させている魔物を何とかしなければいかんでござるな………」

そう呟きながらユキカゼを持っていた小刀を構えたのだった………






「殿下大丈夫ですか!?」
「ああ、問題無い!!来るぞ!!」

向かってきた魔物の攻撃を左右に散開するように避け、すかさず挟撃した。

「私らも続くで!!」
「うん!!」

それに続き、ノワールとジョーヌも続いた。

「グウゥ………!?」
「ベール、行けー!!」
「行きまーす!!フラッシュアローズコンセントレイト、ファイヤ~!!」

無数の光の矢を怯んだ魔物の頭に集中的に放ち、全て命中させた。

「グアアアアアアア!!!」

食らった魔物は断末魔の叫びを上げ、そのまま倒れ込み………

「なっ!?」
「このけものだまは我らの民の………」

ネコ耳のけものだまが現れたのだった。

「これは………」
「もしかしたら今いる魔物は俺達、ガレットの民が何らかの手段で魔物にされたんじゃないか………?」
「ならば、殿下………!!」
「ああ!!俺達は戦よりも魔物になった民を救出するのを優先する!!行くぞ、みんな!!」
「ハッ!!」

「またあんな化物と………」
「やるしかない、みんないるし平気」
「そうです~またみんなで力を合わせましょう~」

こうしてガウル達は次の魔物の所へと向かった………









「流石だなロラン」
「いやいや、バナードも鈍ってない様で安心した」

チャパル沼湖地点のちょうど中心辺り、互いの騎士団長が協力して魔物と戦っていた。
………と言っても既に戦闘は終わっており、互いに健闘を称え合っている所だが。

「しかしダルキアン卿の強さは相変わらずか………」
「あの大きな魔物相手に1人で倒してしまうのだからな………」

2人の言うとおり、その場には地面に伏せた魔物がおり、周りの兵から惜しみない歓声を得ている。

「しかしまだ魔物はいるみたいだな………」
「ああ、ここは………」
「協力して掃討するとするか!!」

再び、幼馴染にして両国の騎士団長が協力して魔物退治に向かうのだった………






「エクレ、大丈夫?」
「これくらい平気だ!!」
「なら安心だ。………だけど戦場は大丈夫かな………?」
「大丈夫だ、あっちには兄上もいるし、魔物退治のエキスパートのダルキアン卿にユキカゼもいるんだ」
「まあ確かに………なら僕達は!!」
「守備隊を倒してレオ閣下の所へ!!」

「………その前に」

そんな2人に大きな魔物と一人の女性が地面に降りた。
先ほど、レイジとアリシアが見たアンネ本人だ。

「誰………?」
「神剣パラディオン、見つけた………先ずはその神剣を頂きます。グロリオサ、セットアップ」
「セットアップ………?」

そう唱えた瞬間、アンネは光に包まれ、黒い漆黒のローブに包まれた。そして自身の身長ほどある杖を持っている。

「何よそれ………」
「私も初めて使うから手加減出来ないわ。怪我をしたくなかったら聖剣を置いていきなさい………」
「………何で聖剣を狙ってるのか分からないけど、これは姫様から受け取った大事な物、渡す訳にはいかない!!」
「なら、力づくでもらうわ………フォトンランサーファイヤ!!」

槍の様な魔力弾が真っ直ぐ2人に向かって発射されたのだった………









「レイ!!」
「ああ、居た!!」

セルクルの全速力のおかげで結構速くグラナ砦に着くことが出来た。
しかし既にアンネは砦に降りており、そこには勇者と近衛隊長も居た。

手加減していたとはいえ、レオに勝った2人だ。簡単には遅れを取らないと思うが………

「狙いが聖剣だとしたら勇者は危ない………!!頑張ってくれ!!」
「クル………!!」

既にヘトヘトだろうが、頑張ってスピードを上げてくれるセルクル。

「ありがとう………見えた!!」

しかし状況は最悪のようだった。
地に片膝を付いている勇者。近衛隊長の女の子は完全に倒れ込んでいる。

「セルクル、そのまま走ってくれ!!」

間に合ってくれ!!







「くっ………」
「こんなものかこの時代の勇者は………」

何なんだ一体………
紋章術とは違う技にシールドを張っても色んな角度から絶え間なく続く攻撃に耐え切れない。
エクレもさっき食らった攻撃の所為で気絶している。
完全に追い込まれた………だけど!!

「………まだだ………まだ!!このパラディオンは絶対に渡せない!!」
「そう………なら止めを刺させてもらうわ。覚悟しなさい!!」
「ぐぅっ!?」

黄色い輪に拘束され、身動きが取れなくなるシンク。

「終わりよ、サンダーレイジ!!」

シンクに向かって雷の稲妻が落ちたのだった………









「………間に合ったか」

稲妻はシンクには落ちなかった。
何とかギリギリ間に合ったレイジが剣を突き出し、それを避雷針変わりに受けっきったのだ。
それにプラスして………

「雷を吸った………?この飯綱、何て剣なんだ………」

だけどこれなら雷の斬撃も放てるかもしれない。
だがその前に………

「アンネローゼ………」
「………」
「………やっぱり来たか」
「………当たり前よ。私はこの時をずっと待ってたの。4つの聖剣を使い、そのエネルギーとジュエルシードの力を使い、過去を変える。そのために今、私はここにいる」
「過去を……変える………?」

イマイチ状況が理解出来ないシンク。アンネローゼが何をしようとしているのかを聞いてもピンとこなかった。

「アンネローゼ、止めてくれ」
「止めないわ、もう打てる手は使い果たした。今回諦めたら次はいつ来るか分からない。絶対に成功させるの!!」
「アンネ駄目。この世界の人達良い人ばかり………」
「だから何!?魔族には滅びてあなた逹は幸せになれっての!?いい加減にして!!もうそんな理不尽うんざりよ!!!」

「アンネローゼ!!」
「もういい、あなた逹も消してやる!!」

グラナ砦前、記憶を失って初めての魔法戦が始まろうとしていた………  
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