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魔法薬を好きなように

作者:黒昼白夜
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第6話 1つの終わりと2つの始まりと

夜の『ヴィストリの広場』で

「そうねぇ。なんでこんなところに、二人がいるのか聞きたいわね!」

って、なんでルイズがいるんだよ。俺がサイトの方を向くと、サイトは首を横に振って、俺知らないってアピールしている。これは、サイトが剣をもって部屋を出たところを見られたんだな。

「ふぅ。いや、なに。ギーシュに勝ったり、フーケを捕まえたサイトの剣の腕前をみせてもらいたくて、手合せをお願いしていたんだよ」

「決闘は禁止よ。ギーシュとサイトの決闘から、魔法学院内ではメイジ同士だけでなく、メイジと平民の決闘も禁止よ!」

「だから、決闘ではなくて、手合せで……」

「決闘と手合せってどこが違うのよ!」

「今回だと、サイトの剣と俺の軍杖で戦いあっている最中に、魔法を詠唱して……」

「だから、お互いに戦うのでしょ! そんなの決闘と一緒でしょ! 禁止よ!」

こりゃ、だめだな。ただでさえプライドの高いトリステイン女性貴族だが、その中でもルイズはその体現者みたいなものだと、教室で他の生徒と言い争いになっているのを見ることもあり感じている。彼女が、こう言い放ったら、説得するだけでも、時間がかかるだろう。ここであきらめると、サイトの剣の腕前を見ることもなかろうが、ヴァリエール家の三女に逆らってまで見たいものでもない。

「サイト、無理を言ったようで悪かったな」

「いや、そんなことは……」

「サイト!!」

「はい、なんでもありません。ルイズ」

「それでは、今後はこのようなことは無いように肝に銘じておきますよ。ルイズ」

「あたりまえよ!」

俺は、それを聞いてから軽くあいさつをしてその場を立ち去り、部屋に戻った。うーん、今後の魔法学院での楽しみで、実験だけっていうのもなあ。思案のしどころであった。



翌朝、モンモランシーに、前の晩のサイトとルイズの件は、ルイズから何か言われるかもしれないので伝えておいた。詳しくは授業後ということで。
特にルイズから、モンモランシーに対して言ってくることはなかったので、ひと安心だ。

授業後のモンモランシーには、あらためて昨晩にいたった経緯を話したところ、

「なんで、そこでやめたのよ!」

「これでも、元魔法衛士隊の騎士見習いだぜ。サイトに勝てる自信はある。そして回復力に問題がなければ、俺に確実に勝てると自信をもって戦える魔法衛士隊隊員は、片手の指に満たないしな。つまり魔法衛士隊の中では二番手グループぐらいの実力だったってところだ。精神力が最大の時にはね」

「えっ? あなたそんなに強かったの?」

「おーい。使い魔として召喚された最初のころ話したのに、何を聞いていたんだよ」

「本当だって思わなくて……けど、そういえば、貴方の戦いでの実力を見たことは無かったわよね?」

「とはいっても、この魔法学院で相手になるったら、どれだけいるのやら。フーケから宝である杖を、先生がついていかなかった時点で、いくらスクウェアであろうと、実際の戦闘では役に立つ自信が、ここの教師にはないのだろう。噂では3年生のベリッソンというのが、一番強いらしいけど、見てみないことにはわからないしなぁ。2年生ではトライアングルであり、なおかつ身体の動きに隙がほとんど見当たらない、風がつかえるタバサかな。1年生は、はっきりいって噂話が聞こえてこないので目立つ奴はいないのだろう」

「あら、キュルケは?」

「杖が短いので長期戦に持ち込んだら、お互いに精神力切れをおこしやすいのはキュルケだし、万が一同じタイミングで精神力が切れたとしても、普通の杖と軍杖の差で確実に勝てるよ。それよりも、俺にとって脅威になるのかもしれないのは、ルイズだな」

「えっ! あの『ゼロ』のルイズが」

「その『ゼロ』の二つ名は、意図した魔法がほとんど成功しないことからきたものだろう?」

「そうね」

「俺がみかげた範囲の限りだが、魔法の詠唱で爆発をおこす確率は10割だ。あれを攻撃として使われるとやっかいだな。下手をすると一発で気絶させられる」

「嘘でしょう……」

「あくまで偶然程度の確率だよ。あの爆発の位置が厳密によみとれないので、身体のさばきでは、防ぎようがないんだよ。だから、短いルーンですむようなもので攻撃された時に、動いたところで偶然爆発にまきこまれるかもしれない。人を殺すような爆発ではないみたいだが、気絶させられたらおしまいだからな」

「……ふーん、貴方のルイズの評価って高いのね」

「いや、普通に詠唱しようとしているのに一生懸命みたいだから、誰かがそんな知恵でもつけない限りは、ルイズも魔法の効果として発現する爆発を、そんな風に使おうとは思わないだろうから、言わなければ良いだけだろう」

「それにしても、しゃくにさわるわね」

「実際問題として、魔法学院の生徒たちと戦うこともないだろうから、あくまで仮定だよ。それよりも、あの水中に生えていた薬草って、どんなのに使えそうか、わかりそうとか言ってなかったかい?」

「そうそう、あの薬草。けっこう掘り出し物よ」

「どんな風に?」

「主に水系統のメイジにとって、魔法の力を強くする魔法薬になりそうなのよ」

「おや。さすが、水の名門のモンモランシ家だな。どんな風に調合するんだい」

「調合はそんなに難しくはないけれど、問題は使い方よね」

「使い方?」

「そう。自分の周辺にふりまく必要があるのよ」

「おやおや。戦闘では移動することが多いから使いづらいな。おもに拠点防御とか、戦闘以外だと、治療とかかな」

「魔法薬を作るときに、精神力の節約だったり、今よりも精神力が必要な魔法薬を作れるわよ」

そして、その日は夕食前まで、この新しくわかった魔法薬のことについて、話し合ったり、実験の準備をしていた。



部屋にもどって、朝おいておいたテーブルの上の小瓶がなくなったことに気が付いた。

「1人目が、まずは使うことにきめたか」

俺はテーブルの上においておいた、紙に日付と署名が入っているのを確認した。

「何人集まるかだな」

そう一人つぶやいていた。



学生寮の各部屋には、学年毎に決まったメイドが出はいりする。
これは、各生徒の性格などにあわせて、部屋のベッドメイクや掃除などをする必要があるからだ。たとえば、水系統の生徒においても自室に実験用具を置く者もいるし、置かない者もいる。その実験用具をさわって、掃除を自由にさせるものと、触ることを許さない者もいるからだ。
俺は、自室に作ったガラスの実験部屋の中は、普段は掃除をしないようにと指示をだしている。掃除をして良いときは、実験部屋のガラスドアが開いていてなおかつ、ガラスのコップなどで蓋が閉じてある場合のみだが、実験部屋の掃除は、多分、夏休み前になるだろう。

ちなみに俺がテーブルの上に用意してあった小瓶は、便秘薬だ。この魔法学院のメイドが、いくら働く量が普通の貴族のところのメイドより多いからといっても、便秘の者はやはりそれなりに多くいたようだ。
ただし、便秘薬を持っていくための条件を書いてあったから、もう少し悩むかと思ったのだが、便秘解消の魅力にはかなわなかったかな。



それから、1週間後。夕食後に俺は自室にもどって準備がしてあるのを見届けた。
珍しい体質の娘が混ざっていたなと思いつつ、実際には待っているのも暇なので、実験部屋の中で臭いが発生しないタイプの実験をしていた。

そのうちに、ドアからノックされた音がしたので

「鍵は開いているよ」

そう声をかけながら実験部屋からでると、3人の女性というよりは少女が私服姿で入ってきた。

「いや、よく来てくれたね。歓迎するよ」

「えーと、本当にこんなにしてもらってよいのですか?」

「きちんと条件は書いてあっただろう。その通りだから。まずはテーブルの椅子に腰かけてくれないかな」

俺もテーブルの椅子につきながら、珍しい体質だと思ったことを聞いた。

「ジュースが1本まざっているけれど、誰かワインに弱い娘でもいるのかな?」

「はい。私です」

「えーと、名前は?」

「クララです」

答えたのは、髪色は金髪で、長さは肩までにしている少女だ。俺はあらかじめ用意しておいたノートにペンで書いていく。まあ、カルテのかわりだなぁ。

「こんなことまで、ノートに書くのですか?」

「ああ、各人の特徴によって、便秘薬の利き方が違うからね。水代わりにワインを飲む量が少ない人の方なんだけど、普通は便秘薬の効き目が弱いので、便秘薬を飲む量を増やしてもらうとか、したりする場合もあるんだよ」

「そうなんですか」

「残りの二人は、フラヴィと、ローラだろうけど、どっちらがフラヴィかな?」

「私がフラヴィです」

同じく金髪だが、後ろで髪を結っているポニーテールだな。

「そうしたら、残りの貴女はローラだね」

「はい」

灰色の髪の毛か。

「じゃあ、明日早番の娘はいるかな?」

そうすると「はい」と答えたのはフラヴィだ。

「まあ、まずは、カンパイでもしよう」

「本当にですか?」

「せっかく持ってきたのだからもったいないだろう。それに、こういう普段から飲んでいるワインよりも高級なワインは、便秘薬との相性が良いから、明日はさらにすっきりできると思うよ」

まあ、高級なワインほどアルコールの量が多くなるから、その効果なんだけどな。

「それなら、遠慮なく」

ワインが飲める二人をちょっとうらやましげにして見ているのは、ジュースを飲むクララだが、それぞれコルクを抜いてグラスにワインやジュースをついでいる。それが終わったところで、

「じゃあ、皆の今後のために乾杯」

と俺があいさつをして、最初の一口を皆がつけた。
さて、このあと3人が部屋から出るまで条件として書いておいたのは、残り1時間弱だな、っと時計をみる俺だった。
 
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