| 携帯サイト  | 感想  | レビュー  | 縦書きで読む [PDF/明朝]版 / [PDF/ゴシック]版 | 全話表示 | 挿絵表示しない | 誤字脱字報告する | 誤字脱字報告一覧 | 

歳の差なんて

しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。 ページ下へ移動
 

第四章


第四章

「まあないわね、戦争やってるんじゃないですし」
「ええ」
「それか悪の組織が出て来るわけでもなし」
「特撮めいたところはありますね、どちらも」
「全くよ。本当におかしいって言ったらおかしいわね」
 おばさんはまた言う。
「そういうところがね」
「ですよね。だから自然なのがいいです」
「わかったわ。まあ待つことね」
「はい」
 このことはもう言うまでもなかった。やはり出会いは偶然や運といった要素が大きいのだった。このことは美香も極端ではないがわかっているのだ。
「それじゃあ。とりあえず合コンとかにも出て」
「そうしなさい。さて、と」
 おばさんはここで左手にかけてある細い腕時計を見る。見れば時間はもういい頃だった。
「それじゃあ仕事にかかるわよ」
「はい。午前の続きですね」
「そうなるわね。課長がまた五月蝿いわよ」
「何かお昼になってすぐはいつも機嫌悪いですよね、課長って」
「あの人起きたてはいつもこうなのよ」
 つまりいつも昼寝しているのだ。しかも寝起きが悪いときている。かなり癖が悪い。
「だからね。気にしないことよ」
「そうですか」
「そういうこと。他は別に悪いところないから」
「気にしないでですね」
「わかったらじゃあ」
 掛け声と共に立ち上がって美香にも言ってきた。
「午後の仕事よ」
「わかりました」
 こうして美香はおばさんと共に午後の仕事に向かうのだった。案の定課長は機嫌が悪くいらいらとした顔だった。しかし美香はそんな課長をスルーして仕事に向かう。おばさんに言われた言葉もすぐに忘れて今は仕事に頭を切り替えて真面目に働くのだった。
 そんなごく有り触れた日常だった。休日に美香は奈緒と会っていた。イタリアンレストランでスパゲティを食べていた。屋外のテラスにおいて二人は赤ワインと共に真っ黒いスパゲティを楽しんでいる。
「やっぱりイカ墨って美味しいわね」
「ええ。最初はかなり驚いたけれどね」
「何て思った?最初」
 奈緒は美香に対して笑顔で尋ねてきた。
「このスパゲティ」
「墨汁かけてると思ったわ」
 美香は半分真顔で答える。
「こんなの食べられるかってね」
「東京の蕎麦みたいよね」
「ええ」
 これが彼等のこのスパゲティへの最初の感想だったのだ。
「けれど食べてみればねえ」
「これが美味しいのよね」
「そうそう」
 笑顔でその真っ黒いスパゲティを口の中に入れていく。見ればテーブルの上にはこのスパゲティだけでなくピザやラザニア、マカロニもある。かなり食べている。
「味にコクがあってね」
「口の周りが黒くなるけれどね」
「それは御愛嬌」
 美香はここでグラスに入れてある赤ワインを手に取って口に含んだ。
「ワインでお口を奇麗にすればいいし」
「そうそう。そういえば」
「何?」
「今凄くいいじゃない」
 笑顔で美香に言ってきた奈緒だった。
「今。そうじゃない?」
「何でいいの?」
「だって高校を卒業したのよ」
 彼女が言うのはこのことだった。
「だから。おおっぴらにこうやってお酒も飲めるしね」
「まだ十八だけれどね」
「社会人になったらそんなのわからないわよ」
 あまり褒められたことではないがそう言って彼女もワインを飲む。
「はっきり言ってね」
「それもそうね」
「そうそう。お金さえあればね」
「そうよね。お金も随分できたし」
 二人で言い合う。
「高校卒業して万々歳ね」
「ええ」
 美香はその黒いパスタを口の中に入れつつ奈緒にまた言葉を返す。
「後は。そうね」
「後は?」
「彼氏がいればいいんだけれど」 
 話は前におばさんと話したことのままだった。
「これでね。それだと完璧なんだけれど」
「彼氏ねえ」
 奈緒は美香の今の言葉を聞いて少し考える顔を見せてきた。
「それだけれどね」
「どうしたの?」
「焦るものでもないわよ」
 奈緒の言葉はおばさんのものと同じだった。
「確か。そうだったわよね」
「まあね。それはね」
「ただ。どうかしら」
 ここで奈緒はまた美香に言ってきた。
「あんた、あれなのよ」
「あれって?」
「焦ってるように見えるのよ」
 彼女が言うのはそのことだった。やはりおばさんと同じである。
「どうにもね」
「それ仕事場でも言われたけれど」
「焦らなくてもいいの」
 奈緒はピザを食べつつ美香に述べる。
「別にね。待ってればいいのよ」
「やっぱり言うのは同じなのね」
「自然とそうなるわ」
 それを隠しもしない奈緒だった。
「あんたを見てるとね」
「まだ十八だけれどね」
 それは自分でもわかっている美香だった。
「けれどそれでも」
「相手欲しいの?」
「いい人がいたら結婚したいし」
「まだ早いわよ」
「早いかしら」
「早い早いって」
 苦笑いになる奈緒だった。
「早過ぎるわよ。まああれだけれどね」
「あれって?」
「出会いがあれば別だけれどね」
「そうなの、別なの」
「要は出会い」
 奈緒はまた言う。
「それよ。それなのよ」
「じゃあ今は」
「相手に会ってそれから考えなさい」
「それからなのね」
「決して焦らないこと」
 このことを念押しする奈緒だった。
「絶対にね」
「わかったわ」
「わかったらいいわ。さて」
 ここで奈緒は楽しそうな笑顔になって話を変えてきた。
 
ページ上へ戻る
ツイートする
 

全て感想を見る:感想一覧