少年は魔人になるようです
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第91話 少年たちの前に壁が現れるようです
Side ネギ
「『双腕―――掌握』!!」
ガキュンッ!
両手に固定した魔法を握りつぶすようにして取り込む。
その瞬間、修業していた時よりも遥かに大きく自分の"闇"が中で暴れる。
でも、それを抑える必要はないんだ。この醜い感情さえ自分として受け入れて力にする。
それこそ―――!!
「魔力充填『術式兵装"槍御雷神"』!!」
ド ウ ッ ! !
「ほぉう、奇妙な技をつか(ドズッ!)が……!?」
ドズドガドガドドドドドドドドッドズドガドドドドド!!
「"ラス・テル・マ・スキル・マギステル"!」
『雷の暴風』と『雷の投擲』を合わせて自身に取り込む事で得られる付加効果は、雷化による速度上昇と
攻撃の貫通力上昇、それに攻撃が当たる度に小型化された雷槍が射出される事だ。
その速度は共に3000m/s。自然現象の雷にはなり切れなかったけれど、これを除けば地球上では最速。
伯爵級でも反応出来ず正拳と拘束槍を食らい、その場に縫い付けられて乱打を受ける。
その間にも魔法を詠唱して、次の一手を用意する。用意出来る。
「"風よ 雷よ 光よ!無限に連なり其を包め 彼を焼け 我を照らせ!切り裂け 刺し穿て 叩き潰せ!!
『全きこの身を剣と化し』 集束固定"!」
「器用なものだ、儂を相手に……!ぬぅん!!」
「フッ!"装填"!」
ガシュンッ
巨大な戦鎚の打ち下ろしを思わせる拳を皮一枚で見切って、戦術魔法を"装填"する。
"装填"は発動した魔法をそのままに、自分の魔力を籠めた状態と同じに出来る。
戦術魔法の弱点である単体への威力の低さ、それを補う為に僕の拳に乗せて撃つ代償を同時に克服した。
「ぬ、ぐぅ……!?馬鹿な、人間如きがこんな力を……!!」
ド ン ッ ! !
「で……"右腕解放"!!」
ガキュッ
『全きこの身を剣と化し』を開放して、最初の一本を射出する。
すぐさま飛び退くと、伯爵はその剣を引き抜こうとする。そして、掴んだ瞬間。
ドスドスドスッ
「ゴプッ……!」
ズドドドドドドオッザザザザシュザシュブシャァァァァッ!!
「ぉぉおお……!素晴らしい…!」
ムルムルの体の内部から2千を超える三属性混合で形成された刀剣類が飛び出る。
最早原型を留めなくなったそれを見て松永は歓喜の声を上げるけれど、安心は出来ない。
そのまま構えた状態でいると黒い炎に包まれて消えて行き・・・血の一遍も無くなった所で術式兵装を解く。
「か、った……のか。……ぐ?」
ドクン
安心した瞬間、体の中から"闇"が溢れて来る。ここまで来る為に『雷の暴風』一発、戦いで更に一発と
中級魔法、更に戦術魔法を装填・・・今の僕の限界を少し超えてしまった。
抑え込むのも、少し難し―――
バンッ!
「いやぁ少年!いつの間にそこまで上達したのかね?祭りの時とは桁が違うではないか。」
「えっ!?あ、ありがとうございます。」
「ええ、素直に驚きました。あの伯爵級をいとも簡単に……。」
僕の中の闇が溢れそうになった時、松永に背中を叩かれて引き戻される。
助かった・・・やっぱり、まだまだ修業不足だ。もっと心を強く持たないと呑まれてしまう。
それにしてもこの二人は何をしに来たんだろう?まさか祭りを楽しみに来た訳じゃないだろうし・・・。
「おぅ、終わったかの?いやぁー少年、君強いのう!人間がオジキを圧倒するなどとは思わなんだ!」
バンバン!
「いたっ、いたっ!?こ、子供の、魔族?」
疑問に思っていると、今度は魔族の子供?が急に現れて僕の背中を力強く叩いて来た。
僕よりも背は小さく、褐色肌に金色のセミロング。頭には後ろに向かって竜族の角が生えているから
竜人族かと思ったけれど、悪魔の羽が四枚も生えているし影が陽炎みたいに揺らいでいる。
「来ましたか、ゼルク。その様子だと彼の力を吸収出来たようですね。」
「おぉ、8割方も吸収出来たぞ!人間界の東方の術と言うのは不可思議じゃのう。」
「えーと……桜咲さんのお知り合いですか?」
「と言っても先程からの、ですが。あの伯爵の偉そうな態度が気に食わなくて下剋上したかったと。」
何と言うか・・・問題ばっかり舞い込んで来ますね。
これ以上妙な人員が増えると困るし、目的も果たしたようですし――
「して、ヘラスとか言う国はどこかの?朕の血筋の者が国を治めていると聞いたから、見てみたくてのう。」
「こ、皇族への謁見は無理じゃないでしょうか?特に悪魔は……。」
「そうでもないだろう?彼の姫君も式典には参加する。彼女の能力であれば多少の警戒を掻い潜って
会う事も出来ると思うがね?我輩達もオスティアに用がある、一緒にどうかね?」
「お主らの様な怪しげな集団に混じれば行動もしやすいか……うむ、良かろう!ついて行くぞ!」
余計な事を言うな松永久秀ぇぇぇええええ!!こ、これでまた変な人が僕達のパーティに・・・!
あぁ、もう諦めるしかないのか・・・。寧ろ不測の事態に備えて戦力を増強出来たと考えるんだ。
「さぁ、ここでこうしていても仕方ありません!早くのどかさんとハルナさんを助けて、帰るために!
行きましょう、オスティアへ!」
「……ネギ、あんたなんか顔が引き攣ってない?」
「いえ、気のせいですよ明日菜さん!あははははははははは!」
一瞬でも早く帰るんだ、あの日常に・・・!じゃないと僕の心が持たないよ!
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
subSide 千雨
グォン グォン グォン ―――
「あ、千雨ちゃんだ!おーい!ただいまー!」
「おー、おかえりー。佐々木も朝倉も無事みてーだな。……つーか見た顔と見ねぇ顔が増えてるんだが。」
外時間で約30分、先生達は向かった時の二倍の人数になって戻って来た。
桜咲はともかく、松永とか言う悪魔ともう一人、竜角の生えた悪魔の幼女まで・・・愁磨先生じゃあるまいし
守備範囲広すぎだろこいつも・・・。
「ち、違いますよ千雨さん!?この子は別に僕が連れて来た訳じゃないですよ!」
「人の表情を読むんじゃねぇよ、ヤなガキだな!」
逆に言えば、私の表情が読めるだけ一緒にいたって事か?ったく、勘弁してくれ。
覗き見される趣味は無いんだぞ。と、何やら神楽坂が先生にスタスタ近づいていって――
スパァンッ!
「ちょっとネギ、何よさっきのは!?あの強そうな悪魔を……こう、ブシャーって!
手に変なグルグルが浮き出てたし、目とかすっごい吊り上がっちゃって、バチバチ光るし!
なんか変なクスリでもやってるんじゃないでしょーね!?」
「やってませんよ!」
神楽坂の詰問に私まで反応してしまう。・・・変なクスリか、言い得て妙だな。
問題は、使うのをやめても侵された心は治らないって事か。私は構わないんだが、先生はどうなんだろうな。
こいつは一番矢面に立ってっけど、それも帰る為だからな。
「や、『闇の魔法』ですってー!?何よその悪者が使いそうなのは!」
「おう、『闇の魔法』な。俺が教えた!」
「ってあぁーーっ!またアンタねヘンタイ!ネギに何教えてんのよ!ちょっと私が目を離すとすぐ
これなんだから!駄目よ!絶対ダメ、使用禁止!封印よ封印!」
「……すみません、明日菜さん。それは出来ないんです。」
種明かし?をした途端いつもの様にがなる神楽坂だけど、珍しく先生が一蹴した。
「明日菜さんは怒るだろうなー、とは思ったんです。それでも、皆さんを守る為に……僕が選んだんです。」
「うっ……。そ、それは……。」
「まぁ、そう言う事だ神楽坂。先生だって死ぬほど悩んで決めたんだ。気持ちは分かるけど、頭ごなしに
否定しないで、そこんとこ汲んでくれないか?」
私たち二人に言われて、ぐぬぬ・・・と言った感じで口ごもる。
こいつなりの心配がこういう形で現れるんだろうな・・・真っ直ぐな奴だからこうなっちまうのか。
大人に言わせれば可愛い、って事なんだろうな。
「で、でも…さー?闇の魔法なんて言ったら、やっぱり副作用とかあるでしょ?」
「……大丈夫です!『闇の魔法』は昔、エヴァさんが編み出して愁磨さんが改良した
ものです。エヴァさんが何百年も使っていた技ですから、安全は保障済みです。ですかファーー!?」
もぎゅっ!
先生が嘘っぱちで誤魔化そうとしたら、口端に親指を突っ込んで左右に引っ張る。
・・・相変わらず決まらねぇ人だ。表情も実に読みやすい。特に、神楽坂には。
「嘘つき。」
「ふぶぇ!?」
「危険なんでしょ、ホントは。あんたが嘘ついてもすぐわかるんだから。
ハァァァ~~~~………いい加減気付きなさいよ。」
・・・ああ、全く同感だ。自分では誤魔化せてると思ってるからやめねぇんだよ、この人は。
理解したとしてもやめないと思うがな。本当に・・・あの人らそっくりだ。嫌な所だけ。
「………いいわよ。」
「ふぇ?」
「忘れてた。あんたがどんだけ無茶しても着いてくって決めたんだもんね。」
「あ、明日菜さ「た・だ・し!あんたが皆を守りたいように、私達もあんたを守りたいのよ。
あんたが私達を守る様に、あんたがピンチになったら私達だって地獄の底まであんたを助けに行く!」
神楽坂の堂々たる宣言に、先生はアホ面で見るだけだ。成程・・・お姫様、な。
とんだじゃじゃ馬姫もいたもんだ。でも、こいつのお陰で私達はここまで来たようなものだ。
だから――
「良いわね!?覚悟しなさい!」
「………は、ハイ!!」
精々頑張ってくれ。地獄まで助けに行くのがお前らの仕事なら、私の仕事は堕ちる事だ。
Side out
subSide 愁磨
ザァァ――
「まるで、"紅き翼"の秘密基地……いや、テオドラに言わせりゃ掘立小屋だったか?
あん時の、あそこの風にそっくりだ。そう思わねーか?」
「……ああ、そうだな。ネギが居て……アスナが居て。その周りには"白き翼"の仲間達。
違う事と言えば、男率が異常に低い事か。全く誰に似たんだか……。」
オスティアの外れ、旧都の沈んだ雲海が一面に広がる場所。
どういう訳かラカンが『墓守り人の宮殿』に居た俺に"気"を向けて来たからこうして来たんだが・・・
まさか世間話する訳でもないだろうに。
ザンッ!
「しゅ、愁磨さん!?どうしてここに!?」
「おや……気配は消してたはずなんだがな。良く分かったな。」
「あっちから見えますもん、分かりますよ!!」
ラカンに問いただそうとしたら、ネギが『闇の魔法』を使ってまですっ飛んで来た。
・・・ああ、迂闊だったな。我ながら目立つ見た目だと言うのをすっかり忘れていた。
それにしたって、存在も薄めてたんだけど・・・成長著しいって事かな。
「……この、雲海の下に広がる廃墟な。」
「えっ?」
「昔は大小百の島々が天然の魔法の力で浮かぶ、そりゃぁキレイな古都だったんだよ。
飯は美味いし美人も多かった。この世界の文明の発祥の地とか言われてな。」
面倒な事が始まりそうだと思った時、ラカンが何やら語り出した。
歴史と伝統のウェスペルタティア王国。麗しき千塔の都、空中王都オスティア。この世界最初の王都。
・・・言っている事はただの歴史的事実だが、思う所があるのだろうか?
「その王族の血筋には代々不思議な力を持つ特別な子供が生まれて来た。
この世界が始まったのと同じ力で、この世界に息づく魔法の力を終わらせる神代の力。
『黄昏の姫御子』、"完全魔法無効化能力者"。」
ネギは知る由もないが、明日菜の事だ。しかし、ラカンが知る由も無い事も存在している。
そう、アスナの能力がツェラメルと同じ力であると言う事。
訝しんでいる俺と意図を全く掴めないネギを置き去りに、ラカンは語る。
「20年前の大戦の時にな、あの壮麗だった島々が全部落っこちた。直径50kmに及ぶ巨大魔法災害、
『広域魔力消失現象』によってな。……まぁ愁磨のお陰で、多少の問題を残しただけで済んで、
………王国は滅んだ。」
そこで自嘲気味の笑みを浮かべて、重そうな体をこれまた重そうに立ち上がる。
「お前の……いや、俺達は己が私欲の為に下らねぇ戦をおっぱじめやがった馬鹿共を暴き出し、
世界を二つに分けていがみ合ってた連中をまとめ上げて諸悪の根源をぶっ潰して、世界が滅ぶのを
喰い止めた。が――」
「………一つの国と、9822人の命と、一人のか弱い女の子を守る事が出来なかった。」
―――何が英雄だ。
あの時からずっと、俺達の心に共にあるのはそれだ。幾ら力をつけようとも、経験を重ねようとも。
抗えないモノが確かにある。だから、俺は・・・。
「フ……いい女になるな、ありゃ。」
「ラカンさん、愁磨さん………。」
「ぼーずよ、お前とあの嬢ちゃんは、言ってみりゃあいつらの忘れ形見だ。
今度はお前が守ってやってくんねぇか。あの嬢ちゃんをよ。」
衝撃を受けたネギは目を見開き、静かに目を閉じて・・・そして、覚悟を決めた晴れやかな表情で―――
「……嫌です!」
・・・断った。いや、俺もラカンも予想外過ぎて口を開けてネギを見るしかない。
それを見たネギは何やら勝ち誇った顔をして、続ける。
「明日菜さんものどかさんも、千雨さんもハルナさんもまき絵さんも朝倉さんも古菲さんも楓さんも
アーニャも僕が守ります!そして夕映さんも見つけ出して見せます!」
その堂々たる宣言に更なるアホ面で答え、ラカンと顔を見合わせ、同時に・・・
「「ブッ!」」
吹き出した。
「ブァッハハハハハハハハハハハハハ!!ハッハハハァーハハハハ!クックックック、いやぁ参った!
こりゃ思ったよりでっかくなってやがったなぁ愁磨!!」
「アッハハハハハハハハハハハ!フ、フフフフハハハ!ヒャッヒャッヒャ!全くだ!
くくくく、全員俺の女宣言か!あぁ、こいつはナギより大物だなぁ!!」
「えっ、えっ!?僕何か変な事言いましたか!?って言うかそんな事僕言いました!?」
俺とラカンに少々強く背中を叩かれつつも、たたらを踏む事無く戸惑うネギ。
くくく、精神的にも思ったより成長してるみたいだ。あぁおかしい。
これならばナギよりも上にいけるかも知れんな・・・楽しみだ。後は頼んだぞ、ラカン。
「あぁ、任せときな。お前の敵足り得る奴にしてやるぜ。」
「く、く、は……!!お前の事だって待ってるんだぜ?……じゃあな。」
その決意に満ちたいやらしい笑みに望み通りの敵意を持って答える。
何が言いたかったのかと思えば・・・『俺達はお前の敵だ』と来たか。確かに聞いたぞ、友よ。
ならば・・・俺達は待っているぞ。あの場所で。
Side out
―――――――――――――――――――――――――――――――――――
「あぁ……待ってろよ。」
愁磨さんが転移した後、ラカンさんは真面目な顔でそんな事を言った。
よ、良く分からないんだけど・・・結局何だったんだろう? 旧友の挨拶って言う割には変って言うか
妙に殺伐としてたって言うか・・・・・あっ!!
「向うの世界に帰らせてって言うの忘れてたぁーーー!!ラカンさん、もう一回呼べませんか!?」
「あーん?無理無理。男の呼び出しにゃ一回しか答えねーよあいつは。」
「ですよねぇ……。あぁ、皆には内緒にしないと……。」
あまりに久しぶりに会ったものだから、それだけで満足しちゃったよ・・・。
いや、愁磨さんなら察して助けてくれそうなものだけど・・・今言ったように楽しんでるんですか。
それならどうしようもないですね。
「行くぜぼーず。明日から終戦記念祭が始まる。最後の詰めと行こうぜ。」
「は、はい!よろしくお願いします!」
なら、僕は僕が出来る最大限の事をするだけだ。それに・・・のどかさんは僕が助けるんだ!
Side out
Side ―――
ワ ァ ァ ァ ァ ァ ァ ァ ァ ァ ァ ァ ァ ァ ァ ァ ―――
「アリアドネ―戦乙女騎士団!捧げ―――刀!」
ザシャンッ!
「(ねぇねぇユエ、なんで何で私達が世界平和のお祭りの警護やるのかな?)」
「(……我々アリアドネ―は強力な武装中立国ですからね。)」
終戦二十年記念"オスティア終戦記念祭"開催当日。夕映の所属するアリアドネ―騎士団は友好のの為に
メガロ・ヘラス両国の外交特使が集まる場所を警護していた。
とは言っても新兵は後方に配置されている上、世界情勢に無頓着なコレットともなれば無駄話に花が咲く。
「(北の人間を主とした"メセンブリーナ連合"と南の亜人を主とした"ヘラス帝国"の間を取り持つ役目が
必要なのです。平和の祭典とは言いつつ、両者の仲は最悪です。それにこの役目を担うと言う事はつまり、
両者と比肩される力を持っている事になりますです。アリアドネ―の発言力を強める為にも……。)」
「(へー?)」
「(……まぁ、事情は分からなくても警備は出来るです。)」
夕映の丁寧な情勢の説明も、全く理解する気の無いコレットには馬の耳に念仏。
それを分かっているので、夕映もあえて追及をしない。
「わ!?ユエ見て見て!」
「な、なんですか?」
いきなり元気になったコレットに従い上を見ると、クジラの様なフォルムの凄まじく巨大な白亜の戦艦と、
それ程ではないがまた大きな戦艦が空を飛んでいた。メガロメセンブリア主力k
メガロメセンブリア主力艦隊旗艦"スヴァンフヴィート"!!先の大戦で活躍して今尚現役の最強戦艦ダヨ!
艦首神罰砲の威力は絶大でグレートブリッジ奪還作戦では一撃で七体の敵召喚獣を消滅させ、
更にはあの『皆殺しアーカード』の魔法を受けたとの噂も……!」
「……軍隊には詳しいのですね。」
ゴォン
・・・更に饒舌になったコレットに飽きれの一言で答える夕映。此方も、興味の無い事には無関心な様だ。
そして"スヴァンフヴィート"の下部、後部倉庫と思しき場所が開き、光る巨人が二体降り立つ。
ズンッ ズズン!
「わわ…!鬼神兵!!でかっ!?」
「あ、あれが鬼神兵…!?(・・・超さんが使っていたアレの初期型でしょうか?)」
「良いのでしょうか、あんなものを持ち出して……。」
全高30mはあろうかと言う淡く光る巨人、大戦期に活躍した帝国の兵器"鬼神兵"。
しかしその装備は打って変わって式典用の杖。あくまで儀仗兵だとでも言いたいのだろう。
その上で更に騒ぎが広がった、式典会場を挟んで反対側。
「ちょ……あっちも見て!帝国のインペリアルシップだよ!しかも後ろのアレは…!!」
「て、帝都守護聖獣の一体、古龍"樹龍"!!……壮観ですね。」
イルカを思わせるフォルムの黒鉄色の巨大戦艦、その後ろに控える戦艦の二倍はあろうかと言う六枚翼の龍。
皮膚は岩石を思わせるがしなやかであり、その力強さは"鬼神兵"すら遠く霞む存在感。
エヴァンジェリンや精霊種と同じ魔法世界最上の種族だが、守護聖獣四体は魔法世界創生中期から存在する、
文字通り別格の『生命』である。
「戦争でも始める気じゃないよねー……。」
「バーカ、戦争なんて怒らないにゃ。」
「殿方がどっちのアレが大きいか自慢し合ってるだけの事よ。」
「アレ?アレって――「静かになさい!!」ハイィーー!」
上級生二人組がお下品な事を言い出した所で騎士団員のお姉さんからお叱りが入り、姿勢を正して
警備に戻った。それから間もなくして式典が始まり、長々しい挨拶と小難しい決まり文句が語られ、
最後にヘラス・メガロ双方の代表者が握手をしようと立ち上がり―――
ヴォオ―――ン
「お、おいアレ!!」
「なんだあの魔法陣?式典用の花火か?」
重々しく、しかし歓声が溢れる会場に響き渡る程の音を立てて、会場から50kmの空中に魔法陣が展開される。
待機しているスヴァンフヴィートと樹龍間近まで魔法陣が広がり、徐々に召喚された何かが這い出る。
鱗に覆われた長大な二本の脚と尾、煮え滾る溶岩が溢れ出る体躯、山をも一凪ぎ出来よう腕、
魔法陣の半分以上を覆う四枚の翼。そして鬼神兵の持つ杖よりも長い牙が剣山の様に生え、見る者全てに
恐怖を叩き込むような四つの眼。その全てが黒いが、唯一その頭に映える角は王冠の印象を与える黄金。
【GUuuuuuuuuuuUUUuuuuuuuuuuuuuuuuUUuuuuuuuuuuLhaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaaa!!!】
バォウ!!
「あっ、なっ………け、警備班!何をしていた!?」
「わ、分かりません!一切の兆候なく、一瞬であの超戦術広域陣レベルの魔法陣が…!!」
「くっ、スヴァンフヴィート!艦首神罰砲の準備は!?」
唸り声と翼を広げただけで地震と台風の様な風が吹き荒れ、鬼神兵もがたたらを踏み、人々は逃げる事さえ
許されない。精鋭である各国警備員はそれでも気を持ち直し迎撃を優先して動き出す。
しかしそれに先んじて樹龍が飛び立ち、召喚された龍の元へ行き、降りて首を垂れた。
「樹龍が首を垂れた……!?皇女殿下、まさかあれは…!」
「ああ、妾の角も反応しておる……。龍族の全ての頂点に立つ者、この世界を創った者が初めに創った
とされる究極の生命体。ヘラス帝国唯一の神獣"龍王"。じゃが、それを召喚するじゃと?」
警備隊と戦艦が続々と飛び立ち、人々が漸く逃げようとし出した時、スヴァンフヴィートのレーダーに
龍王を超える魔力反応が出現し、龍王もが翼をたたみ膝を折った。
その存在の正体に気付いたのは、式典会場ではヘラス帝国皇女と、アリアドネ―総長のみ。
「この気配……!?ありえない……!!」
【―――いいや、有り得るともお嬢ちゃん。20年で随分偉くなったものだ。未熟者は撤回しよう。】
龍王の牙の半分ほども無い小さな影が五つ、その王冠の上に降り立つ。
そして魔法世界最強の魔獣を従え、ゆっくりと式典会場へ・・・いや、表舞台へと姿を現した。
「……全魔法世界住人よ、御機嫌よう!さぁ―――俺の名前を言ってみろ!!」
「し………」
『『『白帝様ぁぁぁあああああああああああああああああああああああ!!』』』
「忘れていないようで何より!さぁ……祭りを始めよう!!」
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