[ 原作 ] オリジナル作品
小説家になろう、エブリスタ、カクヨムに投稿。
私は悲しいことに六十三歳である。何が悲しいのかと言うと、六十三を六と三に分解すれば【むざん】と読めるからだ。
縁起でもない嫌な語呂合わせだ。
私は、二人組のタクシー強盗をどうしても許せなかった。そこで、自ら鳥取警察署に出向いて、彼らの行状を目撃者として訴えてやると、四日後に米子≪よなご≫でお縄になったと、駅前で買った新聞に大きく顔写真入りで掲載されていた。どこで手に入れたのだろうか、私の三十代の顔写真も一緒に……。というのも、私の属するタクシー会社には、不鮮明な顔写真しか出せていなくて、何度も、鮮明な顔写真を提出するように言われていたが、何度言われても、ボンヤリとした写真しか撮れなかったのも、事実だ。会社には、三十年以上お世話になっている。だが、足がうまく使えずアクセルとブレーキを踏む時に苦労することがあるのも、私に足がボヤーとしか存在しないのも、元々、死んで三十年経っているから、仕方がないと言えば、そうかもしれない。
でも、私は、今でも、依然六十三歳だが、現役バリバリのタクシー運転手をしている。
捕まった二人には、どのような刑罰を裁判員六名と三名の裁判官が下すのだろうか? 二度も、同じような殺され方をし、もうすでに鬼籍に身を置いている幽霊を、再び殺した罪の償いとして……。できれば、傍聴席に座って、検事と弁護士のやり取りを、いや、少なくとも裁判長が読み上げる主文だけでも、ぜひ聞いてみたいのだが。
しかし、【仕事が忙しい】ので傍聴席にゆっくりと座っていられないのが、とても残念だ。
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