[ 原作 ] オリジナル小説
小説家になろう、エブリスタに投稿。
僕は、まだこの仕事をして四ヶ月なのに……。どの企業に行っても、同じようなことを聞き始めた。
「二年前にも、君はきたじゃないか!」
大阪営業所は二年ほど前にできたらしいので、そのころからいる人達に、僕に似た人がいませんでしたか、と尋ねても、皆、首を横に振って否定した。
僕は、三ヶ月ほど前に訪問した企業も再度アポとりに挑戦したのだ。だが、どこの企業でも、
「君が去年きた時にはっきり断ったのに!」
と、けんもほろろに馬鹿にされた。三日目には、入社して間もない頃に、数多アポをとれた新大阪付近の企業に行ってみると、「つい三十分ぐらい前にきたので、はっきりと断ったじゃないか! 君は、何をしにきたのかね!」
怒気と嘲笑を含んだ罵声を、思いっきり浴びせられた。他の企業を回るうち、段々とその時間の間隔は短くなった。そして、とうとう目の前を行く自分らしき人物の一メートルほど後ろに、僕は追い付いた。
後ろにいると、前の人(自分?)の服装もしゃべり方も、全く僕と同じだ。
前の人がアポを断られ、突然、後ろを向き僕と鉢合わせしたが、その人は僕ソノモノである。まるで誰もいないかのように、僕の体をすり抜けていく。
振り返った僕は――その人も足がボンヤリとして、この世に実在していないことを確認して、ホット溜息がもれた。
面接の時に、実際は電車に乗らずに、愛車でのんびりと余裕を持って早めに家をでた。それは四十年も前のことだった。大阪の御堂筋で制限速度を守り、面接会場の目と鼻の先で赤信号に引っ掛かり止む無く急停車した。ところが、後ろからきたダンプカーにオカマされ、その弾みで交差点に入り、右横からきた五台の車に衝突された。愛車はペチャンコになり、当然ながら、運転していた僕は即死であった。その一連のできごとを、死の瞬間の苦痛とともに思い出した。
今、僕が聞きたい四十年前の曲は、(結婚しようよ)、(この広い野原いっぱい)、(瀬戸の花嫁)、(女のみち)、(旅の宿)、(喝采)、(さそり座の女)……など、たくさんある。
が、なにぶん、「おあし」がないので買うことはできないし、血の池地獄の中で苦しんでいる僕には許されないことだろう……。
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