[ 原作 ] オリジナル小説
この作品は、エブリスタ、カクヨム にも投稿している。
いつ回遊して来るかも知れないサヨリをあきらめて、投げ竿四.五メートルに替え、漁船の通り道の真下を選んだ。そこにいるだろう五十センチメートル以上の「年無しチヌ」を狙う事にしたのだ。オモリ三十号、一.五メートルのハリスにがん玉を付け、鯛バリ十三号に太いアオムシを房掛けにして投げた。竿先に軽やかな音色のする鈴を付け、防波堤で出来るだけ体熱を奪われないように体を丸めて、ウト、ウト……居眠りをしていた。
その時だった。
大きな鈴音が、私が見ていた楽しい夢から、寒風吹きすさぶ現実に戻したのだ。
四.五メートルの太い竿は、頭を大きく上下させている。きっと大物を釣ったと思い、はやる気持ちを抑えて、慎重にリールを巻き始めた。道糸四号が切れそうな程の強いしめこみに、五十センチオーバーのチヌに違いないと胸をワクワクさせながら、右手でゆっくりと竿をあおってリールを巻き、左手で五・四メートル伸びるカーボン製タモを出し、釣り上げる用意を万端にして、決定的瞬間を待った。
しかし、私の膨張した期待を見事に裏切る結果だった。なぜなら、タモですくったのはチヌでもなく、いわんや、魚でもなかったのだ。
縦、横、高さ 三十センチ程の、藤壺≪ふじつぼ≫がびっしり付着した薄汚い正立方体の古い木箱だ。開閉用扉が、まるで魚の口のように針をくわえていた。しかも、木箱がなおもタモの中で暴れ回っているのだ。多分、針をくわえた魚が、何らかの拍子に木箱に入ってしまったのだろうと思った。真冬なのに、全身から汗を噴出しながら、防波堤までやっとの思いで上げた。
仔細に見ると、元は美しかったであろうと思われる漆の朱塗りが、年月の経過で、その輝きを奪われ、今は剥げて傷だらけになった単なる木箱だった。とにかく、早く魚を出そうとして、木箱の蓋をカッターでこじ開けた。
すると、霧かあるいは霞のようものが、モワーとわずかに出ただけだった。肝心の期待していた大物の魚はいなかった。中には、曇って古ぼけた銅製の手鏡が、さも恥ずかしそうに自らカタカタ……と震えていた。
その箱を家に持って帰る。と、その後に我々夫婦が味わう恐怖とは?
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タイトル | 更新日時 |
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呪われた玉手箱 | 2018年 02月 12日 10時 55分 |
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