「銀河英雄伝説~新たなる潮流(エーリッヒ・ヴァレンシュタイン伝)」の感想

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良い点
【第二百六十五話  戦争への道】
>帝国屈指の実力者二人が子供のような言い合いをしている。
伯は、候の部屋に入るまでは、言い知れない不安を感じていた事でしょう。
内乱の後では貴族の頂点に立つ候と、最強の武力を掌握する貴族嫌いな平民である元帥が、当面の共通の敵である門閥貴族を斃(たお)すために手を結んだのであって、その共通の敵が消えた現在では、その両者が協力関係にあるとは、余りにもナイーブな望みでしかないと思い込んでいたのでしょう。
最終的な権力闘争発生直前の緊迫した事態を想定して、候の所へはせ参じてみれば、眼(め)の前で繰り広げられる、極めて良好な候と元帥の協力関係・信頼関係に、伯はどんなにか救われた事であり、そして腹の底から笑う事ができたでしょう。

>国務尚書が人の悪い笑顔でニヤニヤと笑っている。はて、こんな人だったか? もっと謹厳というか厳めしい人だと思ったが……。
>ヴァレンシュタイン元帥が冷笑を浮かべると国務尚書が私を見て笑い声を上げた。
伯は自分がもう一歩、候の懐に踏み込み、素に近い姿を見る事が出た事に喜びを感じている事が見て取れる表現です。
第三者の視点を通して、候と元帥の関係性を見る事ができるのは、群像劇たる本編の醍醐味(だいごみ)です。
 
コメント
【第二百六十五話  戦争への道】
ルッツが邸宅を辞した後で、マリーンドルフ伯とヒルデガルト嬢は、どのような会話を交わしたかが知りたくなる状況です。
伯爵家を守るためとは言いながらも、愛娘(まなむすめ)を平民風情に人質のように差し出した訳ですから、(貴族として)常識人であり、(人として)人格者であるマリーンドルフ伯は、娘に対して罪悪感と憐憫(れんびん)を感じざるを得ない事と思われます。
三者三様に自分の置かれた立場と、相手からどのように見えているかも理解した上での薄氷を踏むような関係はどのようになるのでしょう。今回はマリーンドルフ伯の内面をルッツの目線を通して、垣間(かいま)見る事ができました。ヒルデガルト嬢の気持ちの揺らぎも知りたくなります。