つぶやき

黒猫大ちゃん
 
最近、忙しい理由。その8
「彼女が……いない?」

 ギルドの名簿の中から消えている一人の名前。
 そしてその名前は、俺の構想の中から言うと絶対に消えて欲しくはない名前で有った。

「ヤバい! 何処かのギルドに引き抜きにあったのか。それとも……」

 一縷の希望。何処かのギルドに引き抜かれたのなら、未だ思いとどまらせる事は可能。確かに、何処でやろうともゲームはゲーム。そんなに違いはない。余程の上位ならば状況は変わるが、そう言うトコロはノルマ……と言うか、ある程度の縛りのような物が有って、少し俺に取っては息苦しい空間で有った。
 そして、その消えた人物と言うのも元上位のギルドに居た人物。そんな人間がわざわざ出来立てほやほやの弱小ギルドに参加してくれたのだから、上位のギルドが提示する事が出来る高報酬に釣られて移籍するとは考えにくい。
 まして、ウチのギルドもそう言う上位のギルドの直ぐ下辺りに付けて、次回辺りからその上位を窺ってやろうか、とそう考え始めた矢先。

 ここから考えられる答えは……。

 ギルド内の掲示板から辿って彼女の元に辿り着いた時――

「成るほど。矢張りそう言う事か」

 引退。彼女のコメント欄にはその二文字が確かに存在していた。

 しかし、それならば如何する?
 このまま未練がましく彼女が戻って来るのを待つ。
 ……論外。そんなのは俺の趣味じゃない。
 新しい人間が来るまで待つ。
 とある幕府を開いた人の振りをしたタヌキじゃない。これも俺の趣味じゃない。

「矢張り攻めの一手しかないか」

 ため息交じりにそう呟く俺。但し、この攻めの一手が一番難しい。
 何故ならば、これは新しいギルメンを集めて来ると言う事。

 再び、ギルドの名簿のページに戻り、メンバーの頭数の確認を行う俺。

「MAXまで後3人。次のギルド戦までの残りの日数は4日」

 ここ最近のギルド戦で稼いだポイントの個人ランキングで確実に百位以内に入っている俺の更に上に居た彼女の穴を1人で埋められる強者など早々居ない。しかし、新しいギルメン3人のトータル戦力で越える事ならば可能なのではないか。
 問題は時間。前回のギルド戦の成績が良かった以上、今度のギルド戦は上位との戦いから開始するので、初めから厳しい戦いが予想出来る。其処をポイントゲッターを欠いた状態で始めるのは……。

 只でさえ難しいギルメン集め。まして、直前に集めた時に俺の人脈もほぼ使い切った感がある。
 この未曾有のピンチを俺は切り抜ける事が出来るのか?

 果たして俺とこのギルドの明日はどっちだ?