1部分:第一章
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ろう?」
「いえいえ、全然」
口ではこう答え笑顔で返す和栄だった。
「そんなの。平気でしたよ」
「そんなことはない筈だよ。だってこんなにしんどいんだからな」
忠義は笑いながら掃除をしつつ語る。
「二人でこれなのに一人だと余計に」
「ですから。お爺さんはお爺さんでお蕎麦作ってたし」
「それが駄目だったんだよな」
また昔のことを思い出して言うのだった。そして。
「あの時のこと。覚えてるかい?」
「ああ、あの時ですね」
和栄も言葉を聞いてすぐにそれが何か思い出したのだった。
「屋台をやっていた最後の方で」
「店を持つすぐ前のな」
「はい。その時にでしたね」
二人でその銀色の厨房の中を掃除しながら話を続ける。蕎麦を茹でる釜もうどんを茹でる釜も掃除している。ただだしの入った鍋だけはそのままである。
「あの人が来たのは」
「誰だったかな、名前は」
その人のことを思い出しながら二人はその時に戻っていく。二人が屋台で出会ったその人のことを。
屋台をはじめて数年。二人の蕎麦の売れ行きはよく二人は忙しくかつ充実した日々を過ごしていた。金も貯まりもうすぐ店を持てるというその時に。彼が来たのだった。
「毎度」
「あいよ」
来たのは如何にもといったサラリーマン風の男だった。頭は前から見事に禿げていて歯が出ている。身体は痩せているがもう腹が出てきていてネクタイもスーツもくたびれ外見はお世辞にもいい男ではなかった。その彼がふらりと屋台の中に入ってきたのである。
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