第三章
[2/2]
[8]前話 [9]前 最初
侯爵家の」
「娘です」
ロクサーヌ侯爵家はフランスでも屈指の名門である。貴族達の中で知らない者はなく今の主は多くの娘を持っていることでも有名である。
「末の」
「そうでしたか。貴女が」
「ですが。それはどうでもいいことですね」
アドリアーナはにこりと笑って伯爵に言った。
「もうそんなものはいらなくなったのですから」
「いらなくなりましたか」
「ええ。何故なら」
自分が今まで着けていた仮面をここで見る。仮面は表情を消していて何も語ろうとはしないがそれでも彼女はその仮面を見ていた。
「今私達は素顔ですから」
「素顔で」
「仮面の下の素顔は何よりも真実を語ります」
アドリアーナは言う。
「ですから」
「ではアドリアーナさん」
伯爵は今のアドリアーナの言葉に問うた。
「今の私は何を語っていますか」
「私と同じことです」
それが彼女の返答だった。濃紫の帳の中に輝いている白銀の月よりも優しく眩い穏やかな笑顔で。
「貴方もまた。それでおわかりですね」
「ええ」
伯爵はその言葉の意味がわかった。それで応えた。
「私は。貴女を心から」
「私は以前からでした」
「以前から」
これはもうわかっていた。伯爵は想い人に想われていたことを心から感じて深く温かい喜びを今心から楽しんでいたのである。
「そう。そしてこの時を待っていました」
また言うのだった。
「貴方とこうしてお話する時を」
「それでは」
「はい」
その白銀の笑みを以って応える。
「これからも」
「永遠にですね」
アドリアーナがそっと差し出した手を受け取る。それで全ては決まった。
「何があろうとも」
「私達は永遠に」
「仮面の下にあるものは真実と言われています」
アドリアーナはまた言う。
「その真実を見たならば」
「そしてそれを確かめ合ったなら」
二人は共に語る。それはまるでモーツァルトの二重唱の様に華麗で美しい響きがあった。二人はその中で恍惚としていた。
「もう何もいりません」
「愛の他には何も」
二人は紫の優しい中で見詰め合う。仮面を外した素顔はそのまま永遠の愛を確かめ合い穏やかな恍惚の中に浸るのであった。
仮面の下の恋路 完
2007・9・13
[8]前話 [9]前 最初
※小説と話の評価する場合はログインしてください。
[5]違反報告を行う
[6]しおりを挿む
[7]小説案内ページ
[0]目次に戻る
TOPに戻る
暁 〜小説投稿サイト〜
利用規約/プライバシーポリシー
利用マニュアル/ヘルプ/ガイドライン
お問い合わせ
2024 肥前のポチ