第六章
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第六章
「けれど何も言わないからな」
「じゃあやっぱり好きなのか?」
「どうなんだろうな」
皆で首を傾げるのだった。そんなことを考えながら今は答えを出せない彼等だった。しかしここで話が動いた。薫は佳澄にあるものを出してきたのである。
「あの、これ」
「これって?」
「これ。どうぞ」
バイトの時間が終わってすぐだった。彼は店の裏で彼女にそれを差し出したのである。店の裏は食べ物や商売用の品や調理品が色々と置かれ結構雑然としている。しかし彼がここで差し出したものは赤と白の包装が為されピンクのリボンで括られた小さな箱だった。
「よかったらですけれど」
「これって?」
「ええとね」
薫はその大きな身体をもじもじとさせていた。そうしてそのうえで佳澄に対して話すのだった。
「ブローチです」
「ブローチ?」
「うん、ちょっと。お金が溜まりましたから」
ここで嘘を言うことができたが言わなかった。それをしないのが薫である。
「だから。高坂さんに」
「そうなんですか」
「あと。これ」
また別のものを差し出してきた。今度は二枚のチケットであった。それを彼女に対して差し出してきたのである。
「これもよかったら」
「これは」
「映画のチケットですけれど」
それだというのである。
「これも。よかったら」
「映画なの」
「ほら、高坂さん前にチーフと話してましたよね」
アルバイトのチーフである。フリーターで薫より二つ年上である。
「だから」
「私となのですね」
「駄目ですか?」
言葉が緊張したものになっていた。
「やっぱり。駄目かな」
「有り難うございます」
しかしここで佳澄は。にこりと笑って彼に告げたのだった。
「それでは喜んで」
「喜んで?」
「告白ですよね」
そのにこりとした笑みで彼を見上げての言葉である。
「これって」
「まあそれは」
「待ってましたし」
今度はこうきたのだった。
「ずっと」
「ずっとっていうと」
「ですから。私のこと好きなんですよね」
ペースはもう完全に彼女のものだった。主導権を握ったまま進めてくる。
「ずっと。ですから」
「あの、まあそれは」
「映画。一緒に」
やはり彼女のリードのまま話が進んでいく。
「行きましょう。それでですね」
「はい。それで」
「ブローチも」
これにも話が及ぶのであった。
「よかったら」
「薫さんの御心ですね」
「そう思って頂けたら嬉しいです」
薫は心からその言葉を出した。
「本当に」
「そうですか。私はですね」
佳澄は天使の如き微笑みを浮かべている。その微笑みのまま薫に語る。
「薫さんの御心を受け取れて嬉しいです」
「私のですか」
「そうです。その御心が」
こう語るのだ
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