第百七十三話 信行の疑念その五
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「各地の門徒は全て平定しました」
「かなりの大戦になりましたが」
「それでも最早伊勢や加賀の門徒は静かになりました」
「憂いはありませんな」
「確かにかなりの力は削いだ」
信行もこのことは否定しない、だが慎重な彼はその彼等にあえて言った。
「それでもじゃ。まだ石山がある」
「頭がですか」
「本願寺の」
「頭がある限り安心出来ぬ」
まだ本願寺は完全に倒れてはいない、彼が言うのはこのことだった。
「だからじゃ」
「まだ、ですか」
「油断は出来ませぬか」
「そうじゃ」
その通りだというのだ、信行は。
「それは三郎五郎もわかっておる筈じゃ」
「だから囲みは解かれませぬか」
「天王寺に留まられたままですか」
信広は都に戻らず本願寺との戦の後石山から目を離していない。その為今も五万の兵を率いて石山の付城である天王寺に留まっているのだ。
そのことを知っているからだ、信行も言うのだ。
「そうなるのじゃ」
「頭がある限り滅びぬ」
「そういうことですか」
「そうなる、頭があるからじゃ」
だからだというのだった。信行はまた。
「本願寺は侮れぬわ」
「では、ですな」
「安心するのは本願寺を完全に倒してからですか」
「石山からあの寺をどけてからですか」
「そのうえで、ですか」
「あの寺の力は大きい」
あまりにも大きい、だからだというのだ。
「どの大名よりも大きいわ」
「武田や上杉よりも」
「あの寺はですか」
「大きい、だからな」
それ故にというのだ。
「あの石山も何とかせねばな」
「そしてその石山にもですな」
「公方様が文を送られておる」
ここでも彼の名が出て来た、義昭の。
「困ったことじゃ」
「まことに何もわかっておられぬのですな」
「あの方は」
「全くじゃな」
「わかっておられぬわ」
「ですな」
「今の幕府のことが」
とかく義昭は見えていなかった。あまりにも将軍であることにこだわるが故にだ、彼だけはわかっていないのだ。
それでだ、また話す信行だった。
「公方様から目を離すでないぞ」
「ですな、何をされるかわかりませぬ」
「それ故に」
「公方様のお動きは全て兄上にお伝えする」
彼の兄である信長にというのだ。
「そして何としてもじゃ」
「天下を乱させはせぬ、ですな」
「必ず」
「天下が乱れて誰が得をする」
信行は日の世での考えを述べた。
「誰も得をせぬ」
「その通りですな」
「全く以て」
家臣達も日の世の考えを述べた。
「ましてや幕府は天下の泰平を守るのが責でした」
「かつては」
今は何の力もないからそれも出来ないがだ。
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