志乃「あ」
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堵の息を吐く。後は俺が完全に曲を覚え、志乃が……って、あれ?
「そういえば、俺まだ志乃の課題曲の伴奏聴いて無いな」
今まで俺が志乃に課題曲を聴いてもらう事はあったが、俺が志乃のピアノを聴いた事は無かった。志乃の事だから、ほとんど完成してるとは思うけど。
すると、志乃は少し意地悪げな顔をして呟いた。
「まだ、兄貴には聴かせない」
「えー、いいじゃん」
「完全になったら聴かせてあげる」
完全、ね。こいつが言うとプロレベルのものが出来ちゃいそうだな。まぁいいや。その完全が出来るまでのんびり気ままに待とうじゃないか。
とりあえず機材は全て揃っているから、段ボールにしまっておこう。俺はそう思って、確認のために周りに出していたセットを段ボールにしまおうとした。
すると、
「待って」
志乃が突然俺の腕を掴み、機材を段ボールに戻す行動を塞いだ。あれ、俺なんか変な事した?
それを聞こうと口を開くと、志乃はそれに被せるように言いたい事を口にした。
「兄貴、マイクのテストするから歌って」
これはなんていう無茶ぶりなんだ。家で歌えと?そんなの、鼻歌か呟き程度で十分だわ。
最近はゲーム機器でカラオケが出来るようになっているらしいが、俺の家では一回もやったことが無いし、俺自身やる気も無い。そのため、家の中で歌うという行為にタジタジになってしまう。
「いやいや、だったらカラオケ行ってテストした方が良くね?」
「金と時間の無駄。ここでやったほうが絶対良い」
確かに正論だ。むしろ正論すぎて返せない。つか、志乃の目がマジすぎて断れそうにない。こいつ、マジで言ってんのかよ。
そこで俺は咄嗟に浮かんだ質問を志乃にぶつけてみる事にした。
「もしかしたら母さんとかおばあちゃんが嫌がるかもしれないぞ」
「じゃあ、今聞いてくる」
そう言うが早く、志乃はマイクを持ったまま部屋を出る。少しして階段を走るドタドタという音が聞こえ――途中、ドゴンという聞き慣れない音がした。
志乃が怪我をしたのかもしれないと、気になって階段の方へ行くと、そこには半分ぐらいの位置で硬直している志乃がいた。
「あ」
それだけ吐いて、次に俺の方を見上げた。そして、これ以上に無くヤバいぜ的な顔をした。って、え?志乃?顔がめっちゃ引きつってるぞ?
あまりに新鮮すぎてこっちがびっくりするような展開に、俺は急いで志乃の方に行く。おいおい、本当に何事だよ。
「もしかして怪我した?」
冷静であるように振る舞いながらそう聞いてみると、志乃は顔を俯け、無言で一階の方を指さした。
もしかしてゴキブリでも出たんじゃないかと、恐る
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