第一章
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はりこの人は近寄り難い人だと、そういう印象を他の者に与える声であった。
「御親戚からです」
「親戚」
沙代子はそれを聞いてほんの一瞬だが微かに動きが止まった。だがそれは誰にも感じさせなかった。それ程までに一瞬で微かなものだったからだ。
「はい、どうされますか」
「お願いします」
つないでくれと言った。それを受けて電話は彼女の側の受話器につなげられた。
「はい」
いつものクールな動作で応対をはじめる。ところが。
「おばちゃん!?」
「えっ」
「おばちゃん!?」
沙代子が急に俗な言葉を口にしたので周りの者は目を点にさせて彼女の方を見た。
「どげんしたとよ。いきなりこんなとこに電話して」
「どげんって」
「今のは」
「ああ、間違いないよな」
彼等は口々に囁く。今彼女が九州弁を口にしたのをはっきりと聞いたからだ。
「だからいきなりそんなこと言われても困るったい。そんなしぇからしかこと」
どうやら何か込み入った話をしちえるらしい。声もやけに感情的で顔も困惑したものであった。
「それにうちその話もう断ったとお?なしてまた持ってくるんたい」
九州弁で話を続ける。周りには全く目を向けず話をしている。
「えっ、もう場所まで決めたっとお!?待ちんしゃいよ。うちはそれは」
よく聞けば電話の向こうからも九州弁が聞こえてくる。中年のおばさんの声だ。どうもその九州弁がやけに様になっている声であった。
「で、どうしてこ来いってか。母ちゃんも知っとる?なしてそういつも勝手に」
声がいよいよ困り果てたものになっていた。表情も観念したものになっていた。
「ああ、もうわかったたい。ほなその日たいね」
そう言って電話を切った。憮然として最後に呟いた。
「本っ当に。いつも強引ばい、おばちゃんは」
「あの」
カリカリしている沙代子に若いOLがおずおずと声をかけてきた。周りの者はそれに注目している。
「長野・・・・・・さん?」
「あっ、はい」
沙代子はここでやっと自分が取り返しのつかないミスをしてしまったことに気付いた。それで観念した顔で彼女の話を受けたのであった。
「はい、そうです」
彼女は酒の場で自分のことを同僚達で話していた。会社の最寄の駅のチェーン店の居酒屋であった。そこのジョッキと枝豆を飲みながら話をしている。
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