第5章 契約
第95話 オメガの扉
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し!
しかし、まるで大地に深く根を下ろした大樹の如き頑健さで、俺が上空に退避する事を拒む大地。
そして、そんな俺の姿を見つめる蒼の少女から、彼女に似合わない悲鳴と、そして、その声に相応しい表情が発せられた。
彼女が無事で有る事に安堵し、そして同時に、笑顔を見るよりも前に深い絶望に覆われた顔を見る事に激しい後悔の念を。
そして、何も出来ずに異世界に。おそらく、脱出する事の出来ないこの世界の直ぐ隣に存在する無限の闇に沈められる無念の重りを両足……。いや、身体全体で感じる。
不定形な泡に覆われた大地は何時の間にか消失。いや、すべては気泡として散じ――
やがて、扉。此の世と彼の世の境目に存在する扉が、世界を軋ませる大音声と共にゆっくりと開いて行く。
ここから……。この足元に開いた次元孔からは誰も自由になれないと感じる絶望。根源的な恐怖のイメージ。
……何処か。最早一歩も動かす事の出来ない足元からとも、氷空に浮かぶ炎の五芒星からとも付かない、何処か彼方から聞こえて来る猥雑なフルートとドラムの音。
「じゃあな、アイツらに宜しく伝えてくれ」
この異常な空間に有って尚、それまでと変わらない少し疲れたような。そして、やる気をあまり感じさせない声。
理性も……。意志も完全に千切れ跳ぶかのような苦痛の波間に喘ぐ俺の耳にも、その言葉だけはしっかりと届いた。
そして……。
そうして、その言葉を最後の手向けとして、俺の意識と身体は混沌が渦巻く異界の彼方へと果てしなく落ちて行ったのだった。
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