SAO編
見慣れた血飛沫
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を示していた。
特殊効果《出血》。相手の被ダメージ値や、防御力などによってそれが与えるダメージは大きく変動するが、攻撃を加えるたびにそのダメージ値が上乗せされる。さらにその《出血》は状態異常として数分間継続し、攻撃を加えるたびにモンスターはそのHPをがりがりと減らしていく。散らした飛沫は、そのモンスターが削った命の量。俺はおそらくこのSAOで唯一、モンスターに血を流させることのできる人間であると同時に唯一、純粋な剣技では戦えないプレイヤーだった。
暴れるタコが、血を流す。その度に俺のコートを汚していく青いそれを、どこか他人事のように眺めていた。風をきって真横から足が迫る。HPバーは、もう色が分からないほどにわずかな点にまで落ちていた。
「ポートさん!」
よけない俺に慌てたようなだーさんの声が聞こえる。ぎらりとピックが刺さったままの双眸と目が合った。まだ生きている、まだ死んでいないと言っているかのようなそれは、顔を出した朝日を反射する。俺の視界が、完全に迫る足を捉えた。
「……悪い」
呟きに応えた訳ではないのだろう。ぎゅん、と速度を上げたそれは俺の命を少しでも食らおうと迫る。同時に振り上げた足は、黄色の軌跡をひいて迫ったそれを蹴りあげた。同時に傷口から、また血を流したタコが断末魔を残してポリゴン片になる。きらきらと光を散らしたそれが海に消えていくと、俺のコートに残っていたそいつの血もすう、と沈むように消えていく。それを見る度にまるで染み込んでいるような気がして、複雑な気持ちになる。ぱんぱんと軽くコートをはたいて、愛剣を鞘にしまうと、隣に駆けてきただーさんがねぎらいの言葉をくれた。
「いやー、すごいですな。あんな巨大なモンスター、私は動けませんわ」
「ははっ……慣れってやつだよ!それより、わりぃな。だーさん投げちまった」
「いえいえ、気にせんでください。こんな年寄りをかばってくださってお礼を言いたいくらいですわ」
「ま、どうせなら可愛い女の子のほうが良かったかもな!」
「ポートさんらしい」
「んじゃ、続きやろうぜ、続き!」
モンスターを倒すたびに、どことなく感じる命の重み。実際にあいつらが生きている訳がないことぐらい、分かってはいるけれど、それでもそいつらが流す血が偽物だと割り切ることは、俺にはまだできそうになかった。
「……なんて、またあいつに笑われちまうかもな」
「ん?なんか言いましたか?ポートさん」
「いや、なんでもない!それより見てくれよ、これ!さっきタコからドロップしたあたりめ!せっかくだから食おうぜ」
甘さだと、あいつは笑うだろうか。
考えたところで出るはずの無い答えに、思考はすこしずつ沈んでいく。
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