第一部
第一章
二人の仕事(2)
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結局あれから数時間ほども通りを歩いてみて、生者がいれば話し相手を務めようと尽力し、転がる骸があれば浄化への祈りを込めて弔う。今日もいつもと変わらずに仕事に明け暮れれはみたものの、今日もまともに返事を返してくれた生者は一人もいなかった。みながみな俯き、俺たちが声をかけようとも微動だにせずに、死んだような虚ろな目で地に視線を落とし続けているだけ。こちらが必死に微笑みかけても、反応など一切返ってこない。
今日に限ったことじゃないけれども、何とも言えない無力感に襲われるこの感覚は、いつまで経っても慣れそうにはなかった。
……最後に、俺たちの問い掛けに応答してくれた人。見つけたのはいつだったか。
美羽と二人で帰路を行きながら、足元に視線を放り投げながらボーっと考える。
第四……いや、第五大通りで出会った人、だっけか。瓦礫の下敷きになったとかで、片方の腕を失った若い男性。
曖昧な記憶を辿りつつ、徐々に記憶の引き出しから当時の記憶を抜き出していく。
その人も結局、俺たちが配給所の話を持ち掛けてみても、あまり乗り気じゃなかったんだよな。事実、一度もあの人の顔を配給所で見た記憶もないし……。
思い返せば、あの人も俺たちと話しているときにもほとんど笑顔を見せなかった記憶がある。憂いを帯びたような表情、何に意識を向けているかもわからない、焦点の合っていないかのような視線は、やっぱり生きる希望の宛てがないことの表れだったのだろうかと。
今更になって思う。やっぱりこの仕事をやっていて報われることは滅多にないことなのかと。
「……」
俺は俺の後ろをとぼとぼとついてくる美羽に、視線だけ向ける。美羽もさっきまでの俺と同じように、地面に視線を落とし、ただボーっと俺の後をついてきているだけのような。心ここにあらずと、美羽の様子が今日の仕事でほとんど何も得るものがなかったということを如実に示していた。
「美羽。疲れたか?」
「……うん、少しね。」
美羽は顔を上げずに答えると、少しだけ歩くペースを上げ、俺の横に並んだ。顔は足元に向けたままで。互いの歩調が合わさり、狭い路地裏で誰とすれ違う隙間もないまま、俺たちは歩き続けた。
時折ぶつかる肩。ちょっと触れ合ってはお互いに引っ込める手。美羽の様子を覗うと、まだ美羽の視線は地に落ちているようだった。
本当に疲れてるみたいだな……。
俺は口を噤んだ。これ以上特に言葉をかけることもなく、美羽の家の近くに着くまで。すっかり暗くなった道を、路上の僅かな灯火を頼りに俺たちは歩き続けた。細い路地裏を抜け、灯火がより一層多くなった第二大通りを道なりに進み、また細い路地裏に入り、また抜けて……。
幾度となく同じような道筋を辿り、どれほど歩いたかもよくわからなくなった頃。ようやく俺たちの目の前に、農場に隣接した一棟の平たいサビのような色を
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