第一部
第一章
二人の仕事(2)
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拶を交わして、ボクは二階へと続く階段を登った。
「ふぅ……」
扉をボクが入れるほどに開き、部屋に入って真っ先にランタンに火を灯す。机の上に置いてあるランタンと、ベッド脇の台の上に置いてある、ランタンの二つ。机の上から、部屋全体を仄かに照らし、ベッド脇のランタンが一つ目のランタンの灯りに折り重なるように光を放つ。机。本棚。ベッド。化粧台……とか言われるもの。そして壁のアラベスク模様がランタンの灯りを受けて、より際立って部屋の雰囲気を仄暗く演出していた。
ただいま……。
もう一度だけ、心の中で唱えた。
……そうだ。忘れないうちに日記、書かなくちゃ。
早く汗を流して、ベッドに倒れ込みたいけれど。毎日欠かさずに書き連ねてる日記をなおざりにするわけにはいかない。
ボクは手に持っていたライターをベッドの脇に置き、振り返る。ボクの後ろにある白色の木組みの椅子。ランタンを倒さないように移動し、疲れた身体で椅子に腰かけ、体重をかけるようにして椅子を引いた。
ボクの目の前の机の上に置かれた一冊の古びた予定表。表紙に描かれているデフォルメされた子猫とピンクと水色、きいろの色とりどりの花たち。2032と数字が、右上に書かれている。
今から、もう20年以上も前のスケジュール帳。まだこの世界が正常だった、国というものが存在していた頃の……。昔、恭夜くんと高台にいるときに見つけたもの。元の持ち主が誰かはわからないけれども、その子の色褪せない思い出が、このスケジュール帳の一番最後のページにだけ、色褪せたまま残されていた。
ページを一番最後まで捲る。ボクが書いたところ以外、なにも書かれていないページが続いた、その最後のページ。
……あきらくんとでーと。ゆうえんちへいった。
そんな拙い言葉と一緒に描かれた、カラフルな絵日記。
遊園地って場所で、二人の子供が手を繋いで。たぶん笑ってる絵を描こうとしたんだよね、これ。
笑っているようには見えないけれども、笑ってる二人が一緒にお日様の下で遊んでる。そんな絵。昔ではなんてことはないことだったのかもしれないけど、今じゃこんな絵日記を描ける子なんていない。こんな生活。送れるわけないんだもん……。
この絵日記を見るたびに、ボクの心に芽生える悲しみを帯びた想いが心を蝕む。悲しさが真っ先に駆け巡って。それから段々とこの世界を変えなきゃ、とも思えてくる。
遊園地っていう遊べるところ。昔の本で読んだ覚えがあるの。いろいろな乗り物に乗れて。おいしい食べ物や飲み物、お菓子がいろいろなところで買えて。友達や家族。そして恋人同士で、一日中遊んでお互いの友情。愛情を確かめ合って……。お日様の下で、みんな笑いあって楽しめる世界……。
お日様が見える世界。みんな笑いあえる世界って……想像もできないよ。
頭に思い浮かぶ光景は、どれも白黒で色褪
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